赤い目をした獣
朝だ
受付で宿泊の礼を言い、集合場所へと向かう。
それなりの人が集まっており、ガヤガヤしている。
皆さん武器、防具を装備済みで、ごつさも相まってめちゃくちゃ強そうだ。暑苦しいけど。
壁に近隣の地図を貼りだし、ここ数日の遭遇場所、討伐数をなどをチェックし、今日の配置割りなど話し合っている。
時間になったのか、指揮官らしき人物が仕切りだした。
……スムーズに進行し、終了。各々が町を出る準備を始めた。
まとめると、
あの野獣は、狼。
群のボスは、黒い大きな個体で、ある程度の知能があり、厄介な存在として苦労している。
なるべく個体数を減らす。
巣穴を発見できれば罠を仕掛ける。
パーティー単位で森に入り、地図で示したルートで探索を行う。
探索は日が沈み始めるまで。
「この討伐隊の指揮をしているウラガだ。あなたがタビトかな?」
名乗った覚えはないのだが、名前知られてるし、あの万引き検知装置か?プライバシーなんてないんだな。どこまで知られてるんだろうな。称号とか見られてたら、恥ずかしいんですけど……
やれやれ。
「そうです。よろしく」
「それでどうだろうか、協力していただけそうかな?」
「具体的には何をすれば?」
「単独で動いてもらっても構わないし、パーティー編成の希望があれば、できるだけ要望に添えるよう努力しよう」
「報酬は?」
「参加で1万、討伐1頭当たり5000、ボスは1万エーンだ」
「そもそも、数が増えた原因はわかっているのですか?」
「例年より数が多くて対応に追われている。ボスが知能をつけてきているのは確かだが、もしかしたら、それが関係しているのかもしれないな。」
「飼いならしたりはできないのですか?」
「無理だな。赤目をした獣は何ともならん。モンスターとして討伐対象だ」
そういえば昨日のも、目が血走ってたなぁ。モンスターだったって事か。なんだかなぁ。関わった以上は何らかの対策は必要か?
「後方支援ということでよければ参加しましょう」
「分かった。感謝する。では私のパーティーに同行してくれ」
ぞろぞろ町の外へ、30人はいるようだ。
さて、まずは参加者の戦闘方法、戦闘力の確認か。
使えるのは《身体強化》《石弾》《土壁》防御壁くらいか? やり過ぎもなんだし、様子を見てからだな。
旅人の装備でもあまり浮いてない。昨日宿で少しウェザリングしといたからね。反省は生かすものだ。
街道を歩く。間隔をあけ、4~5人編成のパーティーが街道を逸れ、森の中へと入っていく。山狩りだ。
パーティーの最後尾に付いて森に入っていく。
足跡や森の様子の変化、何かしらの痕跡を求めて進む。数時間も歩いた頃に、低い木がまばらに生えただけの空き地に出た。
休憩を兼ねた食事をとる。
今のところ、これといった成果もなく、各々が疲れた身体を休め腰を下ろす。
「手がかりが何もない。もう少し奥へ行ってみが、何か気になった事はないか?」
ウラガが皆に尋ねる。
「これだけ歩いて何もないんじゃあな。もう少し行ってみるしかあるまいな」
「同感だ」「そうだな」
パーティーメンバー一致で休憩後、奥へと進むことになった。
警戒しながら山の中を歩くというのは、思った以上に堪える。装備や荷物も負担になる。すでにシャワー浴びたいし。
あとでこっそり《洗浄》と《身体強化》かけておこう。
皆さんタフだねぇ。うっすらとしか汗をかいてないみたいだ。体力とかの基準値はまだ分からないが、差がありすぎだってことは今でも分かる。
少し前まで平和な国で一般市民やってたんだって言い訳したくもなるが、そんな事言っても何にもならない。モンスターにしたって、「そうなんですねぇ。大変っすねぇ」なんて友好的に見逃してくれる訳ないだろうしな。
甘えのツケは、後で自分にやってくる。
やるしかない。
探索を再開し、しばらくすると戦闘音が響いた。
「あっちだ!加勢するぞ!」
各々が戦闘態勢をとりつつ、急いで現場を目指す。
「そっちに行ったぞ!」「任せろ!」
ドガァン「これで3つ」
「まだ囲まれてるぞ、油断するな!」
狼の群れと交戦中のパーティーへ向け
「こっちのは我らが引き受ける!」
「わかった。任せた!」
慣れたもので、それぞれに戦闘に入っていく。
ここから見えているだけでも5匹。確かに多いな。
剣、槍、ハンマー、弓、肉弾戦。いろんな得物での戦闘だが、魔法使いはいないようだ。俺だけか? まあ、見た目で判断しちゃあいけないが、今回の参加者に魔法使いっぽいのはいなかったな。偏見だけど……
他者が魔法使うのまだ見てないしな。
実は身体強化とか使ってたりしてね。
生の戦闘って凄い迫力だな。近くで入り乱れてるせいか、四方からゾクゾクした感覚が身を襲う。命のやり取りだ。緊迫感も出るわな。
……それでも結構冷静でいられるな。この前の戦闘も無駄じゃなかったって事か。
さてさて、何をしたものか。
なんて考えてたら、戦闘終了。
はい。皆さんお強いんですね。てか、逃げないのな。狼。やっぱり血走った目で襲ってきてた。モンスターだ。あんなんと対峙したら、それだけでビビっちゃうよ、ふつー。それをいともあっさりと返り討ちってさ。まさに戦士だね!
