第4話 <兵士長>ユイとその部下たち
ギャグ要素が入れれなかったですが、キリが良いので一旦ここで。
綺麗なお姉さんが大好きです。
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『良いか! お前の仲間になって世界を救わねえなら勘当だって糞親父が言うから仕方なく仲間になってやる! だが、俺の本性バラしたら……分かってんだろうなァ? ァア”?』
100%純粋なチンピラの台詞を捨て吐いて、<賢者>ことテオダートさんは出て行ってしまった。
仲間が増えたのは嬉しいけれど、テオダートさんには悪いが戦力が上がっているとは一切まったくもって思えない。むしろ連携出来る見込みがないことを考えればマイナスなのではないだろうか。
このままじゃ、本当に近い将来死んで……。
――コンコン。
「<勇者>殿。お時間宜しいでしょうか。」
「は、はい!」
「失礼致します。」
扉を開け、部屋に入ってきたのはあの赤毛の<兵士>さん、いや、<兵士長>様だった。
出会った時にも身に着けていた武骨な鎧は、王室に美しく立派な部屋のなかで異質な存在として浮いてしまっている。
だが、彼女の腰まで届く長いストレートヘアーの赤毛は、光を反射しキラキラと輝き、<貴族>の令嬢だと言われても納得してしまいそうになる。改めて見ると、少しキツメではあるけれど切れ長の瞳は<兵士長>として凛々しさを醸し出している。
<兵士長>としての力強さと、女性の美しさを併せ持つそんな人だった。
そんな彼女は姿勢正しく一切乱れない歩き方で僕の傍まで近づくと、床に膝をつきって。
「へ、<兵士長>様! そんな、止めてください! 普通に座ってください、ほら、そこのソファーに!」
「お心遣いありがとうございます。されど、<勇者>殿にそのような無礼な真似は出来かねます。それと、私のことはユイとお呼びください。」
「いえいえいえ! そんなことを言ったら僕なんてただの<農民>ですからっ! <兵士長>様にそんなことさせたらもう、胃が、胃が……!」
「しかし……。」
「お願いします! 本当にお願いします、! もう僕自身なにがなにやら分からない状態なのに、<兵士長>様にまでそんな対応されたら、もう、もう……!」
「……、承知致しました。では、砕けた対応をさせてもらおう。よろしいな。」
「はい!」
「その代わり、君も私のことはユイと呼んでくれ。……あまり、<兵士長>という呼ばれ方は苦手なのだ。」
「分かりました、ユイ様!」
「様はいらん。」
「ユイ、さん?」
「ふむ、まあそれなら良いか。」
「それで、どうしてここへ?」
「さきほどの<王>の演説も含めて、君への対応を聞いて……。まあ、心配になってな。」
「そうなんですよぉ……! もう、どうすれば良いか! というか、話が違うんですよ! せめて、せめてまともな【スキル】があれば良かったのに、!」
「ああ、それも聞いている。その、なんというか、うん、まあ、……こ、個性的だな!」
「素直にダメだなって言ってください!」
「ゴミみたいだったな。」
「そこまで言わなくても……。」
「ともあれだ! 【スキル】に頼れないのであれば、己の本来の能力に頼るしかないのだろう? どうだ、少し私の隊で訓練をしてみないか?」
「本当ですか! ぜひっ! ちょうどオネスト様ともそんな話になっててどうしようか悩んでいたところだったんです!」
「そうか、それはちょうど良かった。ではここでじっとしても仕方ないな。実際の訓練は明日からになるが私の部下を紹介しておこう。付いてきてくれ。」
「はい!」
僕はユイさんに案内され、彼女の隊の方々が寝泊まりしている兵舎へと向かう。
荒くれものだが気の良い連中だ、と歩きがてらに教えてもらった。隊長であるユイさん自身がそうなのだが、隊のほとんどが平民出身のため礼儀も分からない馬鹿ばっかりだよと苦笑していたが、部下のことを話しているユイさんの表情はとても柔らかで彼らのことを本当に信頼し、大好きなのだというのが僕でも分かる。
