始まりの町
わざわざ振り返るのもカッコ悪いし、面倒なんで、名前の件はそのままスルーした。
カッコ良くキメたつもりが、なんか台無しだ……
「またな」はちょっと気になるが、町に居れば、顔を合わせることもあるかもしれないしな。特に考えないことにした。
さ、いよいよ見えてきましたよ。
ザ・壁! 近くで見上げると首が痛くなりそうだ。
俺が作った土壁なんて、かわいいもんだ。オモテャみたいだわ。やはり、こちらの常識たる一般的な知識を早く仕入れねば。
ちらほら人もいるなぁ。ようやくこの地の文明ってやつにに触れられそうだな。馬車が主流みたいで、独りってのは俺くらいだな。
うーん。みなさん、デカいし顔のホリが深い。濃い。外国人だーって、アジア系ではないガッシリした感じだ。
ヒトの姿を見て、少し安心できたと思ったけど、突然異国に独り放り込まれた感が……、俺浮いてるよな。
さっきは普通に日本語が通じたから、今後も大丈夫だと思いたい。
入場料はなし。
行きはよいよい帰りはこわいってか?
税金は中でガッツリ取ってる系か?
1人ずつ万引き防止ゲートみたいな板の間をくぐっていく。
さして待つこともなく、順番がきた。
パァーっ。両方の板がうっすら緑色に光った、
「ちょっとよろしいでしょうか?」
警備員っぽい兵が話しかけてきた。
「ん。何かありましたか?」
「少しあちらで時間をいただきたいのですが……」
おっと。止められたよ。何かフラグったか?
少し考えを巡らせていると、更に
「いや、特に問題があったわけではありません。少し協力いただけないかと思いまして。あなたは指輪持ちですよね?」
あぁ、なんか光ったよな、緑色に。いままで誰も光ってなかったのに。指輪持ちってことは、この指輪を感知したってことだよな。まずいものではなさそうだが、丁寧な態度だな。珍しいのか?
うーん、分からん。どうしよっかな。
「……そうだが、なんだ? 面倒事なら断るぞ。早く休みたいんだ。着いたばかりだからな。理解してくれ」
「……そうですか。そうですよね。それでしたら、こちらで宿を手配しますので、明日にでもまたお時間をいただけませんか?」
うーん。簡単には解放してくれないのか? まったく。面倒だな。
「ワケくらは聞いても?」
「はい。ここではなんですので、こちらへどうぞ」
詰め所みたいな建物に誘導され、用意されたイスに腰をおろす。
「で、何か?」
「実は、ここのところ野獣の数が増えてまして、治安の方でいろいろ問題になっているのです。町でも傭兵を雇ったり、ギルドにも依頼を出したりしているのですが、思ったよりも野獣の数が多く、怪我人も出ているような現状なんです」
また繋がったか。さっきの3人組が受けた依頼ってのがこれか。
「それで俺とどう関係するのかな?」
「失礼ですが、指輪持ちということは、それ相応の戦力を有するお方かと。入場審査で反応があった場合には、話をするよう指示を受けております」
「協力しろと?」
「はい。依頼という形になりますが、報酬もしっかりと用意させていただきます。」
「その依頼料の中に宿の手配も入ると?」
「いえ、それとは別になります。明日の朝の作戦会議で話を聞いていただければと」
なんか、待遇がいいなぁ。指輪持ちって言葉もなんか、カッコよくね? 特別なのか? 皆が魔法を使える訳ではないというところかな? うーん。悪くはなさそうなんだけど、野獣狩りかぁ。確かに脅威なんだろうけど、あの惨劇をもう一度とか……
微妙だよなー。
「話を聞いて、参加しないこともありか?」
「はい。それは構いません。現状を聞いていただければ。勿論、依頼を受けていただけるのがありがたいのですが、無理は言いません。検討いただければと」
「話は分かった。だが断る」
「……」
「すまん。言ってみただけだ。朝の会議とやらには参加させてもらう。それと、こちらも少し質問いいかな?」