別に立ちすくんでいたわけじゃないけど、俺よえー。使えねー。指輪持ちなんて言葉にちょっとだけ浮かれてたけど、場違いじゃね? 貧弱な身体だし。あんな風に剣で返り討ちなんてできんよな。吹っ飛ばされそうだわ。
あ、でも《身体強化》があれば少しはマシか? やってみないと分からんけど、やってみたいとは思わんな。俺大事。
全部で12。ボスはいなかった。
毛皮、牙などの素材だけでなく、肉も食べられるので、血抜きだけして持ち帰るそうだ。
結果として、何もしていないので、持ち運びに協力した。《身体強化》のおかげで、思ったより負担にならずに持ち上げられた。皆さんの方が平気な顔して倍以上の数を背負ってたけどね……
成果も上がったことで、引き返す事に。途中何事もなく町に到着。
「お疲れ様。12000エーン、今回の報酬だ」
「何もしてないから、参加料だけで十分です」
すぐに2000エーン返却する。パーティーなんだからと拒んでくるが、やはり受け取れないとつっぱね、気持ちだけ受け取ることにした。
決して高いとはいえない報酬だが、暮らしていけなくもない。財政の問題もあるだろうし、早く解決したいのだろうな。
「分かった。ではこちらで分ける事にする。それで、明日はどうする?また参加してもらえるか?」
まさか参加を進めてくるとは思わなかった。指輪持ちの力を見たいということか? まあ、《石弾》を使えば役に立てるのだろうが、なんだかな。
「いや、今のままでは足手まといになりかねないので、やめておく事にします。皆さんと並んでいられると自分で思えるようになったら、また参加します」
「そうか、それは残念だが仕方がないな。何を求めているのかは分からないが、町長に会ってみてはどうだ? 討伐完了後に紹介するつもりだったが、何かのキッカケくらいは掴めるかもしれないぞ?」
情けなく思う気持ちが顔に出ていたか?
自分から積極的に狩りをするような性格でもない。冒険者とかは向いてなさそうだと改めて理解した。戦闘好きでもないしね。
でも、あんなのがいる世界だからな、強さは必要だと思う。魔法の検証で、ある程度はヤレるようになったはずだが、基本的な部分の強さが足りてないと思う。
戦う事への心構えとか、基礎体力とか。鍛えていくしかないな。ここで生きていくためには必要なことだ。
「町長ですか? 都合がつくようでしたら、是非お願いしたいです。頼めますか?」
「ふっ、分かった。手配しておこう。なんだ、もういい顔してるじゃないか。これなら討伐への再参加も早そうだな、ははは。
あっ、そうだ。宿はもう1泊取ってある。遣いをやるから、明日は宿にいてくれ」
手を振って去っていった。
ああやるのか、渋いね。格好いいじゃないか。違いを見せつけられた気がしたよ。余裕ってやつの有無の差かな。
この日の討伐の総数は25。確かに多すぎる。
こりゃあ、早く自信をつけないと。
この後は何をするでもなく、宿でゆっくりする事にして眠った。気負いからなのか、疲れからなのか、目を瞑るとあっという間に意識が途絶えた。
…………
ガァ~~ッ、ガァ~~
読んで頂き、ありがとうございました。