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第2話 僕の【スキル】とは……。

第2話投稿致します。

赤毛の兵士さん以外まともな人が居ない気もしますのでどんどん行こうと思います。


ブックマーク、感想、評価どうぞよろしくお願い致します。


抜けたぞ……。

あれ、? なんか聖剣抜けてない?

おい、嘘だろ?!

え、あの子が抜いたの? うっそー! 全然普通の子じゃん!

<農民>って言ってたぞ! 何かの間違いだ!


周囲が騒がしくなっていくなかで、舞台の上に居た僕と赤毛の<兵士>のお姉さんは二人して呆然と抜けてしまった聖剣を見つめていた。

形状は思ったとおりバスターソードであり、歪み一つとしてないまっすぐな刃を包み込むように、うっすらと淡く優しい光が発光している。

いくら聖剣と呼ばれていても、本来は凶器である。目の前に抜き身の刃があれば<農民>であり戦いにあまり縁の無い僕は怯えてしまうのが普通だと思うのだが、この世のものとは思えない聖剣の美しさに心を奪われてしまっていた。

そんなときだ。


――おめでとう。


僕の頭のなかに誰かが声を掛けてくる。

この声を聞いたのは人生で2回目だ。初めて聞いたのは、僕が15歳になった時。成人を迎え、正式に村の大人として<村人>から<農民>へと<職業(ジョブ)>を変えたとき。

『世界の意思』と呼ばれるこの声は、僕らが<職業>を変えた時にのみ語りかけてくれる。

<神官>曰く、神の声とも違うこの声が一体何者なのかは誰も分かっていない。


――あなたは<勇者>に成りました。あなたに【スキル】を授けます。


いえ。僕は<勇者>に成りたくありません。慎んでお断りさせていただきます。どうか、お願い致します。僕はただの<農民>として慎ましく生きていきたいです。<勇者>なんて大役は僕には分相応です。他に適正な人が必ずいらっしゃいます。どうか、早まらないでください。


僕の必死なお願いなど効果があるわけもなく、目には見えないなにか温かいものが僕の身体の奥底にするりと入り込んでくるような感覚を得てしまう。ああ……。

<勇者>に、成ってしまった……。


絶望に染まりつつある瞳をなんとか動かせば、僕同様に呆然としていた赤毛の<兵士>さんと目が合う。


「ど、どうしましょう……。」


「どうしましょうと言われても、君は、その、成ったのか? <勇者>に。」


「成っ、ちゃった……みたいです。」


「そうか……、成っちゃったか。」


「はい……。」


「……それでは私には、君を、いや、貴方を城へお連れする義務があります。」


「い! 嫌です! 僕は<勇者>になんか成りたくありません!!」


「そう言われても、成ってしまったのであれば仕方がない。」


「辞退、! そうです! 辞退します!」


「無理だ。貴方だって知っているのだろう? <勇者>のように特殊な<職業>は自分の意思で簡単に辞めることが出来ない。」


「でも。でも、! 僕はただの<農民>で、戦いの方法だってなにも知りません!」


「そこは<勇者>の【スキル】を信じるしかない。」


「それに……! えと、それに、!」


「諦めてください。貴方は<勇者>に成ったんだ。まずは私と一緒に城へ来てほしい。」


「でも……!」


「安心してほしい。なにもすぐに戦争に迎えということはないはず。戦いの経験がないのであれば私たち<兵士>と訓練をする時間ぐらい与えられるはずだ。それに、過去の<勇者>の【スキル】はそれはもう素晴らしかったと聞く。【身体能力向上】や【武器戦闘能力向上】、さまざまな属性の【魔法】を使いこなしたなんて話も聞く。大昔には、【絶対防御】なんてとんでもない【スキル】もあったらしい。きっと、戦いの経験がない貴方でも強くなれる【スキル】が宿っているさ。」


「……分かり、ました。」


「ありがとう。」


大広場では新しい<勇者>の誕生に、上を下への大騒ぎ。多くの<吟遊詩人>が今まさに目にした誕生の瞬間を高らかに歌えば、トトカルチェの結果に泣き崩れる男の人たち、慌てて街中に知らせようと人が走ればあちこちで衝突事故が発生してしまっている。

大広場に居たたくさんの<兵士>さん達が騒ぎを抑えようとしているが焼石の水であり、そのまま興奮高まる人たちに捕まって胴上げされている<兵士>さんも居た。

当然のように僕の方にも餌を求める動物のように多すぎる人の波が押し寄せてくるけれど、その全てを<兵士>さんたちがその身を犠牲にして守ってくれた。

そして、優しく背中を撫でてくれる赤毛の<兵士>さんに連れられて、僕は城へと向かうことになった。


連れてこられたのは、豪華すぎる装飾が施された立派な部屋で、ここだけで一般の人の家がすっぽり入るほどの広さがある。

置かれてある調度品も、きっと僕が一生かかっても払うことが出来ないような金額のものばかりなのだろう。普段であれば、<王様>の親族の方々が来られた際ぐらいしか使われることがないと説明を受けただけにソファーに座っているだけでも生きた心地がまったくしない。

