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これからはじまる、青春時間

前振りはない!

本編をどうぞ。

 7月も半ばを過ぎた頃、あの少年少女四人組の一人、長身屈強茶髪ドレッドヘアーの少年が神室村の森の中を自分の庭のように進む。すいすいたたたと慣れた足で。この7月に初めて足を踏み入れた時は四人で命綱つけた上で目印の石を落としながらのドキドキビクビクだった小僧も、休日平日と通い詰めて慣れてくると土地勘がついてきた。今では森のブナの木一本一本の見分けさえもつくようになっているのだから、勝手知ったる我が家のようなものだ。家にしては広すぎるけど。


 少年の両手には布地のトートバッグが握られている。中から飛び出しているのは2ℓペットボトルのキャップだ。この少年は森で見つけた『秘密基地』で今日飲み食いする分のお菓子と飲み物を買い出しに寄り、一足遅く向かっている。


 あの秘密基地――泉の畔の車に。


「おまたせー。買い出ししてきたぞー」

「ああ、御苦労様テンテコ。キックとショーコは今崖の上の発電機見に行ってるわ」

「そっか。だからユキが留守番なんだな」

 車の運転席でファッション雑誌を読んでいると見せかけてその実中に挟んだ家電雑誌を読んでいた、右と左にシニヨンふたつの黒髪お団子頭をした右目青い眼左目黄色い眼の少女――ユキと呼ばれた女の子が雑誌を運転席と助手席の間に除けて、倒していたリクライニングを持ち上げて開いていたドア窓から首を出し、ドレッドヘアーの少年――テンテコに労いの言葉と残る二人の居場所を告白。テンテコも納得した様子でドレッドヘアーを荷物を持ったままの右手で一掻きすると後ろに回ってトランクドアを開けて中に入り、買い物袋ふたつを置く。車の中で飲み食いするために既に後部座席は倒されて真ん中には持ち込んだミニテーブルが用意されていた。テンテコは一度ふたつの袋をテーブルに置いた後、素早く2ℓのコーラボトル一本ととんがりコーン一箱を出してから残りをテーブルから持ち上げて袋ごと隅っこに寄せる。そして反対側の隅に置かれていた持ち込み荷物の中から、水筒用のカップ4つと紙皿ひとつを引っ張り出してテーブルに盛りつける。言うまでもなくこれからはじまるティーブレイクの準備だ。


「準備できたぞー」

「オーケー、私呼んで来るわ」

 ガチャッとドアの開く音がする。バタンとドアの閉まる音もする。運転席から後ろの様子を伺っていたユキが準備を終えて顔を持ち上げたテンテコの作業報告を目と目を合わせた状態で受け取り、今度は自分の番と運転席から泉へ飛び出してロープのはしごがぶら下がった崖の上に向かって声を出す。バンドのメインボーカルで鍛えた良く通り、良く響く風木霊(かぜこだま)のような唄を。


「キックー、ショーコー、お茶の時間よー!」


 森の木々がちょっとだけ枝葉を揺らす。(まこと)の声は自然と共に鳴り、そして揺らし得るものだ。

 返事はない。これもいつものことだ。

 だが必ず答えてくれる。これは確かなことだ。わかる。ずっと一緒だったのだから。

 暫く経つ。すると崖の上から泉に向かって皮袋が投げ落とされた。落下軌道は正確に泉の中、水に落ちれば投げても袋の中身は大丈夫。そして人が落ちても大丈夫。


「今行くぜダーイヴッ! 一番、ドラム、キック、GO!」

「続けて二番、ベース、ショーコ、Hi!」


 なんと皮袋を投げ落としたキックとショーコが続けて泉に飛び出し空中に姿を見せる。テンテコより少し背は劣るし痩せ形だがモデル体型とも言える細かく逆立った銀髪頭の少年キックと、一歩先の年上風グラマラスボディにクリーム色のロングヘアーを縦ロールに巻いた見てくれお嬢様風の少女ショーコだ。

 皮袋が着水する。沈むことなく水面に浮く。続け様にキックとショーコが頭から高飛び込み選手よろしくスッと色付きの水滴がフラスコの水に溶けるように潜る。水面は揺れるが起きても細波。皮袋に悪影響はない。むしろこの飛び込みで生じた細波が泉の真ん中に浮いていた皮袋を岸へと運ぶのだから大したもの。呼び声を上げたユキが岸辺に沿って動き、皮袋を引き上げる。

 そしてそのタイミングで泉の中から飛び出る頭が1,2=ふたつ。キックとショーコが口から水を噴き出し、陽射しに負けないほど明るい表情でユキに笑いかけ手を振る。ショーコの縦ロールは髪の毛が水を吸ったことで崩れてしまったが、ショーコの笑顔はそんなこと全く気にしていないって風である。腕で水を掻きユキのいる岸へと向かってまずキックが陸へ上がり、そしてそのまま屈んだ状態で次のショーコに手を差し出す。ショーコはその手を掴んでキックに難なく引き上げてもらう。立ち上がった二人の身体から滴り落ちる水、水、水。髪は萎びた野菜のように地面に真っ直ぐ下りているし、衣服は湿気と重みで肌に密着しており、色まで溶けたシャツや上着から肌や下着の色が透けて見える。ズボンとスカートもピッチリと太腿に張り付いてる――つまりそそる格好になった、性的に。『水も滴るいい男/いい女』とはよく言ったものだ。水は性と色を司るエレメント。それを浴びれば色っぽくなる。


「いやあ、きんもちいいなあー飛び込みは」

「ええ、自然の水は最高ね! 人の手の及ばないありのままだから気持ちいいのよ。きっと生まれる前にお母様のおなかの中にいた時もこんな感じだったのよ」


 水滴をポタポタ落とし足元の草に潤いと日陰をもたらすキックとショーコの感想談を引き上げたユキはお腹を震わせながら笑顔で聞いている。行動も話すのも聞くのも楽しいのだから、筋金入りのマブダチだ。


 そんなバカバカしくも微笑ましいやりとりに混ざるように、ユキの背後からバスタオルがふたつ、空を泳いでひらひらふわふわと舞いながらキックとショーコの頭に被さる。タオルに隠れて目が見えなくなったキックとショーコに代わってユキが振り向くと、右手に二人の着替えの入った袋を持っているテンテコがいて、「俺も混ぜろよ。てかお前らが混ざれよ、か。もうティータイム始めるぞ。さっさと着替えろ、キック、ショーコ」と促してくる急かしてくる。

 首元のバスタオルを手探りでずらし視界を確保したキックとショーコも急かす割に余裕の面構えをしているテンテコを見て「しゅまん(すまん)」と詫びてから着替えを始める。


 夏の陽射し。森の木陰。泉の清水。滝の飛沫。

 全てに感謝と讃歌を捧げ、キック、ショーコ、テンテコ、ユキ、四人の少年少女はその場を借りて青春を楽しもうとしていた。

終わりに言うこと。

読んでくれて感謝。

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