旅人の始まり
「おはようございます……?」
傭兵みたいな3人組。
悪くいうと小汚いっていうか、ゴツくて強そうな?
言葉が通じないのか?
ヤバいな、また狩られる対象認定か?
装備している小楯を胸元に掲げ、左腰に差した短剣に右手を添えるが、反応がない。剣を抜いとくか……いやまだか。
「失礼ですが、そこの町の方ですか?」
町の方角を指差してみる。
「どこから来た? おまえの所属は?」
言葉は通じたみたいだ。
ふぅ、【ヘルモード】まではいかないか?
だが、こちらの問いを無視し、高圧的に聞いてきた。
ま、日本人は実年齢より若く弱く見えるっていうし、俺も強そうには見えんだろうしな……
さてさて、どうしたもんか。
初っ端から舐められると、後々交渉とかも面倒になるし、かといってケンカ腰ってのもな。せっかくの第一現地人だ。よし、適度に友好的にいきますか。
「俺は、旅人だ。このさきに見える町に向かっているところだ」
1人は警戒したまま、2人でなにやら相談中だ。
「こちらの質問に答える気はないのか? それがあんたらの所属する組織の礼儀なのか?」
警戒中のやつに少し睨みをきかせる。
更に構えを深くするが、何も返ってこない。
しばしの静寂……
「すまない。我々は始まりの町の者だ。こちらに敵対の意志はない。依頼を受けてこの辺りを探索中だ」
こちらの言動から害意のないことが伝わったのか、リーダーっぽいマッチョマンが答えた。
「そうか。昨日、野獣の群に襲われたが、それか?」
もしかしたらと思い、さりげなく情報を提供し、聞いてみる。
あの町は『始まりの町』っていうのか。そのまんまだな。俺支点なのか……偶々だよな……
やっぱ何かあるよな。これは。
普通、町の名前にそんなんつけんよなぁ。ゲームみたいなネーミングセンスだし。
「なにぃっ! 昨日のいつだ? 数は? どんな奴らだ?」
おいおい、えらい食いつきだなぁ。まあいいや。ありのまま答えておこう。
「昨日の昼過ぎだ。数は最低7。四足歩行のひどく汚れた茶色の生き物だった。ただの野獣じゃないのか? それなりに統率はとれていたな」
「その中にでかいヤツはいなかったか? 襲われたと聞いたが、平気だったのか? 戦闘にはならなかったのか?」
何かめんどくさいな。おそらく依頼内容に関係してるんだろうな。グイグイ押してくる。警戒心もほぐれたのか、ゆっくりではあるが3人で近寄ってくる。
左手を上げてストップをかける。ほんとに強気だなぁ。
「こちらは『始まりの町』に早く行きたいんだ。時間が取られるのは歓迎しない。歩きながらでもよけば、その質問に答えよう。どうかな?」
葬った数くらいだから大した情報じゃないけど、何が価値があるのかは人それぞれ。どうも聞きたそうだから、それなりの価値があるのだろう。対価に道中の安全くらいは提供してもらってもバチはあたらんだろう。
3人で相談中……
「分かった。少し行くと、町まで続く街道に出る。そこまででよければ同行しよう」
こちらの意図を汲んでくれたみたいだ。話が早くて助かるな。第一現地人がそれなりの人達で良かったよ。
「ありがとうございます。ではお願いします。初めての道なので、勝手も分かりません。助かります」
さすがにもう、こちらも警戒を解いても大丈夫か?
