どこだかよく分からない世界の鼓動
『生活魔法』の検証に区切りをつけた。
身の安全を最優先に考えたため、存在していた魔法の習得に時間を使ったわけだが、こちら?で目覚めてから1日と半分が経過した。
『旅人の小屋』『旅人の装備』『生活魔法』『保存食』のおかげで、生きていくだけなら、しばらくは何とかなりそうな気もするが、もう少し先の事も考えないといけない。
手っ取り早く、目の前に続く獣道を進んでいけば、何かしらのフラグが立ってるとは思うが、安直にそれを選択せず、この拠点の周りを先に探索してみる事にしようかな。
精神的なダメージが抜けてない気がするが……
ここはひとつ、
パンッ!顔の前で勢いよく手を鳴らす。
流れる動作で前屈みに片膝をつき、両手も地面につける。
「《櫓作成》」
金髪の少年をイメージして、またやってみた。やはりエフェクトはでない。まだイメージ力が足りないのか……
ドドドドドっと低い音を立てながら、みるみる櫓が形成せれていく。適当な高さで発動を止め《強化》。
こんな簡単に作れちゃうなんて、まだ慣れないな。ドキドキしてるし。おかげで気分爽快。精神的ダメージも軽減されたはず……
《身体強化》
凄いね。全く疲れずに登れたよ。階段で3階に上がるだけでも軽くつかれるのに。しかもハシゴだよ、登ったの。
「やっぱスゲー」
この感動的はいつまで続くのか、素直にに感情が動くのは若い証拠だね。いいことだ。
脳も活性化されるし、まだまだイケる!
……っと。「山だな」
町までは……、直線なら半日もかからないだろうな。フラグを回収したとしても、朝一番で向かえば、日暮れ前には着けるはず。
うん。人恋しくないと言えばウソになるからな、気合い入れて行ってみるしかないな。
物凄く世紀末な状況とか、誰もいないとか、ゾンビだらけとか、人外の町とか、あとは?
独りだからか、こうやっていらん事ばっか考えちゃうな。話が進まんから、そろそろこういうのは止めにしときましょうかね。
獣道の反対側、小屋の裏手は豊かな緑。森だ。林じゃない。
大体こういう場合は、木の実、よくて果物、キノコ、薬草なんかがあったりして、スライムか角のあるウサギなんかが登場って流れでしょ。うん。よく読んだ。
「よし、風呂にしよう」
だから、周囲の探索は終了。おしまい。
明日に備えて、英気を養うことにしよう。
迂闊に森になんて入りません。採集も狩りもしません。
やったことないし。《鑑定》とかできんし。
ダニとかスゲー怖いし。
ダニをなめちゃあいけません。勿論食べちゃダメ。
皮膚に赤いブツブツができる発疹)から肝臓機能障害になることも。
ダニの唾液に含まれるウイルスが体内に入り、意識障害や神経症状をおこすこともある。
ダニに噛まれて命を落とすこともある。危険なヤツだ。
森を歩いている時に、木から落ちてきたダニにかまれて発症。バカにできないが、日本でも発症が確認されていた。
~~ダニ対策の三原則~~
「行かない・露出しない・ダニよけする」
有効な治療法が確立していないものもあるから「かまれない」ことが最善。
ダニがいそうな場所には極力「行かない」。
森や草むらとか。野生の動物とかに近づかない
どうしてもという場合は、かまれるリスクを下げるために、長袖・長ズボン、帽子、靴を履いて、肌の露出をなるべく減らす。
油断せず、ダニよけスプレーやハーブなどを活用する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「想像するだけで何か痒くなるわ」
訳も分からん状況で、訳も分からん森になんて入る勇気は俺にはない!だから俺は勇者じゃない!
野生の獣ってだけでも怖いのに、未知の生物なんていたら、なお怖い。
ということで、撤収~
弄ったばかりの小屋でゆっくりしよ~。
ところがドッコイ。何やら怪しい気配が……
・ ・ ・
「なんか来た……」
犬なのか? 四足歩行のひどく汚れた茶色の生き物。にしてはでかいよな。狼ってやつか?