案内してくれた赤毛の<兵士>さんも、自分が案内出来るのはここまでです、とどこかへ行ってしまった。今この部屋に居るのは、僕と部屋の壁にずらりと待機している<メイド>さん達だけだ。全員まるで自分は人形だと信じて疑っていないのではないかと思うほど動くことがない。


この部屋に通されてどれだけの時間が経過したのだろうか。緊張で時間間隔が一切働かない。10分だと言われればそうだと思うし、2時間だと言われてもそうだと信じてしまいそうだ。

胃がキリキリと音を立て、一旦お手洗いに行かせてもらおうかと思っていた矢先に、大きな扉がばん! と勢いよく音を立てて開かれる。

息を切らせて部屋に飛び込んできたのは、真っ白な長く立派な髭を生やし、小さな眼鏡をかけた一人の老人だった。

確か、あの人は……。


「お待たせいたしました! 貴方が新しい<勇者>殿ですな! わたくしは、この城に仕える<魔法使い>のオネストと申します! 以後、よろしくお願いいたしますぞ!」


「オネスト……。オネスト様!? あの『翡翠の牢獄』のオネスト様ですか!!」


「ほっほっほ! <勇者>殿にまでこのわたくしの名は伝わっておりましたか。この老骨、とても光栄にございますぞ。」


「伝わるもなにも、この国に仕える宮廷<魔法使い>のなかのトップ……。この国一番の<魔法使い>じゃないですか、! 知らない人なんて居るはずありません!」


「なぁに、わたくしなぞは単に長くしぶとく生きておるだけです。真に英傑たる<勇者>殿の足元にも及びませぬわい。」


「あの、そのことなんですが、僕はただの……。」


「えぇ、えぇ、分かっておりますとも。貴方の経歴は失礼ながら調べさせていただきました。王都近くの村に住んでいた元<農民>なのでしょう?」


「そうなんです! なんで聖剣が抜けたのは分かりませんが、僕は普通の<農民>で、戦いなんか出来ないんです!」


「いやいや。聖剣が間違うことはありませぬ。確かに今までの貴方はどこにでもいる普通の<農民>だったかもしれません、しかし、今は違う。今の貴方は聖剣に認められた立派な<勇者>なのです。」


「そんな……。」


「戸惑う気持ちは当然でございます。しかし、わたくし達にはもう時間がないのです。今この時も辺境では多くの民が苦しんいる。恥ずかしながら、国はもう<勇者>の力を借りるほかに生きる未来がないのでございます! どうか<勇者>殿の御力をお貸しください!!」


「や、やめてください! オネスト様に頭を下げられるような価値は僕にはないです!」


「貴方は<勇者>に成られたのです!!」


「!!」


「戦いとは程遠い生活を過ごされてきて、急に戦えと言われても困る気持ちは当然でしょう! なにも今すぐに戦地へ赴けと言う気はございませぬ! 貴方に宿りし【スキル】に慣れる時間も含めて、この国の<兵士>が全霊をもって貴方を一人前の<勇者>へとしてみせましょう! 一人で戦えなどは申しませぬ! この国最高の智が貴方と同行する予定になっております! どうか、どうかお願いいたします! この国のために、この国の民のために、貴方の御力をお貸しください! どうかァ!!」


「僕は……、僕は……。」


「……。」


「……、僕でも、役に立ちますか?」


「!!」


「戦いも知らない、臆病な僕でも、この国のために、……本当に<勇者>に成れますか……?」


「勿論でございます!! このオネストの名に誓って!!」


「僕……、ただの<農民>だけど、本当に怖がりだけど、でも、この国のことは好きだから。村の皆が好きだから、…………、僕に出来るのなら、! 僕! <勇者>をやります!!」


「おぉ~~!!! なんという、! なんという力強き御言葉! ご安心くだされ<勇者>殿! このわたくしが絶対に貴方を歴代最高の<勇者>にしてみせましょうとも!」


「宜しくお願い致します!」


「そうと決まれば、まずは早速貴方に宿りし【スキル】を調べてみましょう。どのような【スキル】が宿っているかで訓練の内容も大きく変化致しますしな! 『鑑定石』をここへ!」

