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第1話 僕が聖剣を抜いてしまった馴れ初めのお話

小説家になろうのほうでは初めて書かさせて頂きます。

普段は、ノクターンのほうで駄文を書いておりますが、ちょっとギャグまっしぐらで書きたくなりました。

基本はギャグ中心の馬鹿ばっかりのお話にしようと思いますが、戦闘描写があるかもしれませんので念のために残酷な描写をキーワードに入れております。


更新が早いほうではありませんが、もし宜しければブックマーク、感想、評価どうぞよろしくお願いいたします。


「聞くのだ! 我が愛すべき国民よ! よくぞ今まで耐え忍んでくれた! 明日の光も分からぬ暗闇のなかで希望を捨てずに生きてくれた! 聞くのだ! 我が愛すべき国民よ! 今日、今をもって我らの絶望は打ち砕かれる!!」


無理だ。


「悪しき魔族共の侵略に多くの命が失われた! 住む土地を奪われた者も居るだろう! 愛すべき家族を失った者も居るだろう! 降り注ぐ絶望のなかで生きる意味を見失ってしまったかもしれない! だが!」


出来るわけがない。


「神は我らを見捨てたなかった!」


なんでみんな分かってくれないんだ? 出来るわけがないじゃないか。僕の【スキル】を見ただろう?


「伝説にしか残らぬ、古の勇者の【スキル】が再び蘇ったのだ! ――そう!!」


僕の【スキル】は……。


「【勝手に住処に侵入しても怒られない】と【勝手にタンスを漁り中身を取っても大丈夫】が!!!」


意味が分からないんだからぁぁああああああ!!!!!!!



……。

…。


この世界には<職業(ジョブ)>と呼ばれる役割がある。

<職業>は生まれた瞬間から与えられ、村に生まれた平民であれば<村人>、町に生まれれば<町人>、貴族に生まれれば<貴族>と成る。

<職業>は簡単に成れるものと、そうではないものに分かれている。

例えば、<村人>が町に移住すれば<町人>に成り、そこで鍛冶屋の親方に師事すれば<鍛冶職人>に成れるが、<魔法使い>に成るには、方法は何でも良いが、1つでも魔法を習得する必要がある。

成りたいからと思うだけで<王様>には成れないのだ。


更に、<職業>に就くことで僕たちは【スキル】と呼ばれる特別な力を使うことが出来るようになる。この【スキル】は厳密には、【職業スキル】と【個人スキル】の2つに分類される。

【職業スキル】は特定の<職業>に成っている場合のみ使用が可能なものである。例えば、その村に住む者の総意を持って認められることで成ることが出来る<村長>には、【発言力の微増】という【スキル】があるが、これは<村長>でなくなった時点で使用不可能となる。

一方で、神の声を聴き<神官>と成った者に与えられる【神聖魔法】という【スキル】は、仮にこの使い手が<兵士>に成っても継続して使用出来る。

現在の<職業>に依存するか、個人に依存しているか、だ。

なぜそのように分かれているのか、なぜ使えなくなるのか、昔から多くの人が研究しては分かっていない。とにかく、そういう風にこの世界は出来ている。



城下町の大広場に集まった無数の国民に向けた演説を終えた王が、昨日までとは打って変わった生気溢れる足取りで城のバルコニーから戻ってくる。

玉座に座り、控えていた大臣達が王の演説を褒めたたえる様子を眺めながら、僕はなぜこうなってしまったのかを考えていた。


そう、あれは昨日のことだった――。



石畳で舗装された大通りを1頭のロバが引く小さな馬車がいく。

馬車には薬草がたっぷり入ったズタ袋をたくさん積みこんでおり、手綱を持つのは中肉中背の茶髪の少年――つまり、僕だ。

僕の名前はレオナルド。村の人はレオって呼ぶけどね。

王都から馬車で約半日の距離にあるルーチェ村に住むただの<農民>だ。

この日は、いつもの様に馴染みのポーション屋に村で採った薬草を卸しにきていた。さきほど、王様が大層な演説で語っていたが、実際僕らの生活はそんなに荒れたものではない。国境の辺境に行けば魔族や近隣国との戦いは起こっているし、野良の<魔物>はどこにでも出現するから危険がないわけではないけれど、それでもただの<農民>が護衛もなしに村から王都に来れる程度には平和なんだ。

その証拠に、今日も王都は大勢の人々で賑わっていて、広場では<吟遊詩人>が華麗な声を響かせ、屋台から届く美味しそうな音と匂いが僕の仕事を邪魔をする。スリなどの悪さをする人も居るだろうけど、そうはさせまいと<兵士>が背筋をピンと立てて都の平和を守っている。

