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第6話 男は馬鹿なんですよ、おかしら。

最初の部分は、<兵士長>ユイ視点となります。

途中から普段のレオ視点となりますのでご注意ください。


宜しければ、感想・評価をどうぞよろしくお願いいたします。

 

 レオナルドの訓練のやり方を変えてからさらに2週間が経過した。

 最初の内は1分も持たなかった逃走時間が、5分は持つようになった。これをたかが5分と考えるか、5分も大勢の男から逃げれるようになったと考えるかで大きく結果は変わってくる。

 戦場ではほんの少しの差で様々なことが驚くほど大きく変化する。戦闘に関して素人である彼に万が一のことがあったとき、5分間でも自力で逃げることが出来たのであれば、それは彼の生存確率が大きく上昇することにつながる。

 欲を言えば自衛の術を持ってほしいとは思うが、残念ながら才能のない彼にあれもこれもと求めてもしょうがないだろう。全て中途半端になってしまうのが目に見えている。



 今日も軍上層部によるありがたい(くだらない)会議を終え、兵舎へと戻る。

 ただでさえ私たちの兵舎はどこの隊よりも遠いというのに、第三兵士団の<兵士長>に捕まったせいで余計に遅くなってしまった。以前に食事に誘われた時に断ってから当たりがきついんだ、あのえろ親父は。

 くー、と悲鳴をあげる腹の音に今日何度目か分からないため息が零れ落ちる。


 その時だ。

 私の視界の中に、こそこそと怪しく移動する3人分の人影が入り込んだ。


 ――まさか、賊か……。


 腰に掛けた剣に手が伸びるも、なんてことはない。

 月明かりに照らされたその人物は、私の隊の<兵士>達だ。なにしているんだ、あいつら……。



「おい。お前たち、何をしているんだこんなところで。」


「「「しーーっ!!」」」


「む、?」


「て、なんだ……、おかしらじゃねえっすか……。会議終わったんすかぃ?」


「隊長と呼べ、馬鹿者。それで、? なにをしているんだ。まさかとは思うが、<メイド>の水浴びの覗きとかほざくのであれば斬り捨てるぞ。」


「ンなせこい真似しねえって。」


「そうだそうだ。やるならまっすぐ真正面から行く!」


「ああ、真正の馬鹿だったな。それで?」


「あー……、ここで見たことは秘密でお願いしやすよ? 場所代わりやすからここから茂みの向こうを覗いてくださせぇっす。」


「は、? なんなんだいったい……。」

 見れば分かりやすから。としか言わない部下の言葉に言われた通りにしてみれば、兵舎の隅っこ、普段は誰も通らないような人気のない場所で月明かりの元、素振りをしている誰か……、レオナルド?

 汗が滝のように溢れている様子から考えるに、すでに1時間は剣を振るっているか。


「あれは、お前たちの指示……、なわけないか。」


「当たり前じゃねえっすか、いくら俺らが馬鹿でもあんな馬鹿な真似はさせやせんって。」


「自己判断か……、やりすぎは逆効果だというのに……。」


「休むのも訓練だ、とは教えてたんすけどねぇ。」


「けどねえ、じゃない。分かっていたなら止めるだけではないか。行くぞ。」


「「「ちょちょちょっ!」」」


「な、なんだ。」


「おかしらが仰ることはよく分かるんですがね?……その、あのー…。」


「今回は、坊主の好きにさせてあげちゃ駄目ですかね。」


「は? 駄目に決まっているだろう、何を言っているんだお前たち。」


「あいつの、坊主の気持ちもよく分かると言うか。……なんで、坊主があんなことしていると思いやす?」


「それは、弱い自分に焦っているのだろう? <勇者>としての立ち位置と、自身の現状を考えた時にそう思うのは仕方ないとは思うが、現実はおとぎ話のように都合よく出来てはいない。だからこそ、今は一つ一つ出来ることをだな。」


「だいたいは合っているんでしょうけど、そうじゃなくて、なんというか……、あー……、悔しいんですよ、あいつ。」


「? ああ、焦っているのと悔しいのと違いか? まあ、どっちもそこまで変わりは、」


「そうじゃなくて。おかしらが坊主によく言うじゃねえっすか、『君は私が守るよ。』って。」


「言うが、それがどうした。<兵士>として当然ではないか。」


「<勇者>とか<兵士>とか、実際の力がどうとか、性差別とかそういう小難しいのを全部ぶっ飛ばして、男ってのは馬鹿なんですよ。」


「自分が弱いとか、おかしらが強いとか分かったその上で、それでもおかしらみたいに綺麗な女性に守るよって言われたら、嬉しいけど悔しいんですよ。だから、強くなりたいんですよ、坊主は。」