1……2……3……かな?見える範囲には3匹。
櫓から降りなくてよかったよ。狙われてたのかな?
警戒してるのか余裕なのか、唸り声もあげずに、のそのそと近づいてきた。
ずっとこっちを見てるしな、
同じ方向から3匹、ということは……、
バッと振り返ってみると、いつの間にか更にがたいのデカいのが迫ってきていた。
「やるね」
ただの野良犬の類いじゃないって事だわな。
第一生命体の発見が、刈られる側の、獲物認定されてるとか。
せめて「第一町人発見!」って言わせて欲しかった。
「さて、では見せて貰おうか。この世界の獣の性能とやらを!」
言ってやったぞ。多分通じてないと思うけど、
「おっ、何か威嚇してきたぞ」
気づかれて焦ったか?日本語通じたのか?セリフの意味を理解したのか?
最後のやつなら、仲良くなれそうな気がするが……
そんな事言ってる場合じゃないな。うん。やっぱちょっと恐いわ。やられちゃう?
グゥグゥ唸りながら更に囲んでくる。5……6……と、やっぱまだいたか。
くそー、やってくれる。
柱やハシゴに飛びついてくるが、登れるわけがない。所詮は獣。
「ふんっ。登ってこられなければどうという事はない!」
更に追い打ちをかける。
仲良くなりたそうでもないので、やっちゃうよ。
「一応聞いておく。敵対するという事だな? その行動は」
ふた周りくらい大きいボスっぽいやつに向けて確認してみた。
…………
当然無視だわな。知ってた。
もしかしたら喋れる個体かもしれないし、言葉だけでも通じれば、無駄な殺生しないで済むかもしれないし。
「腹減ってるなら、保存食くらいならあるぞ?」
アイテムボックスに入れておいた、干し肉っぽいものを見せてやり更に確認。
……我関せずって感じで、櫓に飛びかかってるな。目が血走ってて怖いぞ、イッちゃってんのか?
ダメか。仕方がない。生肉派のようだ……
「忠告はした。譲歩もした。それでも敵対するのなら、反撃を開始する!!」
………
チーン。はい。また無視された。
柱をガシガシ、ガジガジ、やる気満足だ。
もうダメだな。
「ならば、落ちろ! カトンボ!!」
「『我が身を守り賜え』《石弾》(大)!」
指先をボスっぽいやつに向け、発射。
ドシュッ!! グシャッ!
「《石弾》《石弾》《石弾》《石弾》《石弾》《石弾》《石弾》(全部大)」
グシャッ! グシャッ! ドッパーン! ドッパーン!
突然の攻撃に対処できず、ボスっぽいのと数匹はあっさり砕け散った。汚い花火となって。
威力がハンパない。さすが拳大!頼れる相棒になってくれそうです。
初撃って大事。
訳も分からず唖然としている隙を見逃すわけもなく、連射してやった。
詠唱は一度だけで、しばらくは連射可能。なんて親切設計。ありがとう。
…………
数匹は振り向きもせず逃げていった。
これだけのものを見せてやれば、もう襲ってくることもないと思いたいが、こればっかりはな……
できれば殲滅させたかったな。
「戦いは非情だ……」
やるか、やられるか。怨みをかえば、倍になって返ってくるかもしれないからな。禍根は断っておきたかった。
気持ちのいいもんじゃないが、命のやり取りをしたんだ。
こんな殺生は初めてだ。
「やれやれ。片付け誰がやんだよ。俺だよ!」
まさに惨劇だ。
日本人には見慣れない光景だな。
むせかえるような匂いと酷たらしい残骸が散らばって、吐き気がする。地面も所々抉れていた。
自分でやっておいてなんだけど、何だったんだよ。
「くっそー」
やるせない怒りがこみ上げる。感情も収拾がつかないのか、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。
読んで頂き、ありがとうございました。