全員が全員平和で幸せだ。なんていうつもりはないけれど、少なくとも僕は、平凡なこの生活のなかで満足して生きている。


「おじさーん! 薬草持ってきたよー!」


「やあ、レオ。いつもありがとうね。馬車は裏に回してくれるかい?」


「いつも通り薬草は裏から入れる、で良いんだよね?」


「ああ、そうしてくれると助かるよ。なにせ最近年のせいか重いものを持つと腰がね……。」


「<薬師>なんだから、腰痛ぐらい治せるんじゃないの?」


「いやいや。傷ならともかく年にはポーションじゃ勝てないよ。それこそ、王専属の超特級<薬師>でもない限りね。」


「そうなんだ、ちゃんと養生して長生きしてよね。おじさんはうちのお得意様なんだから。」


「そうだね……、我儘は言わないから、せめてレオのひ孫に嫁の斡旋ぐらいは出来るまで生きていたいね……。」


「うん。それはもう化け物だね。」

いつものおじさんのよく分からない冗談を流しつつ、僕は慣れた手つきで馬車の積んでいた薬草入りのズタ袋をおろしていく。

一仕事終えて表に向かえば、おじさんがお茶とお菓子を用意してくれていた。


「お疲れ様。こんなものしかないけど休憩していきなさい。」


「あはは、ありがと。僕この御菓子好きなんだ。」


「もう16歳になって大人になったと思っていたが、味覚は昔と変わらんね。」


「そうすぐ変わるものじゃないと思うけどな。ところで、今日いつもより人通りが激しくない?」


「ああ、なんでも大広場で儀式が行われるらしくてね。そのせいだろう。」


「儀式?」


「『勇者の儀』さ。先日、魔族との戦いで多くの兵が亡くなっただろう? 国としても起死回生の一手が欲しいんだろうね。なんとしても新しい<勇者>に成れる者を探したいらしい。」


「前の<勇者>様って、確か30年くらい前に亡くなったんだっけ。」


「ああ、そうだよ。雷の魔法を使いこなすとても勇敢な方でね。私も遠くからしか見たことはなかったが、男の私から見てもカッコ良い方だったよ。」


「へえ……。それで、その儀式ってなにをするの?」


「なんでも、城に伝わる伝説の聖剣を鞘から引き抜くだけらしい。ただ、素質のある者以外ではどれだけ力を込めても抜けないんだってさ。行為自体はそれだけだけど、神聖な儀式だからね。城からもあまり騒がないようにとお触れが出ていたよ。」


「そりゃ国からすれば存亡をかけた儀式だもんね。」


「だから。」


「うん?」


「私たちも思いっきり騒ぐことにしてね。」


「なんで!?」


「え? だって、あまり騒ぐのは駄目だからね。それならいっそのこと思いっきり騒ごうかと。」


「そういう意味じゃないんじゃないかな!? ある一定以上を越えちゃ駄目ってことじゃないの!? ていうか、怒られるでしょ!」


「『その手があったかー。』って許してくれたけど?」


「なんでさ!? 盲点だったわーって話じゃないよね! そこはしっかり取り仕切るべきなんじゃないのかな! 大丈夫なのこの国!!」


「大広場ではここぞとばかしに<吟遊詩人>が荒れ狂い、非合法のトトカルチェが横行し、次の順番を求めての喧嘩がそこらじゅうで発生していてね。」


「地獄絵図だね!」


「国としても、お触れで禁じてないからな、と指をくわえるしかないという。」


「駄目だよね!? そこは全力をもって止めるべきだよね!?」


「遂に一昨日、この国の<兵士長>が出てきてね。」


「ああ、良かった。」


「『よくも俺のソフトクリームを駄目にしたなぁ!』と力強くも美しい剣筋でバッサバッサと。」


「理由ぅ!? え、絶対それその辺でソフトクリーム食べてサボってたよね!? そこに誰かがぶつかってとかだよね!? 国に仕える義務じゃなくて私怨だよね!!」


「神聖な儀式だからね。興味本位は駄目かもしれないが、レオも一度見てくると良いよ。」


「その感想にはならないかなぁ……。」


「あと、期間中に王都を訪れた人が儀式に挑戦していないことが後でバレると国の威信をかけて大変な目に会わされるらしいね。」


「そこが重要だよね! 僕行かないと大変な目に会うってことだよね!? ていうか、ほかに威信かけるとかいくらでもあるんじゃないかな!!」


「あっはっは。レオは今日も元気だなぁ。」


「うん……。そうだね……。」


ロバと馬車をおじさんに任せて、僕は大広場へと向かう。

どうせ抜けないのが分かっていることに時間を使うくらいなら王都のお店を見て廻りたいんだけど、まあ、土産話が出来たと思うしかないかな。どうせ帰るのは明日の朝一なんだし。

ただの<農民>である僕が、聖剣に、鞘とはいえ、触れるというのはよく考えてみれば大変名誉なことではないだろうか。

そう考えなおせば、少し気分もウキウキする。

行列が出来ている可能性も高いので、少し早足になったその時、後ろからどん!と誰かがぶつかってきた。


「あ、! と、っとと。大丈夫で――。」


「おうゴラぁ!! どこに目ぇつけて歩いてんじゃボケぇ!!!」


「す、ひぃ!?」

何処にも何もぶつかってきたのはそっちなんですけど!?

