第三話 UR登場
地響きのような歓声がギルドにこだまする。
「百連ガチャ!」
「本気か!」
「まだ冒険者になりたての木札のくせに」
俺は近くにいる冒険者に聴いてみる。
「木札ってなんだい?」
聴かれた男は俺のことをまじまじと見つめる。
「ほほう、兄ちゃんも木札だな。木札っていうのは冒険者のランクのことでな、ネームプレートの素材のことを指しているんだよ」
そう言って見せてくれた男のネームプレートは、銅でできていた。
「銅、なのか? すごいのか銅は」
「まあそれほどでもないけどな、木札の次が鉄、その次が銅だ。俺は銅クラスの冒険者、ドウグラス。よろしくな、えっと……ナツ・シング、だよな。よろしくな、ナツ!」
ドウグラスは俺の木札を見て俺の名を確認する。
「ああよろしく。それでドウグラス、あの木札の新人の言う百連ガチャって」
「読んで字の通り、一回百ゴルドのガチャを百回連続で回すっていうものさ」
「百回……一万ゴルドもか!」
「ああ、俺たち銅クラスでも一万はそうそう貯められない額だからな。見世物としても面白いぜ」
それくらいになると、ギルドの中も大騒ぎになるわけだ。
俺も遠くからだが野次馬になってその木札の新人を見てみる。
歳は俺とそう変わらない男で、くりっとカールした髪とそれなりに整った顔立ち、すらりと背が高くそれでいて筋肉質にも見える。傷のない新品の鎧はランプの明かりを反射してまぶしいくらいにピカピカだ。
「さあさあこれから俺様、カンペオン様による百連ガチャの幕開けだ! 皆期待していろよ!」
「カンペオン様、確かに一万ゴルド受け取りました。それでは行ってみましょう、ガチャ、スタートです!」
受付嬢の掛け声でルーレットが回される。
ギルドにいる連中は誰もが息を呑んで見守っていた。
「そこだぁっ!」
カンペオンがルーレットのストッパーをかけると、ルーレットの回転が徐々に弱まっていく。
「それっ、いけっ、高レア来いっ!」
ゆっくり、ゆっくりルーレットの回る速度が落ちていく。
そして止まったその時、一瞬の静寂の後に訪れる歓喜の大爆発。
「いよっしゃぁ!」
「出やがった、UR、ウルトラレアだぁ!」
「長いこと冒険者をやっているがURの召喚に成功した奴を初めて見たぜ!」
誰かの叫び声と共に聞こえた言葉。遠くからだからよく判らなかったが、確かにURのエリアに矢印の先が止まっている。
他人事とはいえ俺も鳥肌が立った。
「おめでとうございます! それではガチャ人召喚の扉をお開けくださいっ!」
ギルドの受付カウンターの脇にある大きな扉。壁につながっているわけでもなく奥に部屋があるわけでもなく扉だけがぽつんと立っていた。
その扉の奥から光が漏れてくる。
カンペオンが扉の取っ手をつかみ手前に引き開けると、扉の奥は光が渦巻いていて、そこに一人の女性が立っていた。
「こ、これは……裏に部屋なんて」
俺が不思議がっていると、ドウグラスが教えてくれる。
「あの扉は異世界から召喚するマジックアイテムで、ガチャで選ばれたガチャ人と呼ばれる者たちが扉の奥からやってくるってやつだ。俺もそれ以上のことは知らないけどな」
「そういうものなのか……」
扉から出てきた女性は、長い黒髪の女戦士で、均整の取れた身体付きとふくよかな胸を機能的だが装飾をあしらった鎧で包んでいた。歩くとビロードのようなマントがはためく。
「召喚に応じまかり越しました。わたくしはウラヌス。UR、黒の魔騎士ウラヌスにございます」