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第十四話 二次選考②

 

 部屋の外には、先ほどソフィアをここに連れてきた政務官が立っており、すぐに隣の部屋に案内された。この部屋も普段は舞踏会の控え室になる場所で、大きなソファーセットが置かれている。

 ソフィアはそのソファーに腰を下ろすと、ふぅっと息を吐いた。


「ほとんどなにも聞かれずに終わったわ」

「そうでしたわね」

「ダメかも」

「まあ、それならそれで仕方がありませんわ」


 メルがソフィアを元気づけるように笑う。


「メルってばギフト持ちだったのね」

「わたくしも知りませんでしたわ」

「本当ね。ふふっ、どうりでメルといると落ち着くと思った」

「落ち着きますか?」

「落ち着くわ。さっきも緊張せずにいられたのは、メルのおかげかも」

「『微力』って仰っていましたから、大した効果はないかと」

「でも、落ち着いたわ」


 ふふっと笑うソフィアを見て、メルもつられたように口の端を上げる。


「わたくしはソフィア様といると和みます。ギフトではないなら、ソフィア様の天性のものですわね」

「本当? 嬉しいわ」


 目が合うと、二人はくすくすと笑い合った。やっぱりメルはソフィアにとって、最高の侍女だ。先ほどおかしな二人組に絡まれたけれど、あの二人、許すまじ。


「さっきの部屋、凄くいい匂いがしたわよね。香水の」

「そうですか? わたくしは気が付きませんでした」


 メルは首を傾げる。ソフィアにはとてもよく匂ったのだが、どうやらメルは感じなかったようだ。これも『嗅覚 強力』のなせる業なのか。

 ソフィアはテーブルに用意されていた焼き菓子を手に取ると、それを一口だけ食べた。サクッと音を立てて崩れた焼き菓子はさすが王宮が用意しただけあり、上品な味がする。


「随分と簡単な面接試験だったけど、全員あの調子なのかしら? ──いくら力が強いとはいえ、『嗅覚』って貴族令嬢のギフトとしてどうなの……」

「『強力』だからいいではないですか。ギフトの力が強いことはいいことですわ。たぶん」

「『嗅覚』の力って、なにも役に立たないわよ? ──やっぱり、メルといると場が和むわ」


『嗅覚 強力』はどう考えても王太子妃向きのギフトではない。けれど、メルは悲観することなく前向きに解釈してくれるので、ソフィアの心も軽くなるのを感じた。

 ソフィアはメルを見つめてにこりと笑う。メルはそんなソフィアを見返して目尻を下げた。


「ソフィア様は誰よりも素敵ですわ。わたくし、朝から色々なご令嬢をつぶさに観察してまいりましたけれど、美しさはもちろん身のこなしの優雅さも、上品な佇まいも、負けておりませんわ」

「あら? では、お母様に感謝しなくてはね」


 ソフィアはペロリと舌を出し、おどけて見せる。


 洪水後、マリオット伯爵家では家庭教師を雇うお金がなかったので、ソフィアの礼儀作法は全て母親に教わった。母には帰ったらきっちりとお礼を言おう。

 そんなことを思いながら歓談していると、ドアをノックする音がしてソフィアとメルは入り口に注目した。カチャリと音がして、姿を現した男性がぺこりとこちらに頭を下げる。


「ソフィア=マリオット嬢」

「はい」


 ソフィアはゴクリとつばを飲み込んだ。遠路はるばるここまで来て運命の人に一方的に片思いをしたけれど、雨よけコートも返せないままここで門前払いか。そんなことが脳裏によぎり緊張の面持ちでその男性を見つめる。男性はチラリと手元の紙を見つめ、ソフィアの方を見た。


「面接、ギフト鑑定共に問題ありません。二次選考は通過です」

「──通過?」

「はい、通過ですよ」


 男性はポカンと口を開けるソフィアに向かってにこりと微笑み、一枚の紙を差し出した。


「こちらに三次試験の集合場所が書かれています。指定の日時に集合してください。お疲れ様でした」


 男性の後ろ姿を見送ってから、ソフィアはようやく手元の紙を見た。そこには、明日の日付と集合時間、集合場所、そして、この紙を王宮の入り口で見せるようにとの注意書きが書かれていた。


「やったわ! メル、わたくし二次選考も通過ですって!」

「はい。おめでとうございます!」


 アーサー王子はソフィアのことを忘れているようだったけれど、試験を勝ち抜けば会話するタイミングもあるかもしれない。そのときは「あの時はありがとうございました」といって雨よけコートを返そう。ソフィアはそんな思いを胸に抱き、次なる三次選考への闘志を燃やした。


「さあ、帰りましょうか」


 ソフィアは部屋に忘れ物がないか見まわして、なにも落ちていないことを確認すると部屋を出た。

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