139話 「子猫は外に出たい その3」
荒ぶるキッサのいる食堂から離れる猫達。ついでに食堂と繋がっている厨房についても説明するメンテである。
「みんないい? 厨房は夜でも近づいたらダメだよ。もし誰かに見つかったら盗みをしてると思われるからね。餌が教会レベルにしょぼくなっちゃうよ。これは連帯責任。1匹の行動がみんなに迷惑をかけるんだ。分かった?」
「「「「御意!」」」」
厨房のそばにも外へ出る入口はあるのですが、これは食材の運搬をするためのドアなのです。ドアだけではなくシャッターみたいなサイズのもあるけどね。
ここは近づいてはダメだと猫達に教えるのも僕の務め。僕も猫の姿のときは近づかないように気を付けましょう。それにしてもこういうときだけ御意を使う猫達は可愛いですね。基本的に普通の会話では使いませんから。
「よし。じゃあ次はこっちに行こうか。猫探知!」
「「「「にゃあああ!」」」」
僕は猫探知を使いながら安全な道を進んでいきます。今いる廊下は散歩でも使わない場所ですね。気になったので探索しようと思います。
「僕ここは初めて来るなあ。みんなはこの場所知ってるの?」
「さあ」「知らにゃい」「初めて来たよ」
「なんかメイドっていう人間がここをよく出入りしてるの見るにゃ」
「あ、そうなんだ。情報ありがとう!」
1匹だけ知っている猫がいて助かりました。どうやらここは使用人達の居住スペースのようです。初めて来ましたよ。なんかどこかのホテルみたいですねえ。
「誰もいないところは……ここかな。ちょっと開けてみるね」
ガチャ。
僕はしっぽを使ってドアを開けます。僕のしっぽはすご~く伸びるので、体が小さくても簡単に届くのです。鍵はかかっていないのですぐ開きましたよ。
「んー。普通の部屋かな? ベッドと机があるし」
「なんか生活感ないね」
「まあメンテの兄貴の部屋よりはましだにゃ」
「「「「にゃははは」」」」
「あー、みんな静かにね。誰か起きてきたらばれちゃうから」
「「「「にゃ~」」」」
猫達にアニーキ―が笑われていました。まあ汚部屋だもんね。猫のネタに使われるレベルなのです。
「この部屋だけじゃ分からないなあ……。よし、違う部屋も見て見よう。えっと次はここ……。うん、寝ているようだね。入るよー」
「「「「にゃあ」」」」
しっぽを使ってドアを開けます。音を立てずに慎重にね。
「あれは……? モドコさんだね」
この部屋はモドコ・キスイダさんのお部屋でした。彼女は兄貴と同じ年齢のメイドなのです。出身はこの町の教会だとか。
「……ここも普通?」
「「「そうにゃね」」」
特に変わった物はありませんでした。給料貰ってるよね? 節約しているのか教会に仕送りしているのか分かりませんが、質素な暮らしをしているようです。モドコさんは真面目さんなのです。正直僕はこういう部屋の方が落ち着きますね。
「起こしちゃ悪いから次いくよー」
「「「「にゃー」」」」
◆
「モドコさんの隣は誰もいないね。よいしょっと」
しっぽを使ってドアを開けます。すると部屋の中は物がいっぱいでした。
「うわ。なんでこんなに物が大量に?」
「でもしっかり歩けるぜ」
「物はいっぱいだけどしっかり整理してるわね」
そういえば魔道具職人の人もこの家で働いているのですね。職人兼メイドとかやってます。だから物がいっぱいあるのでしょうか。物が多いけどしっかり整理されているので兄貴も見習ってほしいです。
「崩れると危ないから出た方がいいね。みんな、別の部屋行くよー!」
「「「「にゃー!」」」」
◆
「ここは人がいるね。でも寝ているから入れそうだよ。みんな静かにね」
しっぽを伸ばしてドアノブをガチャガチャしますが動きません。鍵掛かってるね。
「鍵掛かってるから入れないよ」
「メンテお得意の猫魔法で中はどんな感じか分からないの?」
「僕の”猫探知”は周囲の気配を感じる魔法であって物が分かるわけじゃ……。あ、わかった。さっきの物がいっぱいある部屋に近いよ。でも量が半分ぐらいだね。机の上はごちゃごちゃしてるけど」
おお、急に猫魔法がパワーアップしましたよ。気配だけでなく特定の物も調べられるようになりました。レベルアップ、いや進化というべきでしょうか? いっそのこと猫サーチと呼ぶべきかな?
「……」
「ん? どうしたのシロ先生?」
「いや、なんでもないの。その……、魔法って便利なのね」
「まあ猫だからそれぐらい出来るよ。ね?」
「「「「……」」」」
猫達はアイコンタクトで会話をした。
「(見たことない部屋の中なんて分かる?)」
「(分かるわけないじゃん)」
「「「「(そうだよにゃあ……)」」」」
◆
「どうやらこの階は全部誰か住んでいる部屋みたいだね」
ナンス家の使用人達の部屋は、1つの部屋に何人かで共有しているのかと思っていたけど違いましたね。ひとりひとり立派な個室があるうえ、模様替えも自由にしています。そりゃここで働きたい人多いはずです。見たことないけどこの町の家より豪華かもしれませんし。
「へえ、そうなの。じゃあここから出られそうにないわね」
「でもズボラな人がいたら窓をあけっぱにするだろうからさ。そういうの見て回るよ。次はこの部屋ね」
「「「「にゃあ」」」」
僕はしっぽを伸ばして部屋に入ります。おやおや、この部屋はニーホさんでしたか。ニーホ・ヤモリンさんは貧乳が禁句なメイドなのです。
「みんな、ニーホさんは寝ているから静かにね」
「「「「にゃ」」」」
みんなで手分けして入口になりそうなところや面白い物がないか探し始めます。
「あ、服が脱ぎっぱなしだね。たたんであげよう。ん? これはニーホさんには大きすぎるよ。このブラはゴミ箱に入れておこう」ポイッ
「ちょっとメンテ。勝手に触っても大丈夫なの?」
「これはいいの。必要な処置だから」
そして、服をたたみ終える頃には部屋の探索が終わりました。
「特に何もにゃいね。窓も鍵掛かってたよ」
「まあ普通の人間の部屋だったにゃ」
「そっかー。じゃあ出ようか」
「「「にゃ」」」
「にゃ……ってちょっと待って。メンテ、それは何?」
「え?」
「そのしっぽで持ってる物よ! まさかそれ全部持っていくつもりなの?!」
「そうだけど……?」
これは戦利品だと思うのですが、シロ先生は何を慌てているのでしょうか??
「そんないっぱい持っていくと誰かが部屋に侵入したってバレるでしょ?!」
「いや、これはタオルだし……」
「それ人間が服の下に着ける服でしょ? 邪魔だし全部置いていきましょ。そうしないと警備厳しくなると思うわない? メンテも何かあったら連帯責任って言ってたじゃないの!」
「……連帯責任? あー、そうそう。うん、連帯責任だったね! んー、分かったよ。外出られなくなっちゃうのは僕も嫌だもん。ううう……」
「……? なんで泣いているのか分からないけど早く出ましょ」
「そうだね……」
苦渋の決断を下したメンテ。こうしてシロ先生のおかげでニーホの下着は守られたという。なお全然諦めていない表情をしていたのであった。
この後もメンテと猫達の部屋漁りは続いたのである。




