168話 「たかいたか~い その4」
タクシーが部下を爆殺しまくっている頃。ダンディはおやつタイムで疲れを癒していた。
もう訓練の様子なんて全く見ていないのである! だが、メンテのお遊びに参加している部下達は目隠しをしているので気付いていないのであった。
「うまい、絶品だな! ん~、だがちょっと困ったな。口の中がパサついてきたぞ」
「そうなると思い温かいお茶も持ってきました」スッ
「おお、君も気が利くじゃないか。はっはっは、我が家は使用人達に恵まれているようだ。うむ、まだカステラはいっぱいあるな。……よし、訓練の様子を見ながら食べるぞ! 暇な人は皆こっちに来るんだ。ほら座れ座れ。遠慮しなくてもいいんだぞ~」
こうしてメンテの遊びに参加していない部下達が集まった。ダンディの優しさに、タクシーの部下からの評価がどんどん上昇していくのであった。
「このお茶はカステラによくあうな。甘さに苦味が足されていい感じだ。でもこのお茶は濃い味だからメンテが飲むのは避けた方がいいかな。はっはっは、一人で全部飲んじゃうか。……おや? いつの間にかみんな遠くに行ってしまったなあ。全然見えないぞ。まあいいか、タクシーがいるから」
『あたたかい? さける? とーい? ……ダ、ダンディ様が近くで避ける姿を希望してるぞー! よく分からんが情熱? も必要だああああーーーーーーーー!』
『『『了解!』』』
◆
「あくじー!」指プイ
「おや? あれは砂嵐ですな。少し近づいてみましょう」
「えぐぐぐー!」
ボフッ、ボフッ、ボフッっと空中で爆発を起こし横移動を始めるタクシー。もはやジャンプですらなく浮いているのであった。そう、これは小さなジャンプ。あまり気にしてはいけないぞ!
「あえは~?」
「あれは”砂魔法”。土魔法の一種です。どうやら砂隠れをしているようですな」
「すな?」
「ほほっ、上手に発音出来ましたな。よくメンテ様は砂で遊んでいますからな。その砂ですぞ! 砂魔法は、その砂を使った魔法です。水魔法の水が砂になったと言えば分かり易いでしょうか。それぐらい柔軟な魔法といえますな」
「すながくれー?」
「あれ砂嵐を起こすして身を隠す魔法と言ったところですな。先程の擬態や草魔法で隠れるのとは違い、動きながらでも場所がバレにくいのが利点です。なにせ砂嵐で視界が悪くなりますからな。これで隠れるのも逃げるのも同時に出来るというわけですぞ。あのように砂漠エリアで使われると非常に面倒です。この他にも完全に砂と同じ色になって誤魔化すなど厄介極まりない技もありますぞ。でもご安心下さい。そんな砂魔法にも簡単な対処法があるのです」
「ん~、みじゅ?」
「ほほっ、おしいですぞメンテ様! 水は半分正解といったところでしょう。砂嵐の妨害では水は使えます。が、水で砂を固めたところで普通に砂魔法を使える人が多いのです。むしろ砂が重くなった分、大きな砂の塊が作れてしまうのですな。相手の攻撃力が上がる危険性がありますぞ! そんなときは、こうして解決するのです。分かりますかな? ほほっ、簡単な事です。それは――――――――――――――――爆殺です」
ドッカァアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「きゃああああああああああああ!」
「ほほっ、砂なんて爆発魔法で消し飛ばせばよいのですぞー!」
「あえはー?」
「あそこの白いのは霧。これは水魔法と氷魔法を合わせた”霧魔法”ですな。身を隠すだけでなく、霧の中では方向感覚を狂わせられたり、幻が見えたりと非常に厄介です。逃げるときにも攻撃するときにも有利な状況を作る魔法ですぞ。ですが発動に時間が掛かり、範囲を広げないと効果が薄まります。使うなら狭い屋内、または仲間の存在がありがたいですなあ」
「きりぃ~?」
「そうですねえ……。霧は小さい水滴が空中にいっぱいある状態です。詳しくは大きくなったらお勉強しましょう」
「あーい!」
「興味があるのは良いことですぞ。では対処法を教えましょう。相手に使われた場合、一度霧がない遠くまで離れるという手段もありますが、町中のように入り組んだり狭い道では厳しいですな。場所によっては凶悪な魔法とかすのですぞ! このときの簡単な方法が1つありますぞ。心配しないでください」
