106話 「猫と交流する その2」
教会からお家に帰る間は暇なので、シロ先生と楽しくおしゃべりをしています。
「そういえばメンテのお家ってどこなの?」
「えっぐ(普通のお家だよ)」
「そうなんだ」
「えぐえぐ(そうそう)」
僕のお家は普通の家です。屋敷ではありませんよ?
「他に猫はいるのかしら?」
「うぐぐぅ~(見たことないよ)」
「なら誰の縄張りでもないのかしら」
「あう(わかんない)」
そういえば僕のお家の中には、動物がいないというかペットのペの字もありませんね。使用人の中には、お家にペットがいるみたいな話を聞いたことがありますよ。シロ先生に質問されるまで特に疑問に思いませんでしたね。
「私はあの大きい家が縄張りなの。人間からは教会って言われてるわね。広いから他にもいっぱい猫がいるのよ」
「えぐう(そうなんだ)」
「あそこは猫の溜まり場みたいなものかしら。コノマチの中では安全な場所ね」
「うぐー(へー)」
あの教会って猫にとって住みやすい環境なようです。シロ先生の語る猫の豆知識が新鮮ですね。僕はこういう情報を知りたいんだ。
「にゃああああああああああああああああああ!???」
「えっぐ?(どうしたの?)」
急にシロ先生が暴れ始めました。言葉を忘れたのかにゃあにゃあ叫んでいます。
「……きゅ、急にゾワゾワっとしたのよ。あっちの方から」指プイ
「えぐえぐぐ~?(あっちは僕の家だよ?)」
う~ん、どうしたのでしょう?
「私の勘があそこは危険だって警告してるわ」
「えぐぐ?(僕の家は安全だよ?)」
「どこがよ?! この感じは本当にヤバいやつよ。間違いなく何かいる。複数いるけど飛びぬけてヤバいのが1匹いるわよ!」
「うぐ~?(本当かなあ?)」
僕のお家には危険な生き物なんていませんよ?
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「んぐう。えっぐ!(落ち着いて。あそこ僕のお家だから)」指プイ
「……あれ?」
「えぐ(うん)」
僕のお家が見えてきました。
「あそこのどこに住んでいるの?」
「えっぐ(全部だよ)」
「え?」
「えぐぐぐぐ(あれ全部僕のお家)」
「……でかくない?」
「う~?(そうかな?)」
僕のお家は、田舎にある家と似ていて土地が広いからでかく見えちゃうのです。この場所は町の外れの方にあるからね。町中のぎゅうぎゅう密集した家と比べたら大きく感じることでしょう。だからいたって普通のお家なのです。決して屋敷と呼ばれるほど大きいものではありません。
「にゃあああああああああああああああああ?!」
「う~?(今度は何?)」
「あのヤバいのは何にゃああhrじあrywkmgvqhごwhw@ゃいえhjq::hんg?!」
「あぐ?(どうしたの?)」
「うにゃあああ?!」←パニック状態
「んぐ?」
僕も周囲を見渡してみますが、これといった異常はありません。いつも通りの道です。さっきからシロ先生がおかしいです。猫の言葉が分かる僕でも、何を言っているかさっぱり分かりませんね。
「はぁはぁ……、何かに見られているのを感じるわ。そして、ヤバい香りがプンプンしてきたわよ。み、見えてきたわ。間違いなくあれよ!!」
「えぐ?(あれ?)」
「あの魔物はいったい何なの?!」
「えぐぅ?(魔物?)」
僕のお家に魔物はいません。先生の頭は大丈夫なのか心配になります。
「何ここ?! もうどうなっているのにゃあああああ?!」
「んぐう。えぐえっぐ?(落ち着いて。何が魔物なの?)」
「あれよあれ。あの人間に決まってるじゃない!」指プイ
「ぐぅ?(人間?)」
さっきから何を怯えているのかなと思いながらシロ先生が指差した方を見ます。あそこには普通の人間しかいませんよ?
「あの年老いた人間よ! さっきからずっと見てるでしょ?!」
「……」
……どうしよう。僕の目にはスーツを着ている白髪のおじさんしか見えません。他に人の姿はないのです。つまり魔物と呼ばれる人間はタクシーさんしかいないのですよ。玄関の前でにっこり微笑みながらこちらを見ていますね。
なぜかシロ先生にタクシーさんは魔物扱いされてます。何か誤解があるとしか思えません。
よし、ここは僕が誤解を解きましょう!
「ぱいぱーい(あの人は大丈夫だよ)」
「どこがよ?! あんなのがいるからここに誰も住みつかないのよ!!!」
タクシーさんはひどいこと言われてますな。でも猫が寄り付かない原因がはっきりしましたね。きっとタクシーさんはこのお家の守り神みたいな存在なのです。
「うぐぐ~(まあ見ててよ)」
「危ないわよ?!」
僕はにこにこ笑いながらタクシーさんに手を振ります。すると気付いたタクシーさんも手を振りかえしてきました。ほら優しい人でしょ?
「んぐ(ね?)」
「あなた何者なの?!」
お家に近づくにつれシロ先生が固まります。そして、ブルブルと震えが止まりません。仕方がないので僕の指示通りに動くよう説得しました。ここを乗り切ればおいしいお肉食べれるよ、頑張れと。
「皆様お帰りなさいませ。おや? こちらの猫はメンテ様のお友達ですかな?」
「うぐぅ」←めっちゃ可愛い声でシロ先生を撫でる
「ほほっ。可愛いですね」
「うーぐー(今だよ)」
シロ先生はベビーカーから飛び降りてタクシーさんの前に移動します。そして、ごろんと転がってお腹を見せます。その様子をタクシーさん以外の人はえ? という感じで見てますね。あの猫急にどうしたの感がすごいです。
「ほほっ。この猫には敵意がないということですな。ようこそナンス家へ」
「にゃ、にゃあ~」
こうしてシロ先生は無事ナンス家に迎え入れられたのです。
家の中に入ると教会に行った僕以外の4人(母、兄貴、アーネ、カフェ)は、今日はこれで遊んだやら僕が猫を離さないことをタクシーさんと話してますよ。
僕は猫のシロ先生としかおしゃべり出来ないのです。だからみんなの話はスル―してシロ先生とだけお話します。これだと猫と遊んでいるようにしか見えないよね。
「……あれで良かったのね。急にゾワゾワ感がなくなったわ」
「えぐぐ(でしょ)」
「もうあの老人も普通の人間と変わらないわ。あのとき威嚇されていたのかしら……」
「うぐぐぐぐぅ~(きっとよそ者だと警戒してただけだよ)」
「まあその気持ちは分かるわ。もう安心していいわよね?」
「あーうー(でもあのとき僕を引っ掻いたら処分されてたかもね)」
「……え?」
「えぐ?(え?)」
この出来事が原因で、あの老人はヤバいと猫の間で噂になるという。
その3に続きます




