第六話 練習試合の申し出
「えっと、ナツ様? ナツ様、Nのガチャ人は明日の朝には元の世界に戻れなくなりますのでご注意くださいね、よろしいですかナツ様。それにNのガチャ人の名前ですが……」
受付嬢が注意事項を言っているようだったが、俺は右から左というやつで聞いていたものの聴いてはいなかった。
それよりもこの十人のNをどうしようか。そればかりを考えていた。
「Nが十人か。違うところと言ったら髪の色くらいで特徴もないし、さてどうしたものかな……」
つぶやきながらギルドを出る。
ギルドの正面は少し大きな広場になっていて、噴水を中心にベンチなどが置かれていた。
「ふぅ」
ベンチに座った俺から大きなため息が出る。
N十人はそんな俺の後をついてきていた。
「ガチャ人はみんなこんな感じなのか?」
俺はとりあえず近くにいた赤い髪のガチャ人の女の子に訊いてみる。
「はい、召喚者の指示に従って行動します。よほどのことでもない限り、ですけど」
赤い髪の女の子はそこそこ顔立ちも整っていて、かわいいといえなくもない。街の中では埋もれてしまうくらいだが俺の村だったらかなりの美人扱いはされるだろう。村三番くらいの。
「今日は有り金全部つぎ込んじまったからな、何か仕事でもするか、ギルドの依頼でも受けるかしないと、明日食べるパンも手に入らないぞ」
だがやる気が湧かない。少し落ち着いたら仕事を探そう。
「はぁ……」
また大きなため息。
そんな俺の前に一人の男が現れた。俺の前に百連ガチャなんぞをかましてくれた奴だ。
「なんだ、カンピロなんとか。俺に用か?」
「カンピロではない、カンペオンだ! どうやら今晩の宿賃にも困っているようだな? どうだ、俺様と一勝負しないか」
チラチラと隣の黒髪の女戦士を見ながら俺に話しかけてきた。
女戦士は召喚時と違って、額にサークレットを乗せて剣や盾も立派なものを携えている。 よく見れば同じようにカンペなんとかも装備を揃えていた。
「勝負ってなんだ? 金なら無いぞ」
「別に金が欲しいわけじゃない。ちょっとした模擬戦だよ。俺様もこれから冒険に出るわけだが、少しでも戦いに慣れておこうと思ってね」
「そうか、俺も冒険に出ようと思ったけど、装備を揃える金が無くてよ」
「ハッハッハ、貧乏人はこれだから。後先考えずにガチャで持ち金を溶かしてしまうなんてな! まあいいだろう、模擬戦に勝てたら俺様が少し資金を提供してやらんでもないぞ、どうだ?」
ギルドの前で話していた俺たちの声が聞こえたのか、ギルドから受付嬢が出てきた。
「そういうことでしたら、私、レセプが審判を務めさせていただきますが、よろしいですか?」
突然割り込んできてこの娘は何を言い出すのやら。
「ほうお嬢さん、それではこの模擬戦はギルド公認のルールに従って行えるというものかな?」
「はい、カンペオン様。アンティルールも適用可能ですが、いかがなさいますか?」
「もちろんだとも。俺様は百ゴルドを賭けよう。それで……」
「なんだ、アンティルールって言うのは」
俺はカンペオンの言葉の途中で遮る。勝手に決められては困るからな。
「ナツ様、アンティルールというものは、お互いに何かを賭けて、勝者がそれを受け取るというものです」
「なっ、だが俺はもう百ゴルドなんて持っていないぞ」
「それはさっき聞いたさ。だからお前が払うのは、その後ろの奴ら……ガチャ人だ」