149話 「1歳ハーフバースデー その1」
前回までのお話
1歳半の状況を確認した。
今日は、メンテの1歳と半年となる日である。
「ふむ、久しぶりじゃの」
「みんな来たわよ~」
メンテの祖父母であるメイクとイブシが、コノマチまでやって来た!
「じいじー! ばあばー!」「じいじ! ばあば!」
「ふむ」「あら~、大きくなったわね」
だだだだっと走るアーネとアニーキ―。今日の二人は、いつもの格好と違ってスポーティーな服装をしている。これは祖父母とすぐに遊びたい気持ちをあらわした衣装である。
アーネはどっちでもいいから一緒に遊んでほしい、アニーキ―は祖父母に魔法を見てほしいと動きやすい服装なのだ。ちなみにアニーキ―が自分で選んだ服は、ダサいから母に却下された。さらに末っ子が、そのダサい服をゴミ箱に捨てるという見事な連携プレーをみせたとか。
アーネとアニーキ―の二人は祖父母に近づき、ぎゅっと抱き着いた。それに合わせて感動的な音楽を演奏する使用人達。場を盛り上げようとするこの演出は、全てレディー考案だ。昨日は使用人全員でその練習をし、メンテもしゃべれるようになる訓練を受けた。はっきり言ってこれは茶番なのである。
そして、トリを飾るのはこの男。
「……ちゃちゃあ~」ニコニコ
ナンス家の末っ子ことメンテである。今日もおっぱいタイムを楽しんで元気いっぱい。いや、元気おっぱいな赤ちゃんである。
彼は小動物を思わせるような可愛らしい恰好をしている。もっと甘えさせてと言う願望のあらわれである。さらに最近あまり使っていないおしゃぶりと、いつも遊んでいる魔力ボールを持っている。それだけでなく普段あまり出番のないよだれかけをし、いつも以上に赤ちゃん感が満載なのである。
普段と違う理由はただ1つ。そう、今日は祖父母と孫が楽しむ会だからだ!
祖父母は中々会えない孫たちのことを思っていた。たまにしか会えない孫の様子が知りたい。アニーキ―は魔法が上達し、アーネは色々勉強して賢くなっているという。さらに一番下のメンテはしゃべれるようになったと聞いたときは、すご~く会いたい気持ちになった。最後に会ってから約半年過ぎている。その間も子供はぐんぐん成長していくのだ。
出来れば孫の成長していく姿を見ていたい。そう思っていたところをレディーに見抜かれ、今回の1歳ハーフバースデーが開催されたのである。なお開催費全ては祖父母持ちである。ある意味メンテのずる賢いところは、母親に似ているということであろう。いや、そう思いたい。
「いいメンテちゃん? おじいちゃんとおばあちゃんに上手に甘えてくるのよ」
「ちゃちゃちゃ~。えぐぐぅ!」
祖父母が来る直前までおっぱいタイムがあったため、今のメンテはとてもご機嫌ちゃんである。もちろんこれもレディーの計算通りであったりする。
「じっじー、ばっばーぁあああ!」
トテトテと走り出すメンテ。彼はぴょんぴょんと上に跳ねるように走るため、歩く時も走るときもスピードは変わらないのである。だがそれこそ今回のポイント。一生懸命走る姿を祖父母に見せつけているのだ。ちょっと成長したでしょ感を出すレディーの策略である。
「おお、メンテが来たぞ」
「ちょっと今の聞いた?! 名前を呼んでくれたわよ!! きゃああああああああああああ、メンテちゅわあああああん!」
名前を呼ばれて大興奮の祖父母である。おもにメイクだけだが。そして、メンテはトテトテと進み祖父母の前に着いた。
「だっこー!」
下から顔を見上げる小さな姿は可愛いものである。さらに手を伸ばして抱っこを要求する。特に演技をしなくても天然のじじばばキラー。それがメンテだ。
「ふふふっふふ。大きくなったわねえ。……大きくなったのかしら? 重さはあまり変わっていないような気が」
「……ばあば?」
「あら、もしかしてばあばのこと覚えているの?」
「ちゃちゃ!」
「あらやだもう。アニーキ―やアーネはすぐ忘れちゃったのにメンテちゃんは覚えてるのね! 身体の成長こそ遅れてるけど頭は賢くなっているってことよ!」
「ちゃあ~」
メイクばあはちょろかった。
「ちゃちゃちゃちゃ」くいくい
「どうしたのメンテちゃん?」
「じいじ。じいじ」指プイ
「ん、じいじがどうしたの?」
「だっこー!」
「あら、よかったわねえ。抱っこして貰いたがってるわ」
「そうか。メンテよ、こっちに来なさい」
「ちゃあ~」
「……孫は可愛いのお(ボソボソ」
イブシも案外ちょろかった。
「ずるいー! わたしも抱っこしてー!!」
「じいじオーラで俺を持ち上げてよ!」
「みんな元気そうね~。ばあばはね、みんな持ち上げると疲れちゃうからじいじの出番よ。ほらほら」
「ほれ。どうじゃ」
「「あはははは!」」「きゃきゃきゃ!」
祖父母は末っ子に好かれているのを知り、はしゃぐのであった。まさにレディーの作戦通り理想の展開であった。恐ろしいの一言に尽きる。
「ほほっ。これはチャンスなのでは?」
「はっはっは、そうだな。機嫌が良い今しかないな!」
「よーし、いくぞタクシー!」
「ほほっ。お任せください」
だが、この流れを利用しようとする輩もいるのである。それが、ダンディとタクシーだ。なおこれはレディーのプラン外の行動である。もう嫌な予感しか感じさせない二人なのだ。
「母さーーーーーーーん! 実験が失敗しちゃったからお金頂戴!」
「ほほっ。もう素材がすっからかんですな。でも全てはメンテ様のために魔道具作りに必要だったのですぞー!」
ガシッ!
