152話 「1歳ハーフバースデー その4」
シロ先生が猫達を集めるのには多少時間が掛かるので、その間は粘土で遊びます。では祖父母も一緒に遊ぼうと誘ってみましょう。
「ばあばー、じいじー」
「あら粘土じゃないの。懐かしいわね」
「ぱぱあくじぃー。えぐえぐ」
「え、ぱぱ? あくじい?」
「うむ、わしも分からん」
「フフッ。パパとタクシーに作って貰った言ってるのよね?」
「はあい!」
「はっはー、そうなの。良かったわねえ~」
「たまにはダンディもいいことするもんじゃ」
「全くよ」
僕がしゃべれなくても誰かが説明してくれると楽ですな。これを使って祖父母を喜ばせますよ!
「はあい、あーえ」
「何メンテー?」
「はーい」
「え、これくれるのー?」
「はーい」
「なにこれー(笑)」
まずはアーネによく分からない丸い物体を作って渡します。
「はあい、あいきー」
「今度は俺?」
「えぐー」
「メンテありがとう。で、何これ?」
次に粘土をちぎってぽいっと兄貴に投げ渡します。すさまじく雑に。
「まんまあー」
「フフッ。何をくれるのかしら」
「はあーい!」
母にはコネコネした何かを渡します。何かを作ったの感を出してね。
「フフッ、プレゼントかしら。何を作っているのか分からないけど」
「そうなのねえ。もしかしてメンテちゃんはものづくりに興味があるのかしら? なんだか楽しそうに作ってるわよ」
「フフッ、そうかもしれませんねえ。実はこの粘土は美肌効果があって……」
「ええ、何それ?! ちょっと待って……、もしかしてこれ普通の粘土じゃないの?!」
「そうなんですよ。見ていてください、こうやって魔力を流すとほら!」
「ええええ?! ちょっとどうなってるのこれ???」
「ダンディの作る物に普通はないからのう……。そういうことじゃないか?」
「いやいやいや、これ商品化してもいいんじゃないかしら? 絶対売れるわよ!」
祖父母は粘土に興味津々なのです。僕の狙い通りなのですよ。
そろそろ本番とでもいきましょうかねえ。僕はじぃーっと祖父母を見つめます。しばらく待っているとおしゃべりが終わってこちらに気付きます。目が合うと僕が二人の名前を呼びます。
「ばあば。じいじ」
「あらメンテちゃんごめんね」
「うむ、すまんかった」
「えぐえぐ」
いいよいいよと答える僕です。そして、大きな粘土のかたまりを祖父母の前にどーんっと置きます。二人に見せつけるようにコネコネします。
「フフッ。何か作ってるわね。今度はお義父さんお義母さんへのプレゼントかしら」
「え、何か作ってくれるのね?! 帰ったらお家に飾らなきゃ!」
「メンテからのプレゼント……。うむ」
祖父母をくぎ付けにする僕です。祖父母達だけではなく、母や兄弟も僕の様子を見ています。まさにやるなら今ですね。僕の本気を見せつけますよ!
では、本番を開始します。
「……………えぐぐうううううううううううううううううううううううう、おぱあああああああああああああああああああああああああああああおぱおぱおえぐうううううううううううふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「「「「「――?!」」」」」
突然メンテから放たれた奇声。さらにメンテの身体から溢れだす魔力。それに反応した粘土がぐにゃあ~っと変形していく。何もかもいきなりすぎて、誰も何が起きているのか分からなかった。誰も理解出来ないまま粘土が作品として出来上がっていく。
「ぱああああいぱいぱいぱいあいいあいいいあいいいあいいあふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! きぃえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!! ……はーい。ばあば、じいじ」
そして、出来上がったのは人の顔。それは粘土で出来た3D祖父母であった。
髪の毛や眉毛が1本1本細かく存在し、肌の色もそっくり。なお首から下はない。粘土で1歳の子供が作りましたと言って誰も信じる人はいないだろう。明らかにさっきまで作っていたのとはレベルが違いすぎる。無駄にハイクオリティな作品である。これを見せて驚かせるのがメンテなりの祖父母に対する忖度である!
