10話 「町にお出かけ その1」
前回までのお話
屋敷の中でたくさんの人に甘えた。
僕はメンテ。この異世界に来てから半年が過ぎました。今日は家族揃っての初めての外出です。
「今日はお天気日和だ。家族みんなで町に行こうじゃないか」
「えっぐ~」
父がはりきっていますね。僕は父を見ながらかわいい声を出します。お、笑顔になりました。なんてチョロ……ごほごほ、扱いやすい人でしょう。
「わたし、絵本が欲しいー」
「俺は何かおいしいものが食べたい!」
アーネとアニーキ―がおねだりしています。僕が言うのもなんですがとても子供らしいですね。
「あ、あぐ~、うぐぅ~(あ、おしっこ出そう)」
ぶるっと震えるとおしっこが出ちゃいました。まだこの体は言うことが聞かないです。半年もしたら羞恥心なんて皆無ですよ。それとお腹も減ってきました。
「今日はメンテちゃんも連れて行きたいけど……、ちょっとご飯は無理そうね。ごめんねアニーキ―、お昼はお家で食べましょう」
「メンテは赤ちゃんだから仕方ないですよ。俺は我慢出来るからいいけど」
アニーキ―は残念そうな顔をしています。ですが、兄としての威厳があるのでしょう。僕は少し申し訳ない気持ちになりました。とりあえずごめんね、と心であやまりながら見つめておきました。
「……?」
全然伝わりませんでしたが、怒ってもいないので結果オーライです。
そして、昼食を食べ終えてから出かけることになりました。母は我が家をお家と呼んでいましたが、僕には広すぎて屋敷にしか見えませんね。
◆
昼食の後、準備をすると父とタクシーさんはどこかに消えました。僕は眠くなってきたので少し眠ります。赤ちゃんですから許して。
「フフッ、メンテちゃん寝ちゃったわ。パパとタクシーさん待つ間にどこに行くか決めますよ」
「わたし絵本~」
「俺は、魔道具でも見に行きたいです」
「本屋と雑貨屋さんね。アニーキ―は何か欲しい道具があるのかしら?」
「いえ、特にこれといっては。最近の魔道具を見てみたいなと」
「メンテちゃんを驚かせたいのね」
「―!」
アニーキ―は顔が赤くなった。この母は何でもお見通しなのである。
「お兄ちゃんおもちゃ欲しいの?」
「うん、最近は面白いものが増えたから見るだけでもね」
「面白いってなあに?」
「父さん頑張っているから商品が増えたんだって」
「そうなのー?」
魔道具といえばナンス家であったりする。まだアーネはナンス家の仕事について知らないのであった。
「フフッ、行けばわかるわよ。そろそろパパとタクシーさん戻ってくるわ。準備しなさい」
◆
母に抱っこされたとき、目が覚めてしまった。いつの間にか僕は玄関にいた。
「だ~ぅ?」
「メンテちゃんおはよう」
「メンテおきた~?」
アーネがお尻を突いてくる。ブスブスってそれカンチョ―だからやめてね。
「はっはっは、みんな準備はいいかい?」
パパが戻ってきたようです。
「父さん遅いです」
「早くいこー」
「はっはっは、これを持ってきたんだ。タクシー」
「ははっ」
父に呼ばれたタクシーがなにかを持ってきました。
「だぁぶぅ~?!(なんじゃあれ?!)」
「じゃじゃーん、メンテのベビーカーだ。なんと荷物を詰めることもできるのだー!」
父は変なテンションで説明をしました。タクシーが持ってきたのはベビーカーでした。僕が知っているベビーカーとは明らかに違います。きっと異世界だからでしょう。
「えぐぅうううううう(浮いている!!!!!!!)」
そうです、このベビーカーにはタイヤの部分がありません。それ以外は日本に売っていたものと同じだと思います。ベビーカーには、赤ちゃんと親が向き合う対面タイプと赤ちゃんが外の風景を楽しむ背面タイプがあります。これは浮いているのでどっちでも可能なようです。
「さらに! これはうちの試作品で、防犯システムもついている!!」
「ぼうはんしすてむ?」
「父さん、見せてください!!」
「だぶぅ?(え? なにそれ)」
「はっはっは、魔力を流しながらここを押すのだ!」
ベビーカーの周りに結界? みたな紋様が広がった。すると一瞬でベビーカーが変形し、まるで僕のいた世界の車みたいなボディになっている。タイヤのない浮いている車をイメージしてほしい。めちゃくちゃ頑丈そうなベビーカーである。
「さらに、ここをぽちっとな」
車となったベビーカーの前方に何かが発射された。さながらマシンガンのようにズバババと小さな炎が飛んでいく。この炎が地面に触れると爆発を起こし、真っ黒どころか大きな穴ができてしまった。
「「「……」」」
「おおおおお!!」←アニーキ―
「はっはっは、どうだすごいだろう」
僕達はあまりの威力に驚いてしまった。アニーキ―だけ目がキラキラしていた。
「さすがですぞ旦那様、これで賊はいちころですなあ」
「父さん、すごすぎですよこれ!!」
「だ、だ、だぁああああ!!!(か、か、かっこいい!!)」
タクシーも僕もアニーキ―と同じような目をしていた。どうやら男性陣にはうけがいいみたいだ。
「これはなにごとですか!!?」
お家から使用人がたくさん出てきた。ナンス家の敷地が真っ黒に焦げ、いたるところが穴だらけである。玄関から正門までの道は跡形もない悲惨な状況であった。
あ、キッサさんが無言で近づいてくるぞ。タクシーさんしか見ていないね。タクシーさんはすごい汗をかいていた。さっきまで目が光ってたのにね、今では目が暗いよ。
ベビーカーからママを見るとにっこり笑顔だね。笑っているようで全然笑ってないね。すごい怒気を感じるよ。父さんも死んだような目で固まってしまったよ。
「……何か言うことはありますか?」
「……パパ?」
「「ご、ごめんなさい!!!!!!」」
それはそれは綺麗な土下座だった。日本だけではなくこの異世界にもあるんだね!