「あくじー! はあい! えぐえぐ!」バシバシ
「ほほっ。メンテ様は本当に魔法に関して興味津々ですな。では私がやってみますね。それは――――――――――――爆殺です」
ドッカァアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「きゃああああああああああああ!」
「霧なんて吹き飛ばせばよいのですぞー!」
「はあい。あくじーあえ!」
「おや? あそこに人がいっぱい集まっていますな。あそこは火山エリアです。本当に溶岩があると危ないので、温泉を赤くして代用しておりますがな。なかなか効能も良く部下達には人気です。……なるほど、あの地形にいるということは熱い魔法を使うつもりでしょう」
「あつい?」
「そうです。火や熱、私の爆発のような魔法です。周囲が熱い程効果は高まりますからな。心がポジティブになる精神魔法も熱いといえば熱い魔法に分類した方が……? ごほん、それはさておきあそこに近づくのは出来ませんぞ。なぜならメンテ様が脱水症状で死んでしまいますから。困りましたね、これでは踏みつけられませんなあ。いったい何を考えているのでしょう?? あれほど危険なことは禁止と伝えたはずですが……。ほほっ、これはきつーいお仕置きですな!」
「きゃきゃー!」←ニコニコ笑顔
「ほほっ。そうでしょうそうでしょう! では今回は遠距離攻撃用の魔法を使いますぞ!」
「えーきょい?」
「遠くの場所という意味です。離れていても威力が落ちない魔法を使えばイチコロというわけですな。つまり――――――――――――爆殺です」
ドッカァアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーン!! ガガガガガッガアガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ビギュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「きゅああああああああああああああああ!!!!!!」
「ほほっ、爆発魔法で皆殺しですぞ。爆発魔法は離れた所から使うとスッキリしますなあ」
あまりの威力にドクロ雲が浮かぶのであった。なお部下達はギリギリ生存したという。
「はあーい! あくじー!!」指プイ
「ほほっ。あれは身体強化と他の魔法の組み合わせた動きです。ピカピカ光っているのは雷魔法、白く渦巻いているのは風魔法、黒っぽいのは闇魔法でしょうな。属性を付与した身体強化といえばメンテ様にも分かり易いでしょう」
「えぐうううう」バシバシバシ
「ほほっ、もっと知りたいのですか? 雷魔法は反射神経を更に強化。風魔法は移動速度が上がったり浮遊力を付与。闇魔法の場合は回避に使ったりしますな。もちろん全員が同じ効果とは限りません。持っているスキルによって効果は違いますからな」
「あくじーは?」
「私ですか? つまり爆発魔法で身体強化が出来るのかを知りたいのですな?」
「はーい!」
「ほほっ、分かりました。ではご覧ください。――身体強化!」
ぼわっと魔力が爆発的に上昇した。メンテの目でも見えるほど莫大な魔力である。
「このように爆発魔法で魔力を爆発させることが可能なのです!」
「えぐ?!」
「この爆発した魔力をさらに爆発させ、もっともっと魔力を大きくしていきます!」
「えぐぐ?!」
「これを繰り返せば相手に合わせた程よい身体強化の出来上がりというわけです。これが爆発魔法の身体強化ですぞー!」
「きゃきゃあああああああ!」
「ですが、このまま動くとメンテ様は私の動きに耐えきれず吹き飛ばされてしまいます。私のように爆発耐性のあるスキルがありませんからな。そこで爆発防御魔法を使います。……ほほっ、出来ましたぞ。これでメンテ様も私と一緒に動けますな。爆発魔法とは攻防一体の魔法ですぞ!」
「きゃきゃーーーーー! あぐじー!」バシバシ
「ほほっ、もう少しお待ちくだされ。今度は爆発魔法で相手を誘導しますので!」
ボーン! ボーン! ボーン! ボーン! ボーン!
