108話 「猫と交流する その4」
私の名前はシロ。
最近は猫仲間にも「シロ先生」と呼ばれるようになったの。私はまだそんな歳じゃないのに先生って……。これはメンテのせいね。いつの間にか名前が定着しているから困っちゃうわ。
今日はメンテがご飯をくれると約束したから遊びに来たの。メンテのお家って見たことないから気になっちゃってね。それにお肉が出るなら行くしかないじゃないの!
猫仲間に伝えたら飼い猫になるの? と言われたわ。今日は遊びに行くだけ。帰ってきたらどんな生活か教えてあげる予定よ。
教会から歩いてすぐメンテのお家に着いたわ。まあ私達はこの謎の浮いてる乗り物に乗っていたから歩いてないけどね。それにしても私の住む教会よりも大きくてびっくりしたわ。これ全部メンテの縄張りと聞いてもっと驚いたわね。
それとタクシーとかいう人間の化け物がいたわ。あれと仲良く出来るメンテはすごいと思ったわよ。教会に帰ったらとても危険な人間がいると仲間に伝えなきゃ。あんなのと戦っちゃダメよ。見つかったら逃げるしかないの。
家の中に入ったわ。今からメンテのお部屋に連れて行ってくれるんだって。廊下を歩いてるけど中も広いわね。ここには何人の人間が住んでいるのかしら? でも教会ほどいなさそうね。きっと広々と使っているの。とんでもなく贅沢ね。
へえ、ここがメンテのお部屋ね。危険人物のせいで疲れちゃったから私は少し休憩よ。ここはメンテの匂いが強いわね。いつもここで寝ているのかしら?
休憩しながらメンテの様子を見ていたらこの家族は仲が良いって気づいたわ。幸せそうじゃないの。ただそのことを指摘したら信じられない程可愛くない言葉が返ってきたわね。子猫もそうでしょみたいな事を言われて私はショックを受けたわ。赤ちゃんってみんなあんな感じなの? 可愛い顔した策士ね。
メンテの演技力は猫でも気付かないレベルに達しているのであった。
それからはメンテの姉の奇襲を受けたわ。もしメンテの言葉がなかったら引っ掻いていたわね。危なかったわ。メンテがこの家のルールを教えてくれるからすごく助かるわね。今思うと他の種族としゃべれるのはすごい才能だと思うの。しかもまだ赤ちゃんよ。将来は大物になりそうね。
あとカフェとかいう危険人物の娘は普通だったわ。最初は娘も危険かもしれないと警戒しちゃった。でも私にもメンテと同様に優しく接してくれたわ。無駄に警戒しちゃってたみたい。
そのあと油断していたのが悪かったのか、カフェと同じ服を着た人間がいっぱい来て私で遊び始めたの。いったい何人いるのよ?! カフェだけが私を撫でるのではかったの? ちょっと痛い、痛いって言ってるでしょ。私逃げないから取り合いしないでよ。
メンテは、この人達をメイドと教えてくれたけど何なのかしら? 教会では見たことないもの。でも教会の子供の相手よりは楽ね。私を物で叩いたり全力で踏みつけたりしないもの。あれ本当に痛いのよね。
あ、メンテが僕も遊んでとメイドの中に突っ込んでいったの。メイドの服の中に入って喜んでいるけど何かあるのかしら? それにしてもよだれがすごいわ。ただの赤ちゃんね。
カフェが指示したら他のメイドは動きを止めたわ。このメイドのボス的な存在なの? やっぱり危険人物の娘も実力があるみたいね。あら? 今度はメイドが一列に並び始めたわ。なぜか私の前にね。これは順番に相手しろってことかしら。しかもちゃっかりとカフェが先頭に並んでいるじゃないの。カフェはメイドのボスで決まりね。
今日は何をされても我慢するのよ私。絶対においしいお肉を食べるんだから!
◆
僕メンテ。今日は遊びに来たシロ先生にごはんを奢る予定です。
「ねえねえ、メンテ」
「うぐ?」
「お肉はまだかしら?」
「えぐえぐ(そろそろ時間だね)」
さっきまでみんなに遊ばれてシロ先生は疲れ果てています。もう夕方なのでお腹もすいたことでしょう。
「んぐ!(僕に任せて!)」
「あら頼もしい」
そう返事した僕は兄弟に近づいて遊び始めます。しばらく遊ぶと急に笑顔を止めて無表情になります。そのまま下唇を噛みながら悲しい顔になります。泣く一歩手前になるのです。
「ぱい……。おっ……ぱい」
「「――?!」」←驚くアニーキ―とアーネ
「おぱぁい……」
「メンテおっぱいー?」←アーネ
「ぱいぱい……」
「カフェさん、メンテがお腹すいたって! 早くしたほうがいいよ」←アニーキー
「そのようですね。少し早いですが食べに行きましょうか!」←焦るカフェ
僕のお腹減ったのアピール成功です。
「ぱあい!(伝わったみたいだよ!)」
「すごいわね。言葉なんていらないじゃないの」
「ぱーい(じゃあ行こうか)」
僕は体を使って感情を表現するのが得意なのです。これがボディーランゲージってやつですよ!
説明しよう!
メンテはお腹がすいたり、おっぱいを吸いたくなると”ぱい”としか言わなくなるのだ。さらにおっぱいを吸うまでしつこく”ぱいぱい”と言い続けるのだ!
本人は自覚していないので知らないことだが、おっぱいを求めるときの機嫌の悪さは尋常ではない。あの可愛い天使が悪魔になったといわれるほどだ。このときのメンテは非常に面倒なのである。そのため皆の行動が早いのだ!
みんなに赤ちゃんだなあと思われている中、猫だけにすごい子と思われるメンテであった。
◆
僕はゆっくり廊下を歩いています。隣にはシロ先生。
「いい匂い。じゅるり」
「ぱーい(おいしいお肉あるといいね)」
「期待しちゃうわ」
廊下に出るとおいしそうな匂いがします。シロ先生はよだれを垂らして期待しまくりなのです。これは喜んでもらえそうですね。
「ぱいぱいぱーい(実はシロ先生が好きそうなお肉食べたことないんだ)」
「そうなの?」
「あー(ほら、歯がまだ生えてないんだ)」
今の僕は上下に4本、合計8本の歯があります。成長したでしょ?
「あら、まだメンテは成長中なのね」
「ぱーい。おぱい(そうなの。だから骨付き肉は食べたことがないの)」
「ほ、ほねつき?!」
「おっぱーい(大人はいつもおいしそうに食べてるよ)」
「じゅるり……」
そろそろ食堂です。僕も結構歩けるようになりましたね。
「ぱーい(ここだよ)」
「にゃあ……」
食堂の中には大量に並べられた料理があります。しかも出来立て最高の状態ですよ。この世界には保温出来る便利な魔法があるため、料理が冷えないのです。
お、あそこにはお肉も見えますね。これならシロ先生へのお詫びも大丈夫そうだよ。
メンテの隣ではシロはこう思っていた。私ここからでも分かっちゃう、教会の食べ物よりおいしいに違いない! と。
「ぱーい(行くよー)」
「行きましょ!」
シロ先生の期待がどんどん高まっていく。こうして二人は仲良く食堂に入っていった。




