旅人になって旅立つことにした
警戒しながら櫓を降りる。
間近で見ると、更に強い吐き気がこみ上げてくる。
「酷いな」
戦いに勝ったとか、やり遂げたとかの満足感は一切湧いてこない。やってしまったな、という残念な気持ちが強いのか?何とか身の安全を確保できて安堵する気持ちもあるな。
「さっさと片付けますかね」
これは犬なのか? 狼? 結構大きいなぁ。牙とか毛皮とか、あと魔石とかがあったりするのか? 解体とかはまあ、無理だな。こんなの触りたくないし。
《落とし穴》で直接穴に降ろし、衛生面を考えて《バーナー》で遺体を焼却することにした。《バーナー》は、適宜追加して火力を出していく。立ち込める臭いは《エアカーテン》で遮断して、しばし待機。燃焼完了後に《穴埋め》で、火葬の完了。
ちなみに、《火葬》は、新しく登録した。不本意ながらこれからも使うかもしれないし……
結局5体。それぞれに《火葬》を行い、《土均し》で抉れた地面を平らにして回った。
「ふぅ~~」
慣れない作業は疲れるな。
この際、小屋の防御力アップ大作戦もやっとくか!
変なノリのまま、作業続行。
《お堀》《防御壁》で小屋を囲む。
どう見ても城塞だ。《橋》を作って完成です。
やはり、ここまでやると時間がかかるし、疲れも倍増だ。
少し控え目に作ったけど、雰囲気がヤベー。コエー。ヤバいのが住んでそうな所になってしまった。
ま、いいや。明日旅立つし。
よし、やりきった!
「お風呂だー!」
今度は何人たりとも邪魔はさせんぞ。
いい加減疲れたから、とっとと撤収。
《橋》を《解除》して、風呂場へGO!
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かこ~~~~ん
「う~~ん、しみる~~」
《風》を使ってジャグジーやってみました。
疲労した身体に効くぅ~。リフレッシュだね。
「あ~、いい湯だった」
食欲もないから、水分補給だけして、横になりますかね。
魔法の検証してるときは、楽しくてあっという間だったけど、テレビもネットもないからな。日が沈んで辺りが暗くなると、やっぱり怖いし、淋しさを強く感じる。
疲れもあるけど、あんな戦闘の後じゃ寝付けるような気分じゃないしな。
そう言えば、レベルアップの効果音とかなかったなぁ。
ステータス表示とかマジでないのか?
身体が軽くなったとか、変化はなさそうだしな。
ないのか。やっぱないのか。
ステータスブックを確認してみるが、特に変化なし。
ふぅ、気分転換にちょっと外に出てみるかな。
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「真っ暗です」
文明って凄いね。日本の異常すぎる明るさに慣れちゃってるから、余計にね。静寂とか暗闇とか、本能的な恐怖ってやつが湧いてくる。
オラ、ゾクゾクすっぞぉ。
何か違う……
でも、マジで怖いから。闇に飲まれて、覆われて、ジワジワと締しめ付けられていくような感覚。自身が小さくなっていってしまうような引き込まれる感覚。
『光害』なんて言われてたけど、どっちを選ぶかと聞かれれば、光のある方を選ぶかな。日本は限度を越えてるけど……
~~光害とは~~
過剰、または不要な光による公害のこと。
夜空が明るくなり、天体観測に障害を及ぼす。
生態系を混乱させる。
エネルギーの浪費の一因になる。
夜間でも経済活動が活発な都市、人口が密集した米、欧、日本などで特に深刻。
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余計に寝付けんくなったわ。あほか、俺。コエーよ。
《ランタン》の炎がなんたあったかく感じる。
今後の目的、目標は? 環境を把握してからじゃないと動けんか。文明の水準、国勢とか法律とか、まさか日本じゃないだろうし、まさかな……フラグっとくか?
あっ、スマホ忘れてたわ。どんだけテンパってたんだって話だな。毎日お世話になってたのに……
こういう時こそ文明の利器に触れましょうかね。
スマホを操作してBGMを流しておく。
睡眠誘導効果のあるのやつね。1/fゆらぎってやつ。種類もいろいろあったりする。
ココロが受け付ける時と、受け付けない時があるんだけど、今ならすんなり入ってきそうな気がする。
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心地よい朝の光の中、俺は旅人になった。
旅人の装備を身につけたから。
旅人の短剣、旅人のナイフ、旅人の小楯、
旅人の革靴、旅人のマント
ちなみに、アイテムボックスの中身はこんな感じ
■簡易アイテムボックス(10/10)■
・旅人の野営セット
(テント、テーブル、チェア、ランタン、マット、
寝袋、毛布、コンロ、鍋・大中小、包丁、まな板、
お玉、トング、皿・大中小、水筒、コップ、
フォーク、ナイフ、菜箸、箸、布袋・大中小)
・布袋[大]
(スマートフォン、財布、
モバイルバッテリーソーラーチャージャー)
・布袋[大]
保存食約10日分
・防御用土壁一式
防御壁×10
・弾一式
(泥弾×500、鉄矢尻×500、
土弾[大]×500、[中]×500、[小]×500)
・建材一式
(土壁[大]×20、[中]×30、[小]×30)
・旅人の小屋
・旅人の生活小屋
・旅人の生活小屋の石戸
・シェルター用の石戸
■ゴミ箱■
空
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『ステータスブック』
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出発前にひと仕事
『旅人の小屋』の代わりに、小屋っぽいもの建てといたよ。
木造じゃなくて、土造だけどね。《強化》もしといたから結構頑丈だよ。火薬庫くらいにはなってるんじゃないかな。比較はできんけど。
真四角で、黒ずんでて、遠くからでもヤバイ雰囲気出てて、近づきにくいけどさ。逆にありなんじゃないかと・・・
小屋の中は、最初にあったようにベンチとテーブルを、木箱は棚に、保存食の代わりには微妙だけど、ランタン2つ設置した。
等価か?と問われれば保存食のがありがたいけど、指輪もあるしなぁ……
ということで、小屋っぽいものを増築して風呂、トイレ、台所付き、部屋?も八畳くらいにしてベッドまで設置しておいた。
これでどうよ。
内は、大理石風の高級マンションばりの構造。石だけど。
外は、軽く溝と橋を1つ、壁には《土壁》を、覗ける程度の隙間を作って設置しといたから、要塞にしか見えんけどね。
そうだ。写真撮っとこ。
これくらいでなんとか、どうよ。
一方的に施されるのはどうもね。
はい、そうです性格です。自己満足です。
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思ったより時間かかっけど、よしとしますかね。
「じゃあ、行きますか!」
少し気合いを入れ、まだ見ぬ第一現地人を求め、獣道に沿って歩き出した。
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「なんか来た……」
……
「お、おはようございます?……」
読んで頂き、ありがとうございました。