14話 「町にお出かけ その5」
魔道具を見て回ることになりました。
僕はタクシーさんに抱っこされながら店の中を歩いていきます。本当はニンさんの胸に飛び込みたいのだけど離してくれないんです。暴れると危ないからとしっかり抱きしめてきます。完全にお手上げですね。
ニンさんはアーネに商品の説明をしているので私にも理解できました。アニーキ―は一人で店内を散策し始めました。
「この絵はなあに?」
「アーネちゃん、それはパズルというおもちゃの魔道具ですよ」
「ぱずるー?」
「パズルというのは謎解きですね。この絵をよく見ると線があるでしょ?」
「ここと、ここと、ここといっぱいあるよ」
「線いっぱいあるでしょ、よく気づいたねえ。ちょっと見ててね」
ニンさんは絵をひっくり返しました。ガラガラと音がすると絵がバラバラになっていました。
「ニンが絵をこわした。ママ、パパー」
「ちょ、アーネちゃん?! 違うの、これは違うのよ」
なんてことでしょう、アーネはとても恐ろしい子ですね。
この店で一番偉いのはナンス家、つまり僕達の両親です。アーネは事実上の死刑宣告を繰り出したのです。両親は笑いをこらえているのが分ります。タクシーさんはお腹がプルプルと震えていますが、顔には一切表情は出ていません。僕の中でタクシーさんの株がどんどん上がっていくよ!
「アーネちゃんよく見て、ほらほら。これをこうすると」
「絵がくっついた?」
「絵がくっつくの。これは壊したのではなくバラバラにして遊ぶのよ」
「何でバラバラにするの? ニンはこの絵が嫌いなの?」
「ぶふぅ~(笑)」
心が純粋なアーネには全然伝わっていません。ついつい僕も笑っちゃいました。
「えっとねアーネちゃん、このパズルは絵を完成させる謎解きゲームなの」
「ニンはこわしてたよ?」
「壊したのではなくてもともとの形に戻したのよ。でね、この一つ一つをピースというの」
「ぴーす?」
「このピースを合わせるとほら!」
「それさっきの絵?」
「そうそう。アーネちゃんわかってるじゃない。こうやってピースとピースをくっつけていくと絵になるの。全部合わせるとほらね」
「こわれたのもどったー」
アーネが少し興味を持ち始めました。
「今度はこっちをやってみようか。何の絵ができるでしょう」
「ん~? わかんない」
「一緒にお姉さんと完成させてみましょうか」
「パパママー、ニンがこわした絵をもどすね」
「……ニン壊しちゃったからアーネちゃん手伝ってー。アーネちゃんだけが頼りなの、お願い」
ニンさんは、ピュアハートすぎるアーネに折れました。アーネに話を合わせ始めましたね。
「わたしお姉ちゃんだから頑張るー!」
「それじゃあこのピースとこのピースを合わせてみようか」
「こっちは?」
「それは形が違うから合わないね~」
初めてのパズルに困惑しながらもアーネは絵を完成させました。もう1回するというアーネは何度も同じパズルをやっています。ちなみに10ピースなのですぐに終わります。ニンがアーネを誉めまくると次の絵もやりたいと言い出しました。
アーネはどんどん上達していきますね。一度興味を持たせると子供はすぐ覚えます。
確か日本ではジクソーパズルという名前でしたね。それと同じような物にしか見えないので、魔道具というより玩具にしか見えませんな。
最初こそアーネを見ていた父と母とタクシーさんですが、今は他の店員にベビーカーの説明をしています。実際に使ってみてどうだったとか改善点について話をしています。
僕はアーネを見ながら、耳では大人の会話を聞いているとんでもない赤ちゃんですからね。
「アーネちゃん。パズルを片づけるときはここに魔力を送るの。やってみる?」
「やりたーい、えい」
「はい、戻った―」
「おおー! すごーい。もう一回やるね」
「えぐううううう?!(何あれ?!)」
これは非常に驚きました。魔力を込めると自動で絵が完成するようです。前世にあった世界のパズルと違って、後片づけをやってしまう便利魔法があるようです。これは完全に一歩先に進んだ技術ってやつです。参りましたね。
「メンテ様が何か訴えていますなあ」
「はっはっは、自分でベビーカーを動かしたいのだな」
「メンテちゃんは本当に魔法が大好きね」
「うぐぅ?」
……ごめん、アーネの方見てたから大人たちの話は全く聞いてなかったよ。
どうやらこの異世界の魔道具とは 魔法の道具 を略したものらしいです。
この異世界の魔法とは便利な力ですねえ。