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もぐもぐごくごくぱたんきゅ〜

前振りはない!

本編をどうぞ。

「うんまいね〜、このチョコパイ。クリームがあまあまでデリシャース♪」

「おいキック、チョコパイ食べ尽くすなよ? こっちのポテトもどーぞ。はい、あーん♡」

「アーン♡」


 始まったお茶会。神室村の森の中、泉の畔にある車の後部座席を開けてお菓子とお茶を敷き詰め食べる、少年少女四人組。飛び込みから着替えてサッパリした少年キックは好物のチョコパイを貪る姿をやんわり文句で咎められ、代わりにしょっぱいポテトスティックをあーんされるが、あーんしているのは同じ男、ドレッドヘアーのテンテコである。セリフだけ聞くと甘ーいシーンに見えるけどそんなことはない。爽やかでは、あるかもだけど……。


 少年二人が男同士で楽しんでいるように、少女二人も女の子同士で楽しんでいた。泉に飛び込んだ後携帯用ドライヤーで髪を乾かしお嬢様っぽい縦ロールを復活させたショーコがお団子頭のインパクトが大きいユキとティーカップを持ってキャッキャウフフとお茶会(ティーブレイク)のオーラ全開で天使のような笑顔を見せ合う。ただしティーカップの中身はスポーツドリンクだ。若い上に夏の7月。紅茶よりも代謝を補うスポーツドリンクの方が必要だという選択だ。近くにトイレもない森の中、紅茶ばかり飲んでいては用も足せない事情もある。なにせここは廃村の、人を拒む森の中だ。夢を見るより現実論。


 お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、笑い合ったり、青春している少年少女の四人組。そのまま砂時計が1時間くらい、砂を落とした頃だろうか――。

 空模様が変わってきた。青々とした空は灰色がかった白雲に覆い隠され空が雲一色に染まる。いわゆる曇りになったということ。

 雲はどんどん黒くなる。お天気ニュースでよく言われる積乱雲の発達だろうか? そんな区別、四人にはつくはずもないが、「ヤバい」ことは一目瞭然。すぐさま後部座席のスペースに広げていたお茶会セットを隅に寄せて片付けてから、後部座席を戻した後トランクドアを締めて回り込んで運転席助手席、そして後部座席に横のドアから駆け込んだ。ぱたんとドアを閉めた直後、窓には雨粒がぶつかり出した。


「降ってきたな。結構激しそうだ」

 助手席に座ってワイパーの動かないフロントガラスを眺めるテンテコが下から天を見上げてコメント。その様は幼子が手を持ち上げている親を見上げる構図に似ている。まあ見上げているものは親より遥かに大きいですが。

 運転席のユキ、後部座席のキックとショーコもそれぞれ窓の外を見てはテンテコと同じ思いに浸る。空を覆う雲、天から零れ落ちる雨、大気に木霊する雷鳴と雲を照らす稲光。


 五感で感じる夕立の情報が、『荒れ』のイメージで四人にプレッシャーをかける。随分勝手を知った森でも夜まで待てるわけじゃない。帰りは夕方烏と一緒に。日暮れまでには帰りたい。雨は止んでくれるだろうか?

 これこそがキック、ショーコ、テンテコ、ユキの四人が最重要視する事情だった。


「止むかしら?」

「あ、そういえば荷物の中に防水ラジオあったわね。どこかでお天気情報が聴けるかもしれないわ」

「ナイスだぜショーコ。じゃあそのままキックと二人、トランクの荷物探してくれー」

「オッケー」「オーライ」

 会話のはずみで後部座席に座るショーコとキックが荷物からラジオを探すことになった。後部座席の背もたれをパタンと倒して寝転がりながら頭の先にある荷物をがさごそ探ってラジオを探す。やがておやつや飲み物とは違う袋から発見されたよ防水ラジオ。キックが背もたれごと起き上がって後から続くショーコの横で、前から見ているユキとテンテコの見てる中、チューニングを合わせてみる。


 ジ……ジ、ジジジ――ピューとどこかの電波と波長が合い何か聴こえてくる。キックがダイヤルを注意深く回していくと、やがてノイズが消え、クリアな音声が聴こえてきた。やったと思う四人全員。でもすぐに頭をひねる。なぜなら。


『セレンディップ祭政庁より通達。行方不明の埋葬車を探し出せ。繰り返す――』


 という、天気予報とも関係ない、全く馴染みのない言葉が聴こえてきたからだ。

 そのすぐ後だった。

 車の窓越しに頭上の雨雲が真っ白に染まり、同時にドンと言う轟音が車に直撃して車の中がゴロゴロと揺れたのだ。

 シートベルトをしてなかった四人はピンボールのように弾き跳ばされ、ぶつかり合って気を失った。


******

 静かな空気。涼しい肌触り。感覚がある。生の実感だ。

 運転席に座っていたユキが自分の意識が有ることに気付く。気を失っていたのね――目を開こうとするが、中々思うように開けない。代わりに視覚以外の感覚で気付くことを真っ暗な頭の中で整理する。


 静かな空気――雨が止んだ? なら今は何時? 危機感がドッと溢れ出す。

 涼しい肌触り――冷えている? まさか夜? ますますマズい。


 ユキは気迫で目をガバッと見開いた。肩で呼吸する激しい息づかいと共に目の前を確認して、言葉を失った。

 光が入ってくる。よかった、夜じゃなかった。日中だった。それだけならいい、それだけなら。

 でもそれだけじゃなかった。時刻はよくても場所が変だ。ここは、あの森の泉の畔ではなかった。


 一面を見渡せる広い平野のちょっと高い丘の上。道もない、草むらの上に自分達四人が乗っていた車が鎮座している。

「ここ、何処……?」

 木も無い丘の草原の上、車の中からその光景をキョロキョロ眺めるユキは、慌てて隣後ろで気絶したまま寝てるテンテコ、キック、ショーコを起こす。


 四人の少年少女は、どこか知らない場所に、来てしまったようだ――。

終わりに言うこと。

読んでくれて感謝。

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