兵舎が立ち並ぶ一角のなかでも最も奥にあり、日の当たりもあまりよくない場所がユイさんの隊の兵舎なのだそうだ。
「さあ、ここだ。遠慮なく入ると良い。」
「はい! お邪魔します!」
(ぎぃ……。)←遠慮がちに扉を開ける音。
(ばぁん!)←勢いよく扉を閉める音。
「……大変です、ユイさん。」
「ど、どうした?」
「兵舎が山賊に奪われています、! は、はやく他の<兵士>さんを呼んでこないとっ!」
「……あー。」
「僕がここを押さえておきますから、はや、ぶっ!?」
その時、勢いよく扉が開かれ僕の顔面を強打する。
「ゴラぁ! 人ん家を覗き込みやがった糞はどこのどいつだ!」
「ボコボコにしてミンチにしてやろうか!」
「簡単に死ねると思うなよッ!」
「ひぃぃぃいい!」
兵舎から飛び出してきたのは、筋肉粒々でカタギではないのが一目でわかる人相の男共である。厚手生地の長ズボンに、上は裸かタンクトップばかりと薄着のため全身の傷がこれでもかと主張してくる。
駄目だ、いくらユイさんが<兵士長>とはいえ多勢に無勢、せめて彼女が逃げ切るだけの時間を……。
「あれ? なんだ、おかしらじゃねえっすか。」
「……え。」
「それは止めろと言っているだろうが。隊長と呼べ、隊長と。」
「……は?」
「がっはっは! こいつは済まねえ! 合点承知だ、おかしら!」
「ぎゃはは! おい、またおかしら呼びしてんぞ、馬鹿だなお前は!」
「ああ”ん!? てめえに言われたくはねえぞ! 自分の名前も書けねえくせによォ!」
「はいはい! 扉の傍で騒ぐな! また、ほかの兵舎から苦情からくる! それに今日はお客さんも居るんだ!」
「客ってそこで鼻血出してるちっこい小僧っすか?」
「ひぃっ!?」
「そうだが小僧と言うな。彼はこれでも<勇者>だぞ。ほら、君もいつまで茫然としているんだ。さっき言っただろうが、荒くれものが多いと。」
「え、えと……、もしかして、この方たち、がその。」
「そうだ。この馬鹿共が私の部下だ。」
「えええ……。」
「で、なんでこの小僧、じゃなかった。<勇者>様がこんなところに?」
「詳しくは中で話そう。さ、行くぞ。」
「へい! ほら、行くぞ<勇者>様。ちんたらしてんじゃねえよ!」
「は、はいぃ!」
「おいおい、お前みてぇな悪人面が話しかけたらビビるじゃねえか!」
「あ”!? てめえよりはマシだわ!」
「安心しろよ、俺ら全員極悪人面だからよ!」
「ちげえねえ!」
ゲラゲラ笑いあいながら中へ向かう<兵士>さん達を眺めていたら、ユイさんに頭をぽんと叩かれてしまった。
行くぞ、とスタスタ歩いていくユイさんのあとを出来る限り離れないように付いていく。
兵舎のなかには、さきほどの<兵士>さんと似たり寄ったりの相貌の方々が所狭しと屯っており、僕のことをジロジロ見てくる。
なかには、おいあれって……、なんて声も聞こえてくるので<勇者>のことを知っている人も居るようだ。
兵舎の中に複数ある古ぼけた長テーブルの中央にユイさんが腰かける。隣をぽんぽんと叩いているので、ここに座れということだろう。
「さて、じゃあまずはお前たちに紹介しよう。彼はレオナルド。知っている者も居るかもしれんが、本日<勇者>に成られた方だ。」
「初めまして! レオナルドと言います!」
「彼はしばらくうちの隊で共に訓練をこなすことになる。丁重に扱うようにな。」
――ざわざわ。
「ええいうるさいうるさい! 文句意見は直接言えッ!」
「へ、へえ……。しかし、おかしらじゃなかった、隊長。そいつ、いや、その方は<勇者>様なんですよね、? うちみたいな鼻つまみモンじゃなくてそれこそ<貴族>様たちの隊のほうが良いんじゃねえっすか?」