「オーバーワークが過ぎるようなら様子見て止めているんで、今回の件に関しては許してやってください、おかし……おかしら?」


「…………。」


「おかしら?」


「私は、綺麗なのか?」


「「「は?」」」


「いやいやいや、よく色んなおっさん達に声かけられているじゃねえっすか。」


「あれは、軍の中で女が珍しいからだと思っていたのだが。」


「それはあるでしょうけど、普通におかしらが綺麗だからだと思いやすよ?」


「……そ、そうか。…………は、っ、まさかお前たちも……!」


「「「まじで勘弁。」」」


「よし、全員首を出せ。」


「そういうわけですから、ここは俺らの顔を立てると思って。」


「必死で頑張る青年の気持ちは大事にしてあげようとかそういうのでここはひとつ!」


「………………、ちゃんと見張っておけよ?」


「勿論でさぁ。」


「はぁ……、昼間の訓練を減らしたりもしないからな。お前たちもしっかり睡眠をとれよ。」


「「「うぃーっす。」」」


 隊を預かるものとしては、私の行動は間違っているのだろう。

 感情で決めるのではなく、ここはあいつらに恨まれても彼を止めるべきなんだろうが……。あの馬鹿共が自分たちのこと以外でここまで真剣になるのも珍しいしな……。

 なにかあったら、しっかり責任だけは取れるようにしておこう。私に出来るのはそのぐらいなんだろう。


 …………それにしても、私は、び、美人なんだな……。

 そうか……。



 ……。

 …。


「大変だぁぁああ!!」


 昼休憩を終え、さっそく皆さんに追いかけられあっという間に捕まって縄でぐるぐる巻きにされていると、一人の<兵士>が必至な形相で息を切らせて走ってきた。


「あ、てめえ、! なかなか帰ってこねえと思ったらどこでサボってやがった!」


「大変だぁ? あれか、今日の晩飯はカレーだってか。」


「そりゃ一大事だ! いつも以上に腹すかせておかねえとな!」


「そ、じゃねえ! ビルと、ジャックが、!」


「あ? あいつらがどうしたよ。」


「あいつら、、ぜぇ、第一兵士団の連中に喧嘩売って、! 連れていかれちまった!!」


「「「ハァ!?!?」」」


「どぉいうことだァ!!」


「よりにもよって、なんで第一兵士団……! おい! 誰かおかしら呼んで来い!!」


「あ、あの……。」


「なんだ!! ……あ、ああ、坊主か。わるいな、待ってろすぐ縄を解くから。」


「いえ、あの、喧嘩はそれは駄目だと思いますけど、それよりも第一兵士団だと何かまずいんですか、?」


「あー……そうか、この前まで別の村に住んでたんだ、そりゃ知らねえか。いいか? 第一兵士団は、所属している全員が<貴族>のお坊ちゃま、つまりはほとんどお飾りの兵士団だ。プライドだけはお高い糞集団だよ。だが、それでも<貴族>だからな、権力に依存して発言力だけはありやがる。」


「じゃ、じゃあ、!」


「ああ、そんな連中に喧嘩を売ったんだ、せめて口喧嘩だけなら良いんだが……。手まで出してると最悪も考えれるぞ。」


「そんな……!」


「お前たち!!」


「「「おかしら!」」」


「話は聞いた! 私が行ってくるからお前たちはここで大人しくしていろ! 良いな!」


「「「へい!」」」


 全力で走りたいのを我慢して、可能な限り早足で歩いていくユイさんの背中を見送る。

 誰からともなく、おかしらなら大丈夫だよな。という言葉が漏れ出てくるが、全員を包み込む不安は消えることはなかった。

 そして、

 日が暮れても、ユイさんが戻ってくることはなかった。


 他の施設から遠く離れた第八兵士団の兵舎では碌な情報が入ってこない。

 なんとかかき集めた話によると、第八兵士団の<兵士>が理由もなく第一兵士団の<兵士>に殴りかかり全治一か月の大怪我を負わせたというのだ。

 殴りかかった第八兵士団の<兵士>は現在懲罰房に連行されているらしいが、下手をすると牢獄行もありえるのではないか、となっているらしい。

 この話を聞いて全員が憤慨する。ビルさんもジャックさんも、口が悪ければガラも悪いし、素行も悪く見た目も極悪ではあるが、理由もなく人を殴るような人じゃない。

 しかし、今回の事件を受けて第八兵士団の全員は兵舎から出ないように命令が出ており、庇いに行くことも出来ない。

 そこで僕の出番だ。お世話になっているとはいえ、僕は第八兵士団所属ではない。

 大人しくしていろとユイさんに言われてはいるが、何も分からないままじっとはしていられないよ!


