162話 「1歳7か月」
前回までのお話
猫の姿で町に行ってみた。
「それー!」
「きゃきゃきゃ!」
「えへへへ!」
仲良く走り回るアーネとメンテ。その様子を眺めるレディー。
「二人とも仲が良いわね。でも動き回っているせいか汗だくね。……フフッ、丁度良さそうだわ。アーネ、メンテちゃん。二人ともこっちに来なさい」
「なにママ―?」
「きゃきゃー」
「二人とも汗をかきすぎよ。シェフさんがお茶を作ってくれたから飲みに行くわよ」
「わかったー」
「えぐぐ!」
そして、食堂に向かう3人。
「いっぱいあるー!」
「ちゃ?」
「フフッ、そうよ。これは全部シェフさん達が作ったお茶よ」
食堂には、お茶の葉っぱとお茶の入った容器がいっぱい並べてあり、シェフが子供たちが来るのを待っていた。興味津々な二人にシェフが解説を始めた。
「なんたって今はオイシイチャノキの収穫時期ですからね。この葉っぱがオイシイチャノキです。全部うちで採れた葉っぱなんですよ」
「これ全部?!」
「こえちゃ?(これお茶?)」
「すごい量でしょ。この葉っぱがお茶になるんですよ」
「すっごーい! これ全部お茶になるんだー」
「ちゃー!」
「いっぱいあるのでいろいろ試してみました。ここに出来たてのお茶がありますよ」
「何したのー?」
「えぐぐ?」
「まずはこれをどうぞ」
シェフはお茶の入った容器を持つと、コップに注ぎ込んで二人に渡した。メンテのコップにはストローが付いている。これがないとよくこぼすからだ。
「なんかこれ黒いよー?」
「ちゃー?」
「発酵させたり加熱の違いで色や味が変わるんですよ。ほら、飲んでみてください」
「ごくごく……あ、ちょっと違うー! これ飲みやすい」
「えぐ……(なんか前世のお茶を思い出す味だなあ)」
「おいしいでしょ。みんなで作ったんですよ。ほらあそこに」
食堂の入口を指差すシェフ。そこには一緒にお茶を作った料理人達がいた。
「フフッ、みんな隠れてないで出て来なさい。一緒に飲みましょう」
『ざわざわ』
「えへへ、みんなで飲むとおいしいね」
「えっぐ」
それからみんなでお茶を飲み比べるのであった。汗だくなアーネとメンテはごくごくと飲みまくっていった。
「フフッ。二人ともおいしかった?」
「おいしかったー。私はこれが一番好き! だって甘かったもん」
「それは良かったわね。また作って貰いましょうか」
「やったー!」
「ひゃっほおおおおおお」
アーネに好きと言われた料理人はめっちゃ喜んだ。
「メンテちゃんはどれかな?」
「ん~……おぱい?」
「あらあら、おっぱいが一番なの? フフッ、どれが要らないかってママ聞いていたのよ。これで卒業かしら」
「……」←スッっと無言でお茶を指差すメンテ
「あら、どうしたのメンテちゃん? 急に指差して。ママのおっぱいじゃなかったの? ほら、もう1回言ってみなさい。遠慮せずにほら!」
「……」
泣きそうな顔をしながらテキトーなお茶を指差すメンテ。必死である。
「……」←無言でレディーを見つめるメンテ
「フフッ、冗談よ。次ふざけたら本当に卒業させるけどね。……それでこれがおいしくなかったの?」
「えぐえぐ」コクコク
「う、嘘だろ……」
近くで副料理長のクックが愕然とした表情でこちらをメンテを見ていた。彼はメンテがとてもおいしそうに飲んでいたのを見ていたのだ。しかも何回も飲んでいるのも知っている。それなのに一番まずいお茶だと断定されるとは思わなかったである。可愛そうなことに彼はメンテのおっぱい被害を受けたのであった。
「何回も飲んでいたのに……」
「だ、大丈夫ですよ。大人には分かる味なんで」
「そうですよ。これおいしいですから!」
「これ他の料理で使えそうですよ!」
「おう……」
まずいと言われたせいで急に老け込んだおじさんみたいになったクック。あまりの落ち込みように周りの人達が必死にフォローしたという。
「えっと……、私もこれ(クックの作ったお茶)おいしいと思ったわよ。メンテちゃんは赤ちゃんだし好みの違いかしらね。じゃあメンテちゃん、一番好きなお茶はどれなの?」
「……えぐ」
「これがいいの?」
「はあい!」
メンテが指差したのは、緑色の苦いお茶である。日本のお茶だと緑茶に近い味だ。
「ん~、ママはこれ子供には合わないと思うわよ?」
「そうかなー? これ味があっておいしいかったよ」「えぐえぐ」
「え、二人ともそうなの?」
「うん!」「えぐえぐ!」
「……本当かしら? 大人でも苦いと思うんだけどなあ。二人とも変な所だけ似てるのよね。ん~、そこは兄弟らしいわね」
「今後はちょっと薄めてこのお茶を作りますね。もうちょっと大きくなってからこの味にしましょう」
「あら、シェフさんありがとう」
気が利く男。それがシェフなのである。というよりこのお茶を作ったのがシェフなのだ。ちょっと嬉しそうにしていた。
「いえいえ。最近のメンテの坊ちゃんは、味に興味を持っているようですしね。こちらとしては作っていて楽しいですからねえ。いやー、作り甲斐があるってもんですよ」
「初めて見た物でも躊躇せず食べるから私も苦労しないわ。ちゃんと成長している証かしら。……その割に小っちゃいけど」
「う~ん、確かによく食べるのに小さいままですね」
「そこが不思議なのよ。まあそこがメンテちゃんらしくて可愛いんだけどね」
「話は変わりますが、このお茶を使って新しいデザートでも作ってみたいのですが……」
「あら、面白そうじゃない。あとで私に食べさせてね」
「へい、頑張ります!」
メンテ1歳7か月。体は小さいけど順調に成長中である!
