128話 「赤ちゃん教官 その1」
前回までのお話
猫魔法は猫っぽいことが出来る!
僕メンテ。最近はひとりで出来ることが増えてきました。赤ちゃんは何でも興味津々。最近は堂々と何でもやりますよ。まあ猫になって魔法を使える事だけは秘密ですが。
コツコツコツ……。
お、丁度良いタイミングです。廊下からこの子供部屋に近づいて来る足音が聞こえますね。くんくん、この匂いはミスネさんかな。僕は目だけでなく、耳や鼻もよいのです。
「失礼しま……」
しゅしゅ、たたたたた。
「うわ?!」
ドアが開いた瞬間に部屋から脱走します。ミスネさんはよくミスをするので利用しました。赤ちゃんは興味を持てば何でもするのでね。いえーい、これで散歩に行けます!
「きゃきゃー!」
「あ、メンテくん?! どこ行っちゃうの??」
「ミスネさん丁度良いところに。メンテ様は散歩がしたいようなのでお願いします。私はアーネ様のお勉強がありますので」
「は、はい……。メンテ様、待ってくださーい」
「きゃー!」
カフェに怒られなくて良かったと思うミスネであった。
◆
そして、散歩を始めてすぐのことだった。
「1、2、3、4……」
「んぐぅ?」
廊下を歩いてしばらくすると変な声が聞こえてきました。外で何かしていますね。僕は赤ちゃんなので気になっちゃいます。声のする方向に走っちゃいますよ。
「きゃああああああ!」
「メンテくん、どこに行くんですかー?」
メンテはトテトテと上に飛び跳ねるように走る。そのため1歩1歩の歩みが非常に遅いのだ。だからゆっくりと歩いて楽々と追いつけるミスネであった。彼は自覚せずこの天然の可愛さをやってのける赤ちゃんなのだ!
「え、そっちに行きたいの? 外に行くなら靴が必要ですね」
「えっぐ!」←靴を持ってミスネに近づく
「じゃあ履くのでここに座りましょう。動いたら履けないのでじっとしてくださいね」
「……」←じっとしてる
「はい、履けましたよ。じゃあ行きましょうか」
「あーい!」
メンテくんって素直で本当に可愛いなあと思うミスネであった。
◆
で、外に出ました。この変な声は、僕のお家にある庭から聞こえますね。庭は学校の校庭みたいなところです。兄貴が外で魔法の練習をするとき使っていますよ。
※詳しくは39話「アニーキ―の魔法実演 その1」
「ほほっ。みなさんいいですか? 魔力がなくなったら逃げることが優先。そのために必要なのは体力。今日は体力を付けるトレーニングですぞ。次は腕立て500回いってみましょうか」
「「「「「「イエッサー」」」」」」
どうやら校庭で指導しているのは、ナンス家の執事ことタクシーですね。それと警備の人がいっぱいですね。みんなで訓練しています。そういえばタクシーに部下がいるとか聞いたことがあります。もしかしてあの人達のことかな?
「きゃきゃあああ!」←タクシーに抱き着くメンテ
「おや? メンテ様ですか。びっくりしました。どうしてこんな所までおいでに?」
「タクシーさんすいませ~ん。今メンテくんと散歩中なのですよ。大きい声に興味を持ったのか急にこちらに走り出しちゃって」
「ほほっ。散歩中でしたか。今は見ての通り部下の訓練をしていましてな」
追いついてきたミスネさんが、タクシーに答えました。僕は興味を持てばそこまで歩いたり走っちゃう赤ちゃんなのです。変に怪しまれることはありません。ばぶー。
「あくしー!」ぎゅっ
「ほほっ、相変わらずメンテ様は可愛いですな。メンテ様も見学なさいますか?」
「えぐえぐ!」
「ほほっ。興味をお持ちなようですな」
どうやら見学出来るみたいですね。タクシーも甘えればいちころなのですよ。
「みなさん、訓練を再開しますよ。次は腕立て500回。もちろん魔力を使ってはいけませんぞ。今日はメンテ様も見ておられます。恥を晒さないように」
「「「「「「イエッサー」」」」」」
そして、ただの筋トレが始まりました。僕は魔法を使ったトレーニングが見たかったのですがね……。なんだろ、異世界っぽさがゼロですねこれ。
「……」じぃー
それからしばらく様子を見ていました。誰を見ても普通の腕立てをしているだけです。異世界でも筋トレってブームなの?
「……えぐ」ざざざっ
「え? メンテ様何を……。ぐぶへっ?! 口に砂が」
「きゃきゃ!」
つまらなくなってきたので妨害して遊びます。僕の目の前にいた一番近い人の顔に砂をかけましたよ。口の中に砂が入り、途中で腕立てを止めてしまいましたよ。足で地面を蹴れば僕でも簡単に出来ることなのです。可愛いイタズラでしょ?
その様子を見たタクシーが笑みを浮かべました。
「おお、さすがですぞメンテ様!」
「えぐ?」
「メンテ様、今日は私の部下たちが遊んでくれるようですぞ! ささ、他のみんなにも同じように遊びましょう!」
「「「「「「――?!」」」」」」
「んぐ~?」
みんなでタクシーを見ます。何言ってんだコイツって顔をしていますね。よ~くわかります。僕も同じ気持ちなので。
「みなさんいいですか、戦闘中は何が起きるか分かりません。不測の事態が起き、その場で固まってしまえば死んでしまいますぞ。何が起きてもしっかり対応しなければいけません。動揺しては絶対ダメですぞ。今からはその練習だと思いなさい」
「「「「「「イ、イエッサー」」」」」」
「そうそう、今脱落したあなたは最初からやり直しです。さらに罰で1000回追加。他の人も途中で止めたら罰を与えますよ。分かりましたか?」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」
タクシーはとんでもない鬼教官でした。
「というわけでメンテ様。私の部下は何があっても絶対に腕立て伏せを止めません。自由に遊んでみてください」
「えっぐ!」
「ほほっ。今からメンテ様は教官ですぞ。ではメンテ教官、びしっと指導頼みましたぞ!」
「ええっと……。タクシーさん。それはメンテくんにしてもいい教育なのですか??」
「そこ! メンテくんじゃなくてメンテ教官ですぞ!」
「は、はひいいい?! メ、メンテ教官頑張ってください!」
勝手に僕が教官役に抜擢されました。あとミスネさんがなぜか怒られましたね。今のタクシーには何を言っても無駄なようです。ポンコツスイッチが入ってそうなので諦めましょう。
でも話は分かりました。何をされても絶対にやめてはいけない腕立て伏せですね。僕は全力で邪魔してやりましょう!
こうして1歳の赤ちゃん教官が誕生したのであった。
後にタクシーの部下たちは語る。メンテ様はとんでもない猫教官だったと。