 ……と、意気込んで出てきたのは良いんだけど。

 城に来てからテオダート様とオネスト様を除けば、第八兵士団の人たち以外と接点をまったく持っていなかったので誰にどう聞けばいいのかも分からず、ただうろうろするだけで時間だけが過ぎていく。

 テオダート様かオネスト様に会えれば良いんだけど、オネスト様はどこかに出ているらしく、テオダート様に至ってはあれでも<王子>様なので会いたいと誰に頼めば良いかも検討が着かない……。


 こんなことでも役に立てないのか、ととぼとぼと兵舎に戻ろうとしていると、人目を避けるようにこそこそと移動する不審な人影……。


「居たァ!!」


「うわぁっ!? ち、違うぞ! これは、その……あ? チッ、なんだよてめえか、驚かせんじゃねえぞ!!」


「会いたかったんです、テオダート様!」


「うげ、っ! 男に言い寄られる趣味はねえ! 散れっ! 散れ散れ!」


「それどころじゃないんです! 力を貸してください!」


「嫌だ!」


「実は、僕がお世話になっている第八兵士団の人が他の兵士団の人を殴ったとかで連れていかれてしまって。」


「断る!」


「でも、そんなこと理由もなくする人じゃないんです!」


「諦めろ!」


「だから、何があったか調べたいんですけど、僕この御城に知り合いもいないので、何もできなくて。」


「どんまい!」


「そしたらもう、テオダート様に頼るしかないじゃないですか!」


「そんなことはない!」


「でもどうやってお会いすれば良いか分からなくて、そしたらもう目の前にいらっしゃるから!」


「気のせいだ!」


「ありがとうございますぅぅぅう!」


「人の話を聞けやァ!!」


「第八兵士団隊長のユイさんは美人ですよ。」


「何でも聞けよ。」


「テオダート様が馬鹿みたいに単純で良かったです……。」


「あ? 喧嘩売ってんな? お? いいぞ、言い値で買ってやろうか?」


「さあ、時間もありませんのでこっちへ!」


「おぃ、腕を引っ張んな、痛たたたた! 分かったから、ちょ、落ち着け!」


<王子>様であるテオダート様と廊下の真ん中で話しているのがバレたらまずいので、人気のないところまで連行する。

 これでも<農民>としてずっと生活していたんだ、本職には負けるけど筋肉だってついているんだぞ。


「ったく、服が伸びる……。んで、? 第八兵士団の話だっけか。」


「あ、しっかり話は聞いていたんですね。」


「聞いてない前提で押し込みやがってたなてめえ!」


「今は良いじゃないですか、そんなこと!」


「良くねぇよ! ……たく、で、あー、なんだっけ。なんでお前の知り合いが第一兵士団を殴ったのかって理由か。」


「はい……。なにかご存知ではないですか?」


「知ってるよ。」


「そうですか……、そうですよね……、知ってるの!?」


「当然だろう。俺は<賢者>だからな! 情報収集もお手の物さ!」


「さすがです! てっきりまた娼館に行こうとしていたけれどこの間のこともあって警備が多く不貞腐れて歩いていたときにたまたま聞いてしまったとかそんなことないかなとしか思ってませんでした!」


「ソウダネ、ソウイウ考エハ止メテオコウカ。」


「それで、なにが理由だったんですかっ!」


「お前。」


「はい?」


「だから、理由はお前だ。」


「……どういう、ことですか。」


「お前夜中にこっそり素振りしているんだって? 第一兵士団の連中のなかでそれを見たってやつが居てな。お前の素振りのカッコ悪さを笑いの種にしてたら、第八兵士団の<兵士>が飛び込んできて殴りかかったんだよ。」


「…………。」


「すごかったぜ。『てめぇら屑が坊主を笑う資格なんざねえ!』って、熊でも殴り殺せそうな剣幕で……おい、大丈夫か?」


「テオダート様。」


「お、おう。」


「今回の件の話し合いって、まだ終わってないんですよね。」


「ああ、みたいだな。第四会議室あたりで各兵士団のお偉いさんとかが集まって話しているみてぇだけど。」


「ありがとうございます!」


「ぁ、おい! ……行っちまったよ。あいつ、自分が行ってどうにかなるとでも思ってんのか? 馬鹿なやつだな、……待てよ、十中八九あいつが飛び込んで場がぐちゃぐちゃになるだろ。そこで俺がカッコよく現れしゃきーんと今回の件を治める。すると、だ。美人らしい第八兵士団の隊長さんは……ぐひひっ! こうしちゃいられねえ!」


 後ろでテオダート様が何か言っているのは聞こえたけれど、そんなことはどうでも良い。

 僕のせいだ。

 僕のせいであの人たちに、ユイさんに迷惑がかかった。

 僕のせいだ。

 何とか、しなくちゃ……!


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