オネスト様が、手をぱんぱんと鳴らせば壁に控えていた<メイド>さんの一人が音もなく大きな水晶玉を持ってくる。


「これこそが王家自慢の『鑑定石』ですぞ。ささ! 手をかざしてみてくだされ。」


「は、はい! こうですか!」


「よろしいですぞ! さぁ、見えてきましたぞ、見えてきましたぞ……! <勇者>殿の【スキル】が!」


「は、はい……!」


「<勇者>殿の【スキル】は!!」


「僕の【スキル】は!!」


「……。」


「……。」


「……。」


「……オネスト様、?」


「……あー、すみませんが、もう一度手をかざしなおしてもらえますかな?」


「え、あ、はい!」


「こほん。改めまして……。<勇者>殿のスキルは!!」


「僕の【スキル】は!!」


「……。」


「……。」


「……。」


「……オネスト様、?」


「おぬし、本当に聖剣を抜いたのか?」


「何が見えたんですか!?」


「おい! 誰か<兵士長>を連れてこい! 本当にこの小僧で合っているのか確かめる!」


「ぼ、僕ですよ! 本当に聖剣を抜いたのは僕ですよ!」


「えー、本当に~? 嘘ついてると溶かした鉄をバケツ一杯飲ませるよぉ?」


「こわっ!? え、本当ですよ! ていうか、これ! これ見てください! 剣を抜いたあとなぜか僕以外が持つと岩の様に重くなるからって仕方なくさっきから僕が持ってる聖剣を! ほら!」


「あ、本当だ。聖剣じゃん! おー、見事に抜き差ししてるじゃん。びっんびんだね~……、ぁ、レプリカ?」


「違います!! ていうか、オネスト様性格変わりすぎじゃありませんか!?」


「いやもうね。せっかく新しい<勇者>が誕生したからって急いで走ってきたっていうのにさ。これじゃあね。もう走り損っていうか? もう、じぃじはしんどいっていうか~?」


「じぃじ!? え、本当になにが見えたんですか!? 僕の【スキル】ってなんだったんですか!」


「あ、知りたい感じ? 本当に? 後悔しない?」


「その言葉にすでに心が折れそうですけど……、何も知らないままでは終われないです! 教えてください!」


「ちょー熱いじゃん、うける。君の【スキル】ね。ほら、これこれ。こっち回ってきてみ。ほら、ここ覗いて。」

急いでテーブルをはさんで向こう側に座っていらっしゃったオネスト様のほうに向かい、言われたとおりに水晶玉を覗くと2つの言葉が浮かび上がっていた。



【勝手に住処に侵入しても怒られない】

【勝手にタンスを漁り中身を取っても大丈夫】



「……え。」


「なにこれ。」


「えぇええええええええ!!!!」


「いやもう本当になによこれ。君いったい何をしたのさ。」


「し、知りません! 僕なにも知りません!!」


「これはさすがにひどすぎるよ。2つって数も歴代で断トツの少なさだけど、中身がひっどい。意味わかんないよ、初めて見た。」


「【身体能力向上】や【武器戦闘能力向上】は!?」


「どっこにも見当たらないねぇ、てことはあれよ。君、これから戦う時は今の君の素の身体能力でやらないといけないみたいね。」


「【魔法】とか【絶対防御】とかは!?」


「ないない。1つもない。ある意味で、超レア【スキル】と言われればそうだろうけど。これはねぇ……。」


「そ、そんな……。」


「いやでも、……あ。」


「どうかされましたか! やっぱりこっそり他の【スキル】がありましたか!?」


「それはない。いやね。このあと君は<王様>と面会することになるんだけどね?」


「……はい。」


「この国の聖剣が認める<勇者>は一人。つまり、君が居る限り聖剣は他の人を<勇者>認定しない。でも君の【スキル】はこれでしょ? この状態で面会するとなると……。」


「なると……?」


「死ぬ前に食べたい料理とかは決まってたりするかぃ?」


「嫌だぁあああ!! 僕を殺して新しい<勇者>探しをする気だぁああ!!!」


「ソンナワケナイヨ。」


「死にたくなぃぃいいいいい!!!!」


「オネスト様! さきほどお連れした<勇者>殿の件で至急来るよう言われたのですが! 何かございましたか!!」


「うわぁああああ!! おねえざぁああああ!!!」


「<勇者>殿!? え、うわっ! ちょ、! 急に抱きついてこな、きゃーー! 鼻水! 鼻水が付くから!!」


「助げてぐだざいぃぃいい!! まだ、死にだくないんですぅううううう!!!」


「あ~……、もう、どうしようかのぉ……。」


「いいから離れっ! オネスト様! スライムみたいに溶けてないでなんとかしてください!!」


「うわぁぁぁあああああああああ!!!!!」


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