「ふむ、お前たち。<王>の演説を聞いてどう思った? 素直に言って良い。」
「素直にですかぃ……? まあ、正直何言ってんのかなぁ、と、いや、俺ら学ねえんで!」
「その<勇者>様の【スキル】もよく分からなかったしな。」
「よく分かった。お前たちの言いたいことはよく分かる。特に彼の【スキル】に関してなんだが、まあ、どんな【スキル】も使い方次第ではあるが、直接の戦闘向きではない。」
「ああ、だから訓練っすかぃ。でも、やっぱりうちである必要はないんじゃねえんで?」
「彼は私たちと同じ平民出身だ。あんな<貴族>様たちが権力争いばっかりしている場所に合うわけがない。それに……。」
「それに?」
「いや、なんでもない。ともかくだ! 彼は私たちの隊が預かる! 文句が出るようならオネスト様にでも口利きしてもらうさ。」
「隊長が決めたんでしたら、まあ?」
「ていうか、そいつ、じゃねえや。<勇者>様はそれで良いんですかぃ?」
「そうだな。さっきからビビりまくってるしな。」
「ほら。君からもしっかり言いなさい。他人任せばっかりでは誰も信じないだろう。」
「は、はい……! あの、! 僕、全然弱くて、【スキル】も役に立たなくて、でも、死にたくなくて、! だから、一生懸命やるのでどうかここに置いてください!」
「死にたくない?」
「<勇者>なのに? 勝ちたいとか、強くなりたいじゃなくてか?」
「あ。……はい、カッコ悪いかもしれないですけど。」
「いや、良いんじゃねえか?」
「ああ。分かりやすくていいな。」
「<勇者>に成ったからお前たちは僕が守ってやるぜ! とか言い出す奴よりは全然マシだな。」
「ありがとうございます! あと、<勇者>呼びはしなくて大丈夫です! 僕自身がその自覚がないですし……。」
「それはそれで困るんだけどな。」
「まあまあ隊長、良いじゃないっすか!」
「俺だって急に今日から君が<勇者>だ! とか言われたら困るな!」
「ぎゃはは! おめぇはむしろ<魔王>側だろうが!」
「良く分からんが、とにかく仲間が増えたんなら飲むしかねえな!」
「「「宴じゃぁあ!!」」」
「まったく……。」
勝手にどんちゃん騒ぎを始めてしまった部下の人たちをやれやれと苦笑しながら見守るユイさんだけど、やっぱり瞳にはさっき歩いているときに見た親しみが籠っていた。
「あの、ユイさん。」
「ん?」
「本当に、ありがとうございました。どうすればよいか、もう全然分からなかったので。」
「ああ、いいさいいさ。本音を言うとな。私の様に、自らの意思で<兵士>に成った者ではなく、儀式で勝手に選ばれてしまった一般人を戦争に巻き込むのは心苦しかったんだ。でも、国に仕える者として逆らうわけにもいかない。」
「はい。」
「だから、君はここで最低限を学んでくれ。戦場で死なないように立ち回ってくれれば、私とあの馬鹿達が必ず敵を倒そう。君は私が守るよ。」
「……。」
「どうした、?」
「いえ、普通逆だな、と思って情けないなぁ、と。 ぁ、痛っ!」
ピン、! とデコピンされてしまった。
「言っただろう。<職業>がどうあれ、今までの君は一般人だったんだ。すぐに戦いにいけるはずがない。それは、私たちの仕事だ。情けないと思う暇があったら少しでも強くなって生き残ってくれ。それだけで良い。」
「……頑張ります。」
「そこは元気よく、はい! と言ってほしいんだがな。」
「……はい!」
「その調子だ。」
「おおぃ! おかしらに小僧も! はやく乾杯しやしょうや!」
「おい小僧! お前まさか酒飲めないでちゅ~、とか言わねえだろうな!」
「そしたら無理やり飲ませてやるよ!」
「はぁ……、だから隊長と呼べと言っているだろうがァ!!」
「「「ぎゃははは!」」」
「やれやれ……、さあ、まずは食べよう。生きることは食べることだ!」
「はい!」
大騒ぎしている<兵士>さん達のなかへ、ユイさんと一緒に飛び込んでいくのであった。