イブシの銀色のオーラが大きな手の形となり、ダンディの頭をガッシリ掴んだ。さらに少し持ち上げて地面から足を浮かせた。すぐに逃げられない拘束状態である。そして、オーラが動いて祖父母の前に連行された。
「ダンディ、今なんて言った?」←グワッと目を見開くメイク
「新しい魔道具作りの実験でお金がないんだ。メンテのために作ろうと……」
「……孫をだしに何でも貰えると思ってるの?」
さっきまでの嬉しそうな雰囲気が一変、すさまじい形相でキレるメイクである。そして、表情こそ出ないがイブシもやや怒り気味であった。
「はっはっは。お金じゃなくて素材でもいいからさ」
「その話詳しく聞きたいのう。それとギルドの件もの」
「父さんは厳しいなあ。その話ならタクシーだ! おい、タクシー! ……ん?」
ダンディーが顔の角度を変えると、そこにはレディーとキッサの魔法で拘束されている執事の姿があった。
「タクシーさん、今の話本当かしら?」←レディー
「私も初めて聞いたわよ? どういうことよ?」←キッサ
「……ほほっ。ある魔道具を大量生産しようとしたところ、お店が半壊しただけで」
「「はあっ?!」」
こっちはこっちで大ピンチであった。
「Oh……」
「ほれ、よそ見をする出ないわ」
「ぐぉっ?!」
ぐいっとイブシのオーラで、顔の位置を強制的に祖父母の正面に戻されるダンディである。父親のピンチを感じ取ったメンテは、ここで動きを見せる。
「えぐ、えぐえぐ!」バシバシ
「ん、どうしたメンテ? ばあばの所にに行きたいのかの?」
「はぁい!」
「はいはい。おばあちゃんのところへおいで~」
「きゃきゃ~」
「メンテちゃんは可愛いわねえ」
メンテは、メイクばあば抱っこしてーと要求をする。赤ちゃんは他人の空気を読まず自由なのだ。すごい形相だったメイクも、孫の前では穏やかな表情に戻っていく。なおこの行動はメンテの天然のものだ。すごく可愛い。
「じ、じいじ止まってるよ!」
「じいじー。もっと高い抱っこしてー!」
「うむ、今取り込み中なんじゃがの……。ほれ」
「「わはははは」」
メンテを皮切りに父親を助けようと孫達も協力し始めた。このままではレディーのプランが壊れてしまう。おねだりをするために祖父母の機嫌を戻さねばと思ったアニーキ―咄嗟の行動である。なおアーネはそこまで深く考えてはいないピュアハートの持ち主であった。
ダンディは、心の中でナイスだ我が子供達と思っていたという。
「ばあば、おあえ」
「え? メンテちゃんなあに?」
「おあえ。あえ、あえ、おあえ!」
「えっと……ね。ばあばはね、おあえが何を言ってるのか分からないのよ。ごめんね」
「ううう、えぐぅ……」
「えっとね、多分メンテはお土産って言ってるんだよ」←アニーキ―
「え、ばあばお土産くれるの? やったー!」←アーネ
「そ、そうなの……? でもお土産はお家に入ってからね」
「えぐう!」「「いえーい!」」
孫のおねだり作戦大成功の瞬間であった。
「みんな良かったな! ところで母さん、私にも何かないのかな?」
「……あるわけないでしょ?」
「はっはっは。厳しいなー」
「話はあとでじゃ。逃げる出ないぞ」
「はっはっは……」
ダンディは孫がいない時に怒られることが確定したのであった。こうしてダンディはオーラから解放されたのだが、メンテは突然何かを言い始めた。多分おねだりである。
「ばあばあああ。あえ、あえ。おあえー!」
「お家の中でねー。でもメンテちゃんは何が欲しいのかしらね?」
「あえ。あえあえ!」
「さっきから言ってる”あえ”って何かしら?」
「さあのう。そういうオモチャでもあるんじゃないか?」
「食べ物かしらねえ。まあ赤ちゃんが欲しいものなんて気分しだいでしょうし」
「そうじゃのう」
「ばあばあえ。あえ……、かね。おかね! 金! お金ー!」
「「……えっ」」
「おお、さすがだメンテ! お金って言えるようになったなんて偉いぞ。ほら、母さんお金だ。お金をくれって頼んでるぞ! はっはっはー!」
「「ダンディーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」
メンテのおねだりは火に油であった。このあと、ダンディおよびタクシーはめっちゃくちゃ怒られた。




