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117話 「アニーキーの知識暴走」

前回までのお話

メンテはたくさんの猫と仲良くなっていった。

「なあママ? 私の気のせいかもしれないが、最近猫が増えてないかい?」

「もしかして気付いてなかったの? この部屋、すでに人より猫の方が多いのよ」

「やっぱりそうか……」



 ナンス家に猫が遊びに来たあの日。あのときいたのは1匹の白い猫だけであった。だが次に来たときは3匹、5匹、8匹と猫が増えていったのである。


 そして、現在。寝ているメンテの周囲には10匹以上の猫がいる。メンテを中心にして猫が守るように囲んでいた。というより猫と一緒にお昼寝をしているのである。



「仲が良いのはいいんだ。問題はなぜこのようなことが起きているかだよ」

「そうよね。私もよく分かってないのよ……」



 レディーもダンディもメンテが猫と会話出来ることを知らないのである。いくら子供のことなら何でもお見通しなレディーでも分からないことはあるのだ。



「心当たりがあるとすればメンテのユニークスキルか。その影響なんだろうが……」

「私もそう思うわね」

「いったいどういう能力なんだろうな? 他に動物を呼び寄せるスキルは持っていないはずだ。魔法もまだ使えないだろうし……」

「猫がメンテちゃんになついているのは私でも分かるわよ。不思議よね」



 二人ともメンテの力がさっぱり分かっていなかった。猫が関係する以外は謎だらけのスキルである。




「ちょっと待ったー!」

「「――?!」」




 大きな声で勢いよくやってきたのはアニーキ―。メンテの兄だ。



「俺を差し置いて何をしゃべってるんだー! ふぉおおおおおおおおおおお」

「……(暴走してるわね)」

「……(暴走してるな)」



 無言で目を合わせる両親であった。



「はっはっは。少し暴走気味だな。アニーキ―もメンテのことが気になるのかい?」

「その通りだよ父さん! 今ユニークスキルの話してたでしょ? そんなの俺が気になるに決まってるじゃないか! 二人だけでこそこそ話すなんてひどいよ!」

「はっはっは。そうかそうか」

「フフッ。仲間外れにされたと思ったのね」

「ち、違うよ! 俺はただ知りたいだけだよ!」

「はっはっは」「フフッ」



 アニーキ―もメンテ同様に”暴走”というスキルを持っている。この暴走は人によって効果や条件が違うのだ。アニーキ―の場合、何かを知りたいと言う気持ちが強まるとスキルが発動する。つまり知的好奇心が発動のキーとなるのだ。


 知識欲で暴走するため、みんなから『知識暴走』と呼ばれている。これがアニーキ―の暴走状態なのだ。ナンス家の暴走スキル持ち中では比較的ひかえめな方と言われる。



「もー、俺の話聞いてよ! まずこの状況がおかしいと思わないの?」

「「この状況?」」

「猫がメンテの周りを囲んで寝ていることだよ!」

「ん? パパは仲が良さそうだなとしか思わないが……」

「いやいや、どう考えても変でしょ?! ふぉおおおおおおおおおおおお」

「ちょっとアニーキ―、ここには寝てる子がたくさんいるのよ。もう少し小さな声でしゃべりなさい」

「あ、母さんごめんなさい」



 暴走すると奇声をあげるほど興奮してしまうのだ。怒られて少し冷静になるアニーキーであった。


 ちなみにメンテと一緒に寝ている猫は教会に住む猫達である。そのため多少騒いだところで起きなかったりする。子供の声に慣れているからだ。だがそれを知っている人はメンテぐらいである。



「ふぅー。でね、この猫達って教会の猫だと思うんだよ!」

「はっはっは、そうなのかい?」

「ん~、どうなのかしらね。でも最初に来た白い猫はメンテちゃんが教会から連れてきたわ」

「あの白い猫がよく来るから間違いないと思うよ! それでね、俺教会に遊びに行ったときに猫と遊んだこともあるんだ。そのときは普通の猫だったよ。近づくと逃げたり警戒したりしてたし、エサがないと俺に近づきもしなかったね。だから猫がここまでメンテになつくのが変なんだよ!」シュバッ!

「まあそうかもしれないな」

「そうねえ。このお家だとメンテちゃんが一番猫と仲が良いわね(フフッ、急に変な恰好でしゃべりはじめたわ)」


 熱く語るアニーキ―。謎のポーズを決めているが、ダンディとレディーはスル―して話を聞くことにした。暴走しているときは、変なテンションになるのである。このナンス家で暴走はよくあること。それを知っているからだ。



「俺は思うんだ! こんなに猫が来るなんておかしい。みんな当たり前のように受け入れているけど、我が家はいつから猫屋敷になったのさ?! これは絶対にメンテのスキルが何らかの力を発揮しているんだよ! もしかして気付いたのは俺だけ? はっ、すごくない俺? ふぉおおおおおおおおおおお」

「おお、すごいぞアニーキ―」

「よく気づいたわね。フフフフフッ……ブフッ」

「へへへ、でしょ~?」



 あまりにも自信満々に語るアニーキ―。だが使用人も含めてみんなそのことに気付いている。気付いていないのはアーネぐらいであろう。そのことを言わずに褒めるのは親の優しさである。レディーが微笑んでいるのは優しさ。必死に笑いを堪えていると勘違いしてはいけないのだ!



「それにメンテのお腹を見てよ! お腹が冷えないように猫達がしっぽが置いているんだ。こんなことってある? 明らかに異常な光景じゃない?!」シュバッ!