無理矢理だが、言えてよかった。普段使えないからな。よく分からない世界だからこそ押し通した。達成感だ。
ドン引きされたわ。そりゃそうだ。俺でも引くわ。
無言で頷いてくれた。すまなかった。反省はしないが、もう使わない。こんな空気になるならもう使えない。ありがとう。
「この町にくるのは初めてなんだ。例えばそうだな、その剣の値段、一般的な昼飯の値段、あと宿屋の値段を教えてほしい」
「この剣は10万。昼は500、宿は5000エーンくらいが相場になるでしょうか」
おう。エーンて。値段トんだわ。まあいいや。
「あと、この金は使えるか?」
布袋から懐に入れておいた財布を出す。財布といっても頑丈な皮の袋? 見たこともないコインを数枚出して確認してもらう。
外国の通貨? って感じだ。
「……はい。問題ありません。銅貨、銀貨、金貨、白金貨まで……、この町で使える貨幣ですが、白金貨は、そのぉ……あまり目にしない貨幣ですので、使えない店のが多いと思います」
おう。白金貨なんてのもあったのか。よく分からんかったからちょうどよかったよ。にしても、お金はいっぱい持たせてくれてたのね。ありがとう。【イージーモード】じゃないなんて言ってごめんなさい。そして、も一度ありがとう。
白金貨(百万)、金貨(10万)、大銀貨(1万)、銀貨1(千)、大銅貨(百)、銅貨(十)エーンって感じで、財布には白金貨1枚の他はそれぞれ10枚入っていた。
2,111,100エーンだね。何もしなくてもしばらくは大丈夫そうだ。ステキ。
「そうか、ありがとう。では案内を頼む。食事をしたい」
「分かりました。少しお待ちください。手配します」
警備員っぽい兵は走っていった。
ほどなくすると、町の宿屋に案内され、食事を提供してもらうことになった。兵は、明日の集合場所を伝えると、とすぐに帰っていった。
3日目にして初のお食事。早いのか遅いのか分からんが、またドキドキだ。『何が出るかな、何が出るかな、そんなことわからない。デン!』
これもノリだ。サイコロ振ってトークしてたお昼のあれだ。サイコロ振る時のミュージックに歌詞つけてみた感じだ。ごめんよ。わからないよな。
肉だ。デカい。厚い。そして熱い。食えんぞこんなに。
だが、旨かった。柔らかジューシー。脂っこくなくガンガンいける。気がつけば完食です。
やるじゃん。いい感じだよ。満足だよ。点数高いよ。
飲み物は、何かのフルーツジュース? 多分ブドウ?
おかわりしたよ。ごちそうさまでした。
あとは風呂入って寝るだけだな。
いや、まだ日も高いし、散策行っとくか?
軽く散歩してみた。
穏やかな空気の流れる、清潔な街だった。よかったよ。そこら辺に糞尿が転がってなくてさ。あまり期待はしないようにしたけど、思った以上に活気がある。世紀末っぽくなくてよかったよ。
建物にこそ重厚感はあるが、行き交う人は軽やかで、子供も大人も笑顔が溢れている。平和でいい町なんだなぁと感じた。
そんなこんなで適当に歩き、宿に戻る。
部屋には、ベッド、棚、机、イスがあるが、トイレは共同。風呂はなし。暖かみを感じらる内装で、落ち着けそうだ。
分かってはいたけど、電化製品の類いはなかった。
必殺! 《洗浄》祭り!
「《洗浄》×3」ベッド、全身、お口
落ち着いたところで
「『ステータスブック』オープン!」
アイテムボックスから出すだけです。
……
『認証の指輪』には変化ないな。
『生活魔法』には《ジャグジー》と《火葬》が新しく登録されてて、
「ん? ページが増えてる」
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【名 称】旅人
【訪問地】旅人の砦
始まりの町
【称 号】生活魔法の探求者
半日で砦を築きし者
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ツッコミ専用ページだ……
「はははは……」
読んで頂き、ありがとうございました。