いきなり恫喝してきたのは、細身で背の高い男性だった。安っぽい服とガラの悪そうな色付き眼鏡、服装とは不似合いなほど美しく輝く金色の長髪をひとくくりにしている。

僕がびっくりして黙ってしまったのに調子良くしたのか、どんどんその人は左肩を押さえながら叫び出す。


「あー、いたたたたーー! おう、めっさ痛いやんけ、あー、痛っいわァ!! おまえ、これ、骨折れたんちゃうか! あー、めっさ痛いわぁあ!! どないしてくれんねん、アァ”!?」


「ほ、骨って……でも、ぶつかってきたのはそっちで、ぐぇ!?」

言い返そうとして僕の胸倉を、その人は右腕で持ち上げる。


「ワシが悪いん言うんかい、おんどれぇ!? おまえ、ワシの右腕完全に折れとるやんけ、慰謝料もんやぞ!!」


「え?」


「ん?」


「右腕……?」


「あ……?」


「右腕……。」


「……おお。」


「「…………。」」


(すとん)←男の人が僕をゆっくり降ろす音。


(こほん)←男の人が具合悪そうに咳払いする音。


「あ、! お前の後ろに!!」


「ええ!? そこでそんなチープな逃げ方しようとします!? だ、駄目ですよ! 一緒に<兵士>さんのとこに行ってもらいますからね!!」


「うしろ、、に、、、、ガク。」

男の人が泡を吹いてその場で失神した。


「ええええ!!? ちょ、大丈夫で、! え、本当に後ろになにが居るの!?」

びっくりして後ろを向いても……、僕らの様子を遠巻きに見ている普通の人たちしかいない。


「あれ……? なにもいな、って居ない!? え、うそ、あの気絶も嘘なの!?」


「ふはは! あばよ!!」


「あ、! あんなところに……、速っ! 逃げ足はっや!!」

あっという間にその男性は人ごみに紛れて見えなくなってしまった。

まさにTHEチンピラな人だったな……。それにしてはやり方がへったくそだったけど……。

周りに居た人たちがどんまいと声を掛けてくれたけど、どうせなら絡まれているときに助けて欲しかったかな……。僕もその立場なら動けないだろうから責めないけど。


人が増えれば変な人も増えるな、とすでに若干疲れながらも大広場に到着すれば、祭りと見間違うほど多くの屋台や舞台が立ち並び、それ以上に多くの人たちがわちゃくちゃと集まっている。

広場の中央にはひと際立派な舞台が建っており、そこに向かっていく列がずらりと並んでいた。


「あれかぁ……、結構かかりそうだなぁ。」

時間がかかるのを覚悟して、僕も列に並ぶ。

前からは、野太い男性のふんごぉぉ、という声や、きぇええ、という奇声、腕がぁぁぁ、という悲鳴などなどが聞こえてくるなか、想像していたよりもはやく僕の番へとやってきた。


「次!」


「あ、はい。」

実戦重視の装飾などを考慮していない武骨な鎧に身を包んだ赤毛の美しい<兵士>さんに呼ばれて僕は前に出る。

うぅ……、みんなが見てるよ……、こういうの苦手なんだけどなぁ……。


「貴様。名は!」


「は、はい! ルーチェ村のレオナルド! <農民>です!」


「ふん。<農民>か。本来であれば聖剣のそばに立つことすらおこがましい。絶対に抜けないとは思うが試してみるんだな! 絶対に無理だと思うがな!! 絶対に!!!」

そこまで言わなくても……、いや、その通りだけど。

なぜか必要以上に僕を罵倒してくる<兵士>さんに見守られながら、僕は聖剣に手を伸ばす。

白銀に光り輝く鞘に包まれた聖剣には、持ち手のところに1つだけ真紅に輝く宝石を装飾されている。形状は、片手剣でも両手剣でもどちらでも使うことが出来るバスタードソードだろうか。持ち上げてみれば、対して訓練をしていない僕でも片手で持ち上げることが出来る。


左手を鞘に、右手を持ち手に。

しっかりと掴み、僕は聖剣を


引き抜


――ぐ、、ぐっ!


けなかった。


「ん~~、っ! はぁ……、駄目みたいです。」


「はぁ……、やはりか……。」


「す、すみません。」


「謝ることはないさ。仕方のないことだ。むしろ忙しいなか来てくれたこと感謝しよう。ん、? どうした、そんな顔をして。」


「い、いえ……、そのさっきまであんなに厳しかったのにな、と。」


「ああ。……ふ、貴様は知らないか。まあ、<農民>であるからな。仕方ないか。」


「な、なにかあの態度に意味があったんですか……!」


「この世界には期待すればするほど出なくなる物欲センサーと呼ばれる神の意思がある。なればこそ! あえてそっけない態度を取ることで欲しいものを手に入れる、これが古来より伝わる伝説の秘技『ツンデレ』!!」


「絶対に違う気がしますけどぉ!?」


――する。


「え?」


「は?」

叫ぶときに少しだけ、力を入れたらそのままに。

聖剣が、抜けていた。


「「…………。ぬ。」」


「「抜けたぁぁああああああああああああああああ!!!????」」



こうして、僕の平穏な人生は終わりを告げた。


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