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第9話 呼ばれず飛び出て

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「くそ……ッ! どうして俺様がこんな鬱陶しい森のなかで<オーク>狩りなんかしなくちゃならねぇんだよ……。これで俺が死んだらどうするつもりだ、この国の宝を失うことになるんだぞ、一体全体どれだけの損失を生むと思っていやがるんだ、だいたい」


「少しは静かに進みましょうよ……」


「うるせぇ! そもそも誰のせいでこうなったと思ってんだ!!」


「それはもう謝ったじゃないですか……」


 その場で地団駄を踏み出すテオダート様の姿に今日何度目か忘れてしまったため息を付いてしまう。最初はこっそりしていたけどもう隠す気もなくなってしまった。あれから結局他の良い考えも浮かばなかった僕たちは二人だけで森の中を彷徨っている。

 都から森までの約一週間の道のりは、護衛という名目の下ズル防止用に第一兵士団の<兵士>さん達が居たので特に危険もなかったのだけれど、今は違う。最低限の三日分の食料と武器はあるけれど頼れるのは自分たちだけだ。


「探索系の【スキル】持ちが居ないってのにどうやってこんなだだっ広い森の中で探せって言うんだよ!」


「ですから、余計に静かに動きましょうよ……、下手すれば群れに見つかっちゃいますよ」


「王都に近い森のなかで<魔物>の群れを生み出すような大層な魔力溜りが在ってたまるか!」


 <魔物>は他の生き物同様に同種間での繁殖で増えるほかに、魔力濃度の高い場所で自然発生する場合がある。国境沿いでもない領土の中で魔物が絶命しない理由がこの魔力溜りによる自然発生だ。そのため、魔力溜りが発見されれば必ず破壊されていくのだが、なにせ自然界のどこに発生するか分からないため小さいものはどこにでも無数に存在してしまっている。


「この森で<オーク>が目撃されたのだって最近って話なんだ。どうせ居ても数匹程度だよ」


「その数匹でも僕たちは簡単に殺されると思いますけど……」


「……それは、まあ、そうだが」


 もごもごし始めるテオダート様は放置して、自分の装備を再度確認する。腰には僕をこんな運命に巻き込んだ聖剣。正直置いてきても良かったのだが王都の住人に見送られての出発だったため見た目として持って行かないわけにもいかなかった。背中には簡易の短弓と矢、今回の件が決定してからの訓練だったため僕の腕前は精々止まっている的にならそこそこの可能性でヒットする程度だ。そして、今回の僕のメインウェポンである第八兵士団の皆さんお手製の投石器。頑丈な縄で作られているこれに手頃な石をセットし、振り回した遠心力で相手にぶち当てるものだが、きちんと当たればこんな物でもかなりのダメージを期待出来る。

 なんとも頼りないというか、<勇者>としてどうなのだろうかと思う装備ではあるが、これが今の僕の精一杯だ。

 ちなみに、テオダート様の装備も動きを邪魔しない程度の美しい鎧を着ていることを除けば僕と同じようなものである。


「作戦は大丈夫ですよね、可能な限り一匹の<オーク>を見つけ、複数居た場合は一匹になるまで待ったあとで石を投げては逃げてを繰り返す」


「ここに来るまでに耳がタコになるくらい聞いたっての」


「幸い、逃げることに関してはテオダート様の【敵から逃げやすくなる】があれば問題はないはずですのであとは好都合な状態で<オーク>が見つかるかだけですね」


「そういや言い忘れてたけどよ」


「もうこの時点で聞きたくないのですけど、何ですか」


「俺の【スキル】だけど、【敵から逃げやすくなる】だから絶対に逃げれるわけじゃねえぞ」


「今それ言いますぅ!? え、それ作戦のかなり重要なところですよね!」


「実は……」


「な、なんですか」


「期待されたの久しぶりで言い出しにくかった、てへぺろ」


「てへぺろじゃないですし! 馬鹿じゃないですか!? 馬鹿じゃないですか!?」


「あ、てめえ誰に向かって馬鹿って言ってやがる!!」


「とはいえ、今更変更も出来ませんし……、多少の不安要素には目をつぶってやるしかないですね」


「無視するなしッ!」


 後ろで喚くテオダート様を無視して鬱蒼と生い茂る木々を掻き分ける。普段人が入る場所ではないため少し進むだけでも汗がにじんでいく。名前も分からない虫が顔にひっついてくるのは我慢するしかない。本当なら交代しながら進むほうが良いのだろうけど、テオダート様には早々にこんな作業嫌だと叫ばれたためにずっと僕一人でやっている。