あまりの衝撃に誰も声を発する者は存在しない。だが、だんだんと状況を理解し始める。ああ、すっかり忘れていたけどダンディの息子だったなあと。
「ええっと……、よく頑張ったわねメンテちゃん。二人とも喜んでいるわよ」
「そ、そうねえ。すごいわね!」
「う、うむ。この作品がリアルすぎて驚いてしまったわい」
「えっぐ」←ニコニコ笑う
「……」←メイク
奇声を上げているときの雰囲気と違い、いつもの可愛いらしい赤ちゃんに戻っていた。この光景にメイクは既視感を覚えた。目を閉じながら過去のあの出来事を思い出す。
◇
ダンディがメンテと同じぐらいの年齢だった頃のお話。
「ダンディ、御飯よー。……? どこに行ったのかしら。ダンディー、出ておいでー!」
家の中を探し始めるメイク。ガサゴソと音がする方角に行ってみると……。
「あ、ここにいたのねダンディ! もう何をして……ん?」
「はっはっははははははきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「きゃああああ?! それお客様から預かった魔道具じゃない?!」
「きぃよおおおおおおおおおえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ、ふふうふふふっほほおほほほほっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
突然奇声をあげて魔道具を分解し始める赤ちゃんの姿があった。そして、分解した魔道具を床に叩き始めた。
「ちょちょちょ、ちょっとダンディ! その手を離しなさい!」
「ははははっはうぅううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン! バキンッ!!!
◇
「……」
「お義母さん、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないのよ。ちょっと昔のことを思い出してねえ……。小さい頃のダンディとそっくりで驚いちゃっただけよ。やっぱり親子って似ちゃうのかしらねえ。変な方向に育たないといいけど……」
「うむ……」
将来に多少の不安を覚えた祖父母であった。
「じいじばあば、それ見せてー!」
「俺も俺もー。うわ、すごっ……?! メンテどうやって作ったの?」
「……えぐぅ?」
「メンテちゃん今何をしたの? ママも知りたいなあ」
「うぐ~?」
「メンテちゃんがすごいのか粘土がとんでもないのか……。もしかしてメンテちゃんはこの粘土の秘密を知ってるの? もし知っていたらばあばに聞かせてくれるかな?」
「んぐぅ~?」
「そっかあ。メンテちゃんには分からないわよね~。……あとでダンディに問い詰めないと」
「……不安じゃ」
それから何を聞かれてもおとぼけ顔で誤魔化すメンテ。こうして時間が経ち、1匹の猫が戻ってきた。グレー色の猫で、メンテにグレーと呼ばれている。知り合いの猫達の中で走る能力が高いため、連絡役として重宝されているのだ。
「メンテー。準備出来たぜ。シロ先生はあっちでみんなに指示するってさ」
「えぐ~(了解~)」
ふむふむ、猫達も準備が出来たようですね。
「うぐぅ……(でもその前に……)」
「にゃ?」
「えぐえっぐ(僕のじいじとばあばに挨拶してね)」
「え、今からやんの?」
「はあい(はい、寝ころんでお腹みせるポーズ!)」
「……御意」
こうしてメンテの指示でグレーは祖父母に媚び始めたという。
「この猫も人懐っこいわ~」
「うむ。それにさっきまでいた猫と違う猫のようじゃ」
「本当に複数いるのね。この辺も生き物が住めるぐらい平和になったってことかしらね」
「そうだといいがな」
ふむ、悪くない反応ですね。これで祖父母も猫に良いイメージを持ってきたかな? では僕も動きましょう。
「ばあば! じいじ!」
「どうしたのメンテちゃん?」
「どうしたんじゃ?」
「おと。あんぽ。さんお。さんぽー!」
「「さ、散歩?」」
次回、猫と祖父母の交流が始まる!
 