◆
「えぐぐぐぐー!(猫魂ー!)」
いつも通り夜中は猫の姿になる僕メンテ。今日もあることを頑張ります!
「ふぅ……。疲れたぁ~」
「あら今日は一人で何をしているの?」
「ちょっとシロ先生そこに止まって。猫強化!」
「えっ」
「どう? 何か違わない??」
「ど、どうって言われても……。前に掛けて貰ったときとあまり変わらないかしらねえ」
「そっか……。もっと鍛えないとね」
「どういうこと? さっきから全然事情が分からないの」
「僕ね、ギルドに行こうと思ってるんだ!」
そうなんです。僕冒険者に目を付けたのですよ。
「へえ、そうなの。夜中に出かけるのかしら?」
「うん。だから冒険者に見つかっても対処出来るように魔法を鍛えてるんだ!」
「へえ。頑張ってね」
「もちろんシロ先生も一緒に行だよ!」
「……そ、そう。そのうち行きましょうか、そのうちね。今日は嫌よ」
「うん。もっと訓練頑張るね!」
「もっとゆっくりでいいのよ? ね? ……ダメだ、全く話を聞いてないわね」
あまり行きたくなさそうなのシロ先生であった。それからシロ先生が離れて一匹になってもメンテは訓練は続いていた。
「ギフト!」
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【 】
年齢 1歳
性別 男
称号 なし
所持スキル
・暴走
・猫魔法
・エッグ
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「ん~。何も変わらないなあ」
僕のギフトに変化はありませんねえ。エッグが割れてスキル増えないかなあと毎回楽しみに開いていますよ。でも今日はもういいやとギフトを閉じて訓練を再開します。
「……」
僕は静かに魔力を体から溢れさせます。でもその魔力の大きさにはムラがあります。出力の違いとでも言えば良いのでしょうか。毎回バラバラになってしまいます。この段階から上手にコントロール出来ていないのです。まずはこのムラをなくし、魔力を毎回均一に出せるようにします。
「……ふぅ」
何回やっても上手にいきません。いやはや、これが結構難しいのですよ。魔力をいかに上手にコントロール出来るようになるのか。それが魔法を使うときに影響します。すなわち僕の猫魔法の強化につながると言う訳です。
ではゲームで例えてみましょう。ある魔法を使うとポイントを10消費するとします。僕の場合は、その魔法を使っても10~13消費して同程度の魔法が出るのです。しかも13使っても10とたいして効果は変わらないという。とても無駄が多いと思いませんか? 30ぐらい魔力を消費するとさすがに威力は上がりますが、消耗が激しくなるので問題になるのです。どうせなら最少の10をずっと出し続けたい。今そういう訓練をしています。
魔法を使うのに必要最低限の魔力を身体から生み出す、つまり魔力の消費を最小に抑えるための訓練というわけですね。これが上手になれば無駄がなくなり、効率よく魔法を使えるでしょう。使える回数も大幅にアップしちゃいますし。
「ん~、難しい。たまにしか成功しないなあ。じゃあ今度は別のことをやってみよう」
今度は魔力をしっぽだけに集中させます。これは全身の魔力の流れを制御する訓練しているのです。こうすることによって魔力操作を鍛え、集めた魔力を無駄なく魔法に変換します。使わなかった余った魔力は、身体の中に戻らずに消えちゃいますからね。ここも無駄をカットしたいわけです。
「……結構いい感じかも?」
初めて魔法を使った時と比べると、多少はましになってきたのではないでしょうか? でもまだまだ足りない気がします。
大人の冒険者となると、魔法の使い方も一流の人が多いはずです。タクシーのようにすごい人がいっぱい集まる世界、それがギルドでしょう。冒険者のランクによる強さはよく分からないけど、町が破壊されても皆ピンピンしていました。きっとこの町には強い人ばっかりいるんだろうねえ。
「はぁ~、疲れた。でももっと強くならないと……」
僕はまだ魔法を使って半年ぐらいの子猫ですからね。しっぽや爪を伸ばしたり、結界を作ったり、変身を使えたり、近くの猫を強化させたりぐらいしか出来ません。あとはブレスやレーザーや空間を破壊するぐらいしか使えないからねえ……。これでは自己防衛も難しいはず。シロ先生も同行させるならもっと強くなるべきです。
まあ僕は天才ではないので、こうやって何度も同じことを繰り返して身体で覚えるしかありません。ギルドに行くと決めたあの日から、毎日夜中に起きて頑張ってます。もはや夜の日課です。
「よし、頑張るぞー!」
こうして秘密の訓練は続くのであった。メンテ1歳7か月。体が小さいのは、夜中にこうやってエネルギーを使いまくっているからかもしれない。