いや、いつでもアイテムボックスから防御壁を出せるように意識はしておこうかな。何があってもおかしくない。自分の身は自分で守る。もしも盗賊とかだったら、油断させて一気にヤラれるかもしれないし。
とりあえずは戦闘にならなくて何よりだ。
昨日に続いてまた戦いになんてなってたら、どんだけ世紀末の世界なんだよって偏見を持つ事案だったからな。
せっかくの機会だ。読み取れる情報は逃さないように、交流を深めましょうかね。短い付き合いだとは思うけど。
「俺はリーダーのガイ」
「俺はアオール、こっちはテイガだ」
「さっきも言ったが俺は旅人だ。よろしく頼む」
握手とかの挨拶はないんだな。顔だけみてもどこの指名手配犯だよって感じだ。しかもガタイがよすぎる。何食べればそうなれるんだ? 聞いてみるか? 俺は筋トレやっても全然筋肉つかないタイプだしな、ついてもすぐ落ちるし。体質だと諦めたんだよね。過激な努力もシンドイし……
って余計な事考えてたら、いつの間にか歩き出してるし。下手したら今の間でヤラレてたかも……
コエ~
3人が前を歩いてるだけでも、なんか護られてる感あるな。やっぱり強いんだろうな。装備もなんか使い込まれてて格好いい味出してるし。魔法とかはどうなんだろうか? 聞きたいことが多すぎる。ゆっくりしてたら、何も聞けなさそうだな。
ん、使い込まれた装備って……、そうか、俺のほぼ新品だわ。キズとかないし、ああ、納得。こりゃあナメられてもしょうがないわな。また、反省。ちょっとはウェザリングしときゃよかったわ。今更だけど。
ふぅ、気を取り直して、
「ところで、この辺りじゃあ、野獣とか珍しくないのか? 結構な数がいたと思うんだけど」
「いや、まあ、その、なんだ、いつもいるって訳じゃねえ。ここんとこ増えてきててな。それが集まりだして問題になってるってのが正直な話だ」
それで何らかの依頼を受けたという事か。分かりやすいな。
ここでウソをついても仕方ないしな、そういう事なんだろう。
受けてる依頼とデカい狼っぽいのが関係あるんだな。
「ネグラ探しか? それとも捕縛、狩りか?」
「できれば全て狩りてぇがな、数が多いんだ。調査を兼ねて少しでも減らせればいいってとこだ、ガハハ」
「今日はまだ姿も見てねぇからな、どこに居やがるんだか」
なる程、ヤル気満々ってことね。じゃあ、俺がヤったのは何の問題もないわけだな。よし。
「そうか。もしかしたら俺が少しやりすぎたから、この辺にはいないかもしれないな。必死で逃げていったからな」
「……オイオイ、冗談なら笑えんぞ。あいつ等は群れるから厄介なんだ。独りでどうこうできるようなもんじゃねえぞ」
「バカ、匂いとかで追い払ったって事だろうよ。そうだろ?」
「………」
えっ、そんな感じに見えてんの?
え~~、ショックだわ~~。テイガとか無言だし。
どうしようかな?
「いや。冗談でもないぞ、5匹だ。5匹は確実に息の根を止めた。逃げたやつの正確な数は分からんが、数匹だったと思う。この先の広場みたいな所で襲われたから、返り討ちにした。どうやったかは、……ヒミツだ」
「…………」
おい、なんか言ってくれ、大の男3人が無言て、空気重いぞ。
おっ、道っぽいのが見えてきたな。あれが街道かな。
「まあ、信じてくれと言うつもりもないが、案内の礼に正確な情報を提供したつもりだ。ちなみに、全て燃やしたからな。何も残ってはないぞ」
「…………」
おい、まだ言葉にならんのか? なんだ? やっちゃうか?
なんてね。じゃあ、何も言わないなら、伝えることもちゃんと伝えたし、思ってた事を聞いてみるかな。
「ちょっと聞きたいんだが、あんた等は3人パーティーなのか?」
「……」
「……ん。おう。なんだ? 何を今更。3人しかいないだろうに」
「そうなんだが、少し気になってな。もしかしたら……」
おっ、雰囲気がピリついたぞ。ビンゴか?
また振り返ってみるか? 上か?
「いや、いい。やめとくわ」
「おい、なんだそりゃあ。」
「すまん。忘れてくれ。これが街道だろ? じゃあ、行くわ。ありがとな」
ほどなくして街道たどり着いたため、別れを告げることにした。まだ聞きたいこともあったけど、あっちは依頼中だしな。なんか面倒な雰囲気になりそうだから、とっとと町に行こう。情報集めは、安全な場所でゆっくりやればいいしな。
何か言いたそうだか、片手を上げて歩き去る。
「……おう。じゃあ、またな!」
「じゃあな、タビト!」
「またな、タビト」
…………タビトって?
俺の事だよな? えっ、マジで?
旅人になったの?……
旅人だけに……
読んで頂き、ありがとうございました。