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第八話 王宮へ

 王都へ到着した翌日、ソフィアは早速王宮へと向かった。本日、花嫁選びの一次選考試験があるのだ。王宮の手前までコーリアに馬車で送ってもらったソフィアは、メルと共に馬車から降り立った。


「ソフィアお姉ちゃん、頑張ってね!」

「ありがとう、アンリ」


 馬車の中からアンリが手を振ってくれたので、ソフィアも笑顔で手を振り返す。そして、コーリア達の乗った馬車が屋敷に戻るのを見送った。


「さてと……」


 ソフィアは王宮の入り口の方を振り返る。

 遙か向こうに見える王宮は、まさにソフィアの想像したとおりの外観だった。黄土色の石造りでコの字型をしているように見える。そのコの字の両端からさらに両翼廊が広がり、左右に大きく広がっていた。奥がどうなっているのかまではわからないが、少なくとも表から見る限りはソフィアが本で読んだイメージそのままだ。

 その王宮へと続く石畳の道の手前には、市中と王宮の敷地を隔てるための大きな門がある。その門の前では、たくさんのご令嬢達が並んでいた。今日の花嫁選考会に参加するご令嬢だろう。


 門の前では門番を務める兵士数人と、眼鏡をかけた執事風の男性が立っている。執事風の男性は手に書類を持っており、門を通るご令嬢のチェックを行っていた。


(凄い。さすがに国中から若いご令嬢を集めてきただけあるわね)


 門の前の列は遥か後ろまで伸びている。ソフィアはきょろきょろと辺りを見渡した。

 見るからにお金がかかっていそうな装飾が施されたドレスや日傘を持ったご令嬢が多い。化粧もバッチリと決まっており、その気合いの入りようが窺えた。ソフィアはその一番後ろに行くと、ちょこんと列に並んだ。


「何分待たせるつもりかしら」

「本当に。ああ、こんなことなら、もっとしっかりとした日傘を持ってくるべきだったわ」


 大人しく並んで待っていると、そんな声がそこかしこから漏れてきた。いつまでも進まない長い列に、不平不満が溜まっているようだ。


(文句を言ったからといって、列が早く進むわけでもないのだけどね……)


 ソフィアはそんなことを思いながらも、大人しく列に並んで待つ。

 その長い列に並んで中に入る順番を待つこと二十分、ようやくあと数人となっているところで事件は起きた。派手なドレス着たご令嬢が列を無視して門の前までやってきたのだ。


「凄いわ。あのドレスの中はどうなっているのかしら?」


 そのドレスを見たソフィアは、驚きのあまり思わず凝視してしまった。


「本当に。凄いですわね」


 隣にいる付き添いのメルも目が釘付けだ。その黄色のドレスのスカートはまるで風船のようにパンパンに広がっており、幾重にもチュールが重ねられた上にシルクのドレープが重なっている。

 ご令嬢の鮮やかな赤髪には白い宝石のついた金細工の髪飾りが光り、首にも耳にも、頭の天辺から足のつま先に至るまで、まばゆいばかりの宝石が輝いている。太陽の光を浴びて、キラキラどころかギラギラだ。


(すごいっ!)


 王都ではこんなファッションがあるのかと、ソフィアは呆気にとられてしまった。


「開けて。ビクティー侯爵令嬢のルイーナよ」


 ツンと澄ました歩く宝石箱(ご令嬢)は執事風の男性に向かってそういうと、胸元から白い紙を取り出した。ソフィアにも届いた、この花嫁選考試験の召喚状だ。

 男性はそれを受け取ると手持ちのリストと見比べて頷き、その紙をご令嬢に返す。


「ようこそ。ルイーナ様。順番にご案内しますから列の一番後ろにお並びください」


 ソフィアはチラリと自分の後ろを振り返る。列は既に百メートル以上伸びており、下手をするとソフィアの場所からさらに三十分近く待つかもしれない。

 ルイーナと呼ばれたご令嬢は呆気にとられたような顔をすると、不愉快げに顔をしかめた。


「なんですって? わたくしはビクティー侯爵令嬢よ?」

「存じ上げております」

「いつも優先的に開けてもらっているわ」

「本日はお並びください」


 丁寧に、しかしきっぱりと門を開けることを断られ、ルイーナは顔を真っ赤にした。


「ふざけないで。わたくしのお父様は財務副大臣を務めているのよ」

「さようでございますか」


 親の権力を振りかざし横はいりしようと詰め寄るルイーナを、執事風の男性は素っ気なくあしらう。


「ルイーナ様。悪いことは申し上げませんから後ろにお並びください」

「お黙りなさい。お父様にお願いしてあなたを首にしてやるわ。名乗りなさい」

「仕方がありませんね……。わたくしは殿下から選考会を受ける方をお通しする全権を任されております。ルールを守れない方を王太子妃候補としてここをお通しするわけにはいきません。未来の国王の妃ともあろう者は他の範になる方でなくては」

「っつ! わかったわよ。並べばいいんでしょ!」


 怒ったようにそう吐き捨てたルイーナに、執事風の男性はにっこりと笑いかけた。


「いいえ。もう並ばなくて結構でございます」

「え?」

「ルイーナ=ビクティー様。ここで落選とさせていただきます」

「っつ! 嘘よ、ちょっと待って!」

「嘘ではありません。どうぞ、お帰りください」

「いやよ、待って!」

「おい。誰か、ビクティー侯爵令嬢をお送りしろ」

「いやぁ! お願い。待って! なにかの間違いよ! 離して、無礼者!」


 執事風の男性が命じた途端、横に控える兵士がルイーナを拘束する。付き添いの侍女はその横で真っ青になって立ち尽くしていた。その様子を、列に並んでいたご令嬢は皆呆然と見送った。


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