 そこら中から生き物の気配はするのだが、森に入って実際に見たのは虫と鳥と遠くに居た鹿ぐらいなもので、<オーク>どころか、<ゴブリン>の痕跡すら見つかっていない。


「熊かなにかを見間違えたんじゃねえの……? もうそういうことにして帰ろうぜ」


 案の定、テオダート様は元々なかったやる気がマイナス方面にまで吹っ切れてしまっている。


「僕ら以上に森に慣れたこの周辺の人が熊と<魔物>を間違えるわけないじゃないですか」


「じゃあ、二足歩行の豚とかだよ」


「それはもう立派な<魔物>ですよ」


 その後も、やれでっかい木だと見間違えたんだ、とか、イノシシが組体操をしていたんだ、とか、僕の顔の二倍はありそうな蛾が顔にぶつかっただとか喚くテオダート様に僕のため息はますます増えていく。

 だが、テオダート様の意見を認めるわけではないけれど、ここまで騒がしくしていて見つからないのだからもしかしたら本当にもうこの辺には居ないのかもしれない。普通の獣とは異なり、人間の気配がすればむしろ向こうから嬉々としてやってくるのが<魔物>なのだから。


「あ」


「ッ!? な、なんだ出たのか! <魔物>かっ! あばよ!」


「違う違う違う、違いますから待ってください」


 脱兎のごとく回れ右をしたテオダート様を後ろから羽交い締めにする。


「水です。水の流れる音がするので、きっと近くに川があるんですよ。<オーク>だって水くらいは飲むでしょうし、近づいてみましょうよ。最悪なにもなくても僕らの水の補給は出来ますし」


「チッ! そんなこったろうと思ったぜ! まったく、根性なしめ!」


「厚顔無恥も肌はだしいですね、本当に……!」


 ガハハ! と恥ずかしさを誤魔化すためか笑いながら大股で進んでいくテオダート様を呆れて見る。あの辺木の根っこが多いけど躓かないと良、


「どわぁ!?」


 かったなぁ……。



 ……。

 …。


「……どうだ」


「自分でも見てくださいよ。見える範囲には何も居ないようですけど」


「本当だろうな」


「僕も探索系の【スキル】があるわけではないのでなんとも……」


「使えねえ<勇者>め」


「お互い様じゃないですか」


 再度周囲を確認してから、ガサガサと茂みを掻き分けて川辺へと這い出していく。川、というにはとても小さいものの、流れる水そのものはとても綺麗で、石をどかせば水生生物が慌てて逃げていくので飲んでも問題は多分ないだろう。

 予想したとおり、生き物の水飲み場にもなっているようであり、ようやく足跡らしき足跡は見つかったもののそれが動物のものなのか<魔物>のものなのかの判断は付かない。


「無駄を承知で聞きますけど、足跡を見て何かとか分かりますか?」


「さすがに詳細までは分か、おい今無駄って言ったか!?」


「こういう時こそ<賢者>様が居ればな……」


「おほほい、良い感じに喧嘩売ってくるじゃねえか。言っておくがこれでも城じゃみっちり勉強させられてんだぞ!」


「え、じゃあこの足跡がなにかと分かりますか」


「多分もしかしたらだけど<魔物>ではない可能性が比較的高い気がしないこともないわけでもない」


「無駄でしたね」


「ぐっ……!」


 悔しがるテオダート様に見張りを頼んで水筒に川の水を汲んでいく。歩き疲れて火照った身体に冷たい川の水が心地良い。もう少し周囲を確認して、何も無ければここで簡易の食事を取っても良いかな……。

 なんて、思っていた時であった。


 ――ガサガサガサッ!


「レ、レオ!」


「!?」


 僕たちが来た方角とは川を挟んで逆側から何かが猛スピードで走ってくる音がする。急いで水筒を片付けて手頃な石を拾いつつ、すぐに逃げれるように体勢を整える。

 すでにテオダート様は茂みの向こうに逃げているが、まだ顔をのぞかせてくれているだけマシだろうかと思うことにする。


 どんどんと近づいてくる気配と音に、さきほど冷やした手に再びじわりと汗をかく。武者震いと言いたいけれど、単純に怖いだけだ。テオダート様ではないけれど、今すぐにでもここから逃げたい。ユイさんや第八兵士団の皆さんのことがなければ<勇者>だろうが関係なく逃げている。


 ――ばさァ!!


 緊張に包まれる空気をぶち壊し、茂みから飛び出してきたのは、


「人だぁぁ!!」


「え?」


「おっ!」


 一人の女性。

 と。


「「「ぶひぃぃいい!!」」」


 <オーク>の群れであった。


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