「「……」」じぃー



 確かにメンテのお腹は猫のしっぽが乗っていた。囲んでいた猫のしっぽ全部と言ってもよいほどだ。



「……ママはどう思う? パパは仲良しな証拠だと思うが」ボソボソ

「……赤ちゃんは体温が高いから暖かいのかも」ボソボソ


「え? 今何か言った? 俺にも教えてよ!」

「いや、何も言ってないぞ?!」

「本当にしっぽが乗っているわねと確認し合っただけよ。ね? パパ」

「はっはっは、そうだぞ」

「そうなの? じゃあ続けるよ。他にも……」



 アニーキ―が暴走状態のとき、意見をするとその理由をもっと詳しく教えろとしつこい。ナンス家の暴走の中で一番しつこいのだ。なので話をはぐらかすダンディーとレディーである。



 満足するまで教える、話の邪魔をしない。それがこの知識暴走の簡単な対処法なのだ!



 ちなみにしっぽの真相は概ねアニーキ―の言う通りである。メンテがお腹を冷やさないように手伝ってと指示したのだ。もし手伝ってくれたらお菓子あげると言ったら猫達は我先にと乗せ始めた。おかげでモフモフしながら気持ちよ~く寝るメンテであった。



「最初はね、メンテの猫魂にはアニマルパワーの力があるのかと思ったんだ。けどね、最近は違うと思ってきたよ。耳もしっぽも肌にも変化はないからね。でもメンテには猫の気持ちが分かるんだよ! だって俺見ちゃったもんね!! 戸惑った猫がメンテを見たら落ち着いたところを!!! 初めてこの家に来た猫は毎回メンテを見ていた。このときメンテは猫魂を使ったと思うんだよ!」

「ん~、そうなのかい? パパは猫が多すぎて初めて来たのかどうか見分けつかないんだが……」

「フフッ。メンテちゃんのことをよく見ているのね。そういえばママもメンテちゃんと猫が見つめ合っているのを見たことあるわよ。スキルを使っているなんて面白いこと考えたのね」



 これまた大当たりなアニーキ―であった。もしメンテが起きていたらさぞ慌てていただろう。



「でしょ~? で、俺考えてみたんだ。どうやって猫と意志疎通しているのかをね。僕の考えた結果をどうなったか聞きたいでしょ? ね?」

「はっはっは。パパは聞きたいな」

「ママも聞きたいわ」



 知るだけでなく知った知識を披露したい。それも知識欲からくる暴走だ。出し惜しみをすることがあるので素直に聞きたいと伝えるのがコツである。親は暴走した子供の対処を熟知しているのだ。


 そして、兄貴は語りだす。これが答えだ! と言わんばかりに謎のポーズをとりながら。




「メンテはね、猫と会話をしているんだよ!」ババーン!




 これがアニーキ―の暴走した思考力が導き出した答えである。この常人ではたどり着かない発想力。これが知識暴走の最大のメリットなのだが……。



「……ふははははっはっはっはっはっはーーー!」

「……ブフーッ! ブフフフフフフッ!」

「ちょ、なんで笑うのさ?!」



 ダンディとレディーには爆笑案件であった。笑いのツボにはまるとはこのことである。



「はっはっはっはっは! それは面白いからだよ、はっはっは」

「よ~く考えてみてね、アニーキ―。メンテちゃんは、最近やっと言葉を理解し始めたところよ。それにしゃべれないのにいきなり会話するって。ママ無理があると思うわよ……ブフ、フフフフフフッ」

「――?! そ、それは……」



 それは盲点だったと思うアニーキ―であった。これがナンス家の暴走スキルのデメリット。思考力が極限状態になる代わりに周囲が全く見えなくなるのだ。アニーキーはメンテのスキルのことだけを考えすぎた結果、メンテが赤ちゃんだということを忘れてしまった。まさに初歩的なミスである。



「でも面白い考え方だとパパは思うぞ。何らかの方法で猫とコミュニケーションをとっているんだろうな」

「え、やっぱり父さんもそう思う?」

「ああ。誰も思いつかないようなことを考える力はいいことだぞ。アニーキ―も様になってきたな!」

「パパはね、上手に暴走を使えるようになったと言っているのよ。フフッ、成長したわね」

「そ、そうかな~」

「はっはっは。メンテがしゃべれるようになったらいろいろ聞いてみような。いろいろ知りたいことも分かるはずさ」

「これからもメンテちゃんの面倒をしっかり見るのよ。大好きなお兄ちゃんのために知らないことも教えてくれるでしょうね」

「わかった! 俺頑張るよ」



 両親に褒められてニヤニヤしちゃうアニーキ―であった。ついでに弟の面倒を見て楽させろと言われていたが。


 満足したのかアニーキ―の暴走は落ち着いたのだった。こうしてメンテの知らないうちに秘密がバレかけたが守られたという。



「そういえばタクシーがさ、メンテが奇跡の力を使っていると家中に広めてたよ」

「「奇跡?」」



 ◆



 夕食の時間。


 猫達の前には食べ物が置かれていた。だが猫達は食べ始めない。ただただじーっとメンテを見つめていた。



「おっぱーい(食べていいよ)」

「「「「「「「「「「にゃー」」」」」」」」」」



 メンテの合図とともに目の前の料理を貪り食う猫達。まるで号令を待っていたかのようである。


 そして、その様子を見ていたのはダンディ、レディー、アニーキ―。そしてタクシーだ。



「ほほっ。さすがメンテ様です。猫達を従える力があるのしょう。あれは奇跡の力の一部を借りることで可能となる御業ですぞ!」←タクシー

「おお、これは奇跡だな」←ダンディ

「すごい……」←アニーキー



 これは奇跡かもと騒ぐ魔法大好きな男達。だが、レディーだけは頭を抱えていた。これのどこが奇跡なのか。またよからぬ噂をポンコツ執事が広めやがったなと!!



「……キッサさんに相談しましょ」



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