第八話 交代戦略
模擬戦用の刀をギルドの受付嬢、レセプが二人に手渡す。
「この模擬刀は攻撃を受けるとスタミナを奪われるマジックアイテムです。一応固いので痣にはなるかもしれませんが、致命傷にはならないように刃はなまくらにしていますのでご安心ください。スタミナ切れになって戦闘不能になった方が負けです。よろしいですか?」
「判った」
「構わんよ」
俺たちの了解を得て、レセプが審判として模擬戦の開始を告げる。
「それでは模擬戦、開始っ!」
開始の合図と共にウラヌスが飛び出してきた。
赤髪の少女はなんとかウラヌスの攻撃を剣で受ける。
次にウラヌスが剣を横に払ってくるが、赤髪はそれをバックステップで躱す。
「俺様の方が一方的になるかと思っていたが、なかなかやるな、Nのくせに」
赤髪はどうにか攻撃を受けずにいるが、一向に反撃に出る様子がない。
「頑張れ赤髪!」
俺が声をかけると少しだけ赤髪の動きがよくなった気がする。
「ナツ、試合中になんだがお前まだ名前を付けていないのか?」
いつの間にか俺の背後に立っていたドウグラスが話しかけてきた。
「名前? それってどうしたらいいんだ。特にあの娘たちは名乗っていなかったが」
「Nのガチャ人は自分の名を持っていないんだよ。だから普通の無名なんだけどな」
「名前か……」
「召喚者がイメージした名前を付けてやれば、彼女らもよりお前さんの力になるってことだ」
「そうか……」
戦いの中、赤い髪が揺れる。
俺の中で光が灯った。
「イチカ、お前はイチカだ。俺の初めて召喚したガチャ人、それがお前イチカだ!」
一瞬だけ、赤髪が俺の方を向いた気がする。
「はいっ、イチカ頑張ります!」
そう叫ぶとイチカは左に飛ぶ。それまでイチカがいた場所をウラヌスの剣が通過した。
「速いっ」
今までとは違う、キレのある動き。
イチカが攻撃を仕掛け、ウラヌスに小さいながらもダメージを与えていく。
「きゃっ!」
その中をついてウラヌスもカウンターを仕掛けてくる。
「くっ、さすがUR。痛い! そして硬い!」
「そらそらどうした? このままだと俺様の勝ちになっちゃうぜー!」
「ナツ様、イチカの攻撃では少ししかダメージを与えられません!」
「なのにこちらはあと一発も受けたら戦闘不能になりそうな程へたばっているぞ……」
イチカはギリギリのところでウラヌスの攻撃をかわす。
「レセプ、模擬戦では交代が認められるか?」
「はい、戦闘不能にならなければ交代は可能です」
「それならイチカに代わってニコ、行ってくれるか?」
俺は青い髪の女の子を呼んで、ニコと名付けた。
「はい、ナツさん!」
「頼んだ」
青い髪の女の子、ニコも今までの姿から少し変化が見えた。
やる気に満ちた表情に、気持ちスタイルもメリハリが出たように見える。それに何より、みなと同じようなショートカットの髪型が、今では青いロングのストレートになっていた。
「名前の力、というやつか……」
ガチャ人の潜在能力には驚かされる。
「よし、行け、ニコ!」
「はいっ!」
イチカとニコがバトンタッチする。
交代したイチカの近くの地面をにウラヌスの剣がえぐった。これを食らっていたら試合終了だったかもしれない。