127話 「猫魔法の研究 その4」
今は深夜で人気のない時間ですが、気を抜いてはダメです。廊下だけを見るだけではなく、近くに誰もいないか細かくチェックすべきです。僕や猫達が家の中で暴れてるところを見られると、みんなの評判が悪くなっちゃうからさ。夜に運動会してたらうるさいもんね。そのまま家から出ていけってことになりかねません。
「起きている人がいないか確認するからちょっと待ってね」
「御意」←グレー
僕はドアをしっぽで開けます。最初こそ猫達はみんなして驚いていましたが、今ではしっぽを伸ばすのは当たり前の光景になっているのです。
「猫探知!」
僕はこの部屋の近くに起きている人がいないか確認します。
ふむふむ、父も母もアーネも寝ていますね。少し離れたところで寝ているのは兄貴かな。人の気配は廊下にありませんよ。メイドさんも誰もいないようです。今、家の中で動いているのは猫だけですかね。外の様子までは分かりませんが、家の中ならよ~く分かります。動いて無ければ寝ているのですよ。
いろいろ情報が入ってきます。なんとなくみんなの居場所を感じますよ。僕は猫ですからね。出来て当たり前なのです。
「大丈夫だよ。近くに誰もいないし、みんな寝てるよ」
「「「「「「にゃ?」」」」」」
「シロ先生がね、遠くにいるタクシーの気配を感じたって言ってたんだ。タクシーも同じようにシロ先生が分かっていたらしいよ。だから僕も真似して近くに誰かいないか確認してみたの。今の僕って猫だからそれぐらい出来ちゃうんだよ!」
「「「「「「お、おう」」」」」」
え、何それ怖い。猫にそんなこと出来る? 普通は無理だよと猫達は思った。だがタクシーが関係するならありえる話になる。きっとタクシーにコツを教えて貰ったのだろうと納得する猫達であった。
実はこれこそ猫魔法だったりするのだが、今は誰も魔法だと気付くことはなかったという。
というわけで準備完了。グレーと僕は廊下で走りましたよ。廊下の端から端まで競争なのです。僕は全力で頑張りました。
「グレーはやい!」
「メンテも子猫にしては速いな。結構いいセンスあると思うぜ」
猫魔法を使わなかったときは、グレーに追いつくことも出来ませんでした。これが今の僕の実力です。途中から手加減してくれたグレーは、僕と一緒に並んで走ってくれました。優しい猫だね。
「次は魔法を使うね。僕全力で走るよ!」
「おう、実は俺も興味あってな。どこまでパワーアップするのか楽しみだぜ」
「行くよ。ゴー!」
僕は体に魔力を纏います。この状態で動くと勝手に身体能力が強化されるのです。これぞ身体強化の魔法ですよ。
「うお?! 本当に子猫かよ」
僕は全力で走りだします。スタートダッシュは勝ちましたが、すぐにグレーに追いつかれました。そのまま並走してゴールです。
「わお、やっぱりグレー早いね」
「はあ、メンテも十分速いと思うぜ。俺の全力の7割ぐらいってところだ。魔法ってすごいんだな」
どうやら僕は、大人の猫に近いレベルまで身体強化されるみたいです。魔力纏うだけでこうなるのはすごいね。息切れもしてないし。
よし、次は猫魔法を調べましょう!
◆
「爪伸びろ~」
僕は光る爪を伸ばします。前足の左右を同時にね。
「みんな、この爪触っていいよ~」
「「「「「「御意」」」」」」
伸ばした爪は魔力が消えると消滅します。今の僕は10秒しか魔力が持たないのです。その間に猫達は触りまくります。どうやらみんな興味あったみたいだね。キラキラ光っているからかな?
「どう?」
「「「「「「にゃわにゃわ」」」」」」
猫達は様々な感想を述べます。その中で1つ気になったのは、左右で固さが違うことでした。
「それ本当?」
「左足が少し柔らかかったよ。でも右足はかちかちだった」
「「「「「そうだにゃ」」」」」
「ふむふむ……」
これどういうことなのか。少し実験してみましょう。
「じゃあもう一度出すから触ってみてよ」
「「「「「「御意」」」」」」
僕は右の前足に魔力を集中させ、左の前足は控えめにします。左右で魔力の量を変えてみました。すると……。
「あ、右の方がぐにゃーんってして柔らかいよ。でも左の爪は中途半端な柔らかだね。あと左の方が長さが短い気がするにゃ」
「「「「「「にゃわにゃわ」」」」」」
やっぱりそうですか。しっかり魔力を込めた方がイメージ通りの魔法になるのですね! それと大きさも魔力を使った量に比例するのですよ!