「避けられるのを前提に火力も控えめにするのがポイントです。ほほっ、3人が一直線に並びましたな。では爆発魔法で相手の思考を爆発させましょう」
「えぐぐぐ?!」
「ほほっ、驚くことではありませんぞ。これも普通の爆発魔法ですから。ほら動きが止まりましたな。今がチャンスですぞ。では爆発魔法で強化した魔力を全てを移動速度に注ぎます。これで爆発的な速度で踏み潰せます。では行きますぞ。ホップ、ステップ、爆殺ー!」
「おっぷ、すっぷ、ばくさちゅー!」
ドガ、ドガガガ、ドッゴオオオオオオオオオオオオオン!!
「ほほっ」
「きいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああ!」
目に見えぬ速さで部下を踏み潰すタクシー。一撃で意識を奪う強烈な踏みつけに悲鳴なんて出ないのである。なんだかジェットコースターみたいだと興奮するメンテである。
いやいや、その爆発魔法はおかしいだろと思ったそこのあなた、安心してください。あなたは普通の人です。さっきからおかしいのはタクシーだけです。メンテは魔法の常識を知らないピュアな赤ちゃん。おかしいと分からないのですぐ喜んじゃうんです。こればかりはどうしようもないので諦めましょう。
「あくじー、あえ。あえは?」指プイ
「ほほっ、精霊をフルパワーで使っていますな。あそこまで身体を強化すると目隠ししてもしなくてもほぼ変わりません。この場合も私の爆発魔法で……」
……と、部下を全滅させるまでタクシーの爆殺は続いたという。
「……おや? もう部下がおりませんぞ。仕方がありません、今日はこれでおしまいにしましょう」
「えっぐ! きゃきゃきゃー!」
「ほほっ、楽しんで貰えて何よりです。爆発魔法ばっかり使ってしまいましたな。今日のように得意な魔法が1つでもあればだいたい何とかなるものですぞ。もちろんたくさん魔法が使えることも素晴らしいですが、1つの魔法を極める道も悪くないでしょうな。どちらが合うかはメンテ様次第ですなあ」
「はあーい!」
するとメンテは魔法のポーズっぽい動きを始めた。まるでタクシーが魔法を使っている動きの真似であった。そのとても可愛い姿にタクシーは微笑んだ。
「ほほっ、メンテ様はいったい何の魔法が使えるのでしょうなあ。魔法が使えるようになった際、練習のお手伝いは私にお任せください。一緒に部下で試し打ちをしましょう」
「はーい!」←めっちゃ元気に返事
「ほほっ。メンテ様は本当に可愛いですな。そろそろ旦那様のところに戻りますぞ」
「きゃきゃ!」
魔法の知識が増えて大満足したメンテであった!
◆
「ぱぱあー」トテトテ。
「おお、お帰りメンテ。楽しかったかい?」
「はあーい!」
「そうか。それは良かったな。またお兄ちゃんお姉ちゃん達に遊んでもらおうな。そうだ、メンテの好きなお菓子があるぞ~」
「きゃきゃきゃ! ぱぱぁー」ぎゅっ
「はっはっは。みんなで一緒に食べようじゃないか。みんなお疲れさん」
「「「「「「「「「「――!」」」」」」」」」」
やったー、みんなクビを免れたぞー! 盛大に勘違いした部下達は内心喜んだという。今日もナンス家の使用人達は、ナンスおよびタクシーに振り回されっぱなしであったという。




