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第四話 ヤーマノテ王国の王族達②

 ちなみにソフィアの持つギフトは『嗅覚』と呼ばれるものだ。

 その名の通り鼻がよいギフトで、その能力は犬並みと言われている。けれど、犬の嗅覚がどれ程いいのかを犬自身に聞けるわけではないのであくまで『言われている』だけだ。


 もしもソフィアが保安官や騎士ならば、この力を利用して犯人追跡の役に立てたかもしれない。けれど、ソフィアは貴族令嬢の端くれなので、日常生活を送る上でなんの役にも立たない。野菜が腐っていないかを嗅ぎ分けられるくらいだ。


 昔、社交パーティーで髪飾りを落とした子がいたので匂いを頼りに探し出してあげたら、お礼を言われるどころか『犬みたい』と笑われたことがあった。そんなことがあったせいか、今ではこのギフトがむしろソフィアのコンプレックスになっていた。


 ソフィアはなんとなく興味が湧いて、ロバート王子の欄を先に読み始めた。

 第四王子であるロバート王子は現在二十歳。第一王子と同じ、正妻である王妃の子供だ。薄茶色の髪に青い瞳をした爽やかで優しげな青年と書かれていた。普段は第一王子のアーサー王子の近衛騎士を務めているそうだ。


「近衛騎士……」


 ソフィアはふーむと唸った。

 国王になれなかった王子達は、将来的に家臣へと下る。その際は公爵位を賜って一貴族として独立することもあれば、嫡男のいない高位貴族に婿入りしたり、王族ではあるが王位継承権を放棄して、そのまま国の要職につくこともある。

 ロバート王子はこの歳で近衛騎士になったということは、剣の使い手であり、将来的には近衛騎士団長や将軍を目指しているのだろう。


「そう言えば、今の王弟殿下も近衛騎士団長だったわね」


 国王陛下には何人かの弟がいるが、確かそのうちの一人が近衛騎士をしていた。そして、その王弟殿下もあまりパッとしないギフトの持ち主だったと記憶している。

 ソフィアは最初に戻ると、他の欄を読み進めた。

 第二王子のイースト王子は第一王子と同じ二十三歳。金髪にアメジストのような紫色の瞳をした、見目麗しい男性らしい。アーサー王子より誕生日が三ヶ月ほど遅く、母親は側妻の元公爵令嬢となっていた。

 ソフィアが特に興味が湧いたのは、彼が『浮遊』のギフトを持つこと。

『浮遊』のギフトは特に重用されるギフトの一つで、持っている人はほとんどいない。その名の通り、物を宙に浮かせることができるという。ちなみにソフィアは一度も見たことがないので、是非ともお目にかかってみたいものだ。

 ソフィアはそんなことを思いながら、その書類の続きを読み進めた。


 何枚かに亘る王族について書かれたその書類は、末娘の第三王女、エノーラ姫で締めくくられる。ソフィアと同じ十八歳でシルバーブロンドの髪にアメジストの瞳の美少女だそうだ。おまけにギフトは『治癒』。ちょっとした怪我なら触れただけで癒せるという、医療関係者はもちろんのこと貴族令嬢からも人気の高いギフトだ。


「わたくしも、こんな素敵なギフトだったらよかったのに」


 書類をテーブルの上でトントンと揃えると、ソフィアは口を尖らせて天井を眺めた。

 国王陛下には正妻の王妃の他に、二人の側妻がいる。七人の王子と王女達は、この三人の妻達から近い時期に次々と生まれた。つまり、愛する人の子を身に宿しているときに、その人は別の女性と逢瀬を重ねていたということだろうか。


「やっぱり、どう考えても王太子妃なんてあり得ないわ」


 結婚するからには相手の唯一でありたいと思うのは当たり前のことだ。

 仕方がないから王都には行く。けれど、観光でもしたらすぐに帰ってこよう。

 ソフィアは益々その決心を固くしたのだった。 

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