おお、これはすごい発見ですよ。意識せずに猫魔法を使うとムラが出ていたのです。これは魔力操作が未熟だということ。まだまだ魔力の扱いがへたくそなんだね。
これではっきりしました。まだまだ訓練が必要なのです。これからは魔力の扱い方もしっかり頑張りましょう!
それにしても猫って成長するの早いですね。人間だと魔力をうまく動かせないし、魔法なんて全く使えないのに。本当に不思議ですよ。
◆
「次はみんなでしっぽ触ってみて~」
「「「「「「御意~」」」」」
ぐにょ~んとしっぽを伸ばす僕です。猫達にはバラバラになってしっぽを触って貰います。正直僕も伸びるカラクリは不明なのですよ。伸びるものは伸びるのです。
「おお。これは……」
「「「「「「どう?」」」」」」
「全員の感触が分かるよ。えへへ、なんかくすぐったい」
しっぽはどこに触れても感覚はあるようでした。10秒経つと、しっぱは勝手に縮みました。すると1匹の猫が僕に質問してきました。
「ところでさ、このしっぽは本当に伸びてるの?」
「どういうこと?」
「爪は伸ばしたら光ってたじゃん? しっぽも光るかなと思ったけど違うし」
そういえばそうですね。爪はトマ兄の魔法を参考にしています。あれは魔力で爪を作り出したのです。実際に爪が伸びているのではないため、魔力が消えても元からある爪に全く影響はないです。具現化ってやつですよ。でも僕のしっぽの場合はどうなのか。
「う~ん、多分だけど本当に伸びてると思うよ」
「じゃあ途中で切れたら痛そうだね」
「――?!」
あ、それ全然考えていませんでした。
「……」
「メンテ?」
「…………」
「もしかして今変な事言った? そうだったらごめん」
「いや、すごく参考になったよ。ありがとう」
「え、ああ、そうにゃの?」
そうだよね、しっぽ切れたら痛いに決まってるよ。なぜこんな当たり前のことを気付かなかったのでしょう。
僕ひとりだと絶対に考え付かなかったです。やっぱり協力してくれる仲間がいると助かりますね。持つべきものは友、つまり猫達なのです。頼もしい存在なのですよ。
ああ、だんだん心が熱くなってきました。これが猫と僕の友情の力ってやつかな?
……よし、魔力だけでしっぽを作っちゃえ~!
「しっぽ伸びろー!」
ぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
僕は燃え盛る熱い気持ちでしっぽを作りました。爪を伸ばすような感覚でしっぽを魔力で構築、そのまま長~く伸ばします。これぞ魔力で出来た普通のしっぽなのです!
「「「「「「……」」」」」」←ポカーンとする猫達
燃えるしっぽは魔力なくなると消滅しました。今までのように伸びたしっぽが縮まるようなこともなく、ただ単に消え去りましたね。もちろん元からあるしっぽには何も変化はありません。これなら怪我しないし痛みも大丈夫だね。
よし、今後は上手に使い分けましょう。まあドアぐらいなら魔力じゃなく今まで通りでいいかな?
「これでしっぽが切れても問題ないね!」
「「「「「「問題にゃ!!!」」」」」」
「え?」
何か問題があるのかな? 僕はしっぽが燃えてもあまり問題ないと思うのですがね。だって猫っぽい魔法ですし。この世界の猫はカラフルだから派手なしっぽだってあるよね? それなら魔法で簡単に再現出来ちゃうよねえ。
う~ん、もしかして見た目の問題? あ、確かに僕本体としっぽの色は違うのは不自然かも。少し猫っぽさがが足りなかったかもしれませんね。
……ん、猫っぽさ? これが猫魔法の条件のような気がします。いや、きっとそうに違いありません!
「……みんなの言うこと分かったよ。色がおかしかったんだね! ほら、僕って体が黒色じゃない? だからこうやって黒くすればいいんだね。えいっ!」←黒く燃えるしっぽを出すメンテ
「「「「「「――?!」」」」」」
「魔法の使い方は爪も同じだよね。なら色も変えられそうだよ。えいっ!」←黒い燃える爪を出すメンテ
「「「「「「――?!!!」」」」」」
「ね?」
「「「「「「にゃあああああああ?!」」」」」」
ね? はおかしい。違う違う、そうじゃないって。でも赤ちゃん猫のメンテにはうまく伝わらず、説明に戸惑う猫達であった。
◆
メンテ心のメモ。今回の研究の結果です。
<身体強化>
大人の身体能力ぐらいまでパワーアップ。まだ魔力の扱いが下手なので、今後もっと伸びそう。
<猫魔法>
猫っぽいことなら魔法が補助してくれる。多分それがこの魔法を使う条件。魔力をいっぱい使えば使うほどイメージ通りに。今のところ爪やしっぽが伸びたり、光ったり、燃えたりする。猫でしょ?
猫魔法の条件は猫らしさ




