97:仙台でお爺さんに会った日
伊達政宗の歴史を追う旅行は、それはそれは楽しいものだった。
伊達政宗が築いた青葉城。本丸には伊達政宗が騎馬に乗っている銅像があって「ハイ、ちーず」と干原家は写真を撮ってもらった。
「この騎馬像は2代目なんですよ。初代は戦争で鉄や銅が必要になって、政府に回収されてしまったんです」
「へー」
「では、初代の政宗公の像は溶かされてしまったのかというと。そうじゃなかったんです。回収されたのは馬だけで、政宗公は漁港に捨ててあったんですよ」
「溶かしてしまうのが忍びなかったのかもしれませんね」
「そうかもしれません。初代の政宗公は、仙台市博物館の庭に今も飾ってありますよ」
騎馬像を見上げていた凛は「あれ?」と気付いたことを口にした。
「政宗って片目だったんでしょ? でも、この像だと両目があるよ?」
「ああそれは政宗公の遺言があったからなんだよ。私が死んだ後で絵や像をつくるなら、両目をいれるようにってね」
凛の疑問に、お爺さんが教えてくれる。
ん? ああ、そうそう。
このお爺さん。
凛たちが昼食で立ち寄ったお蕎麦屋さんで知り合った御仁で、伊達政宗に詳しいということで、こうしてガイドのようなことをしてもらっているのだ。
青葉城の城址でゆいいつ復元された脇櫓を臨む。
復元された白い壁が夏の日差しを反射して輝いて見える。
「わたしが若かった頃は、この脇櫓の他に大手門もあったのですがね。やはり戦争で焼けてしまったそうです」
お爺さんの言葉に、正彦とむつみが神妙な顔をする。
けど、ここで空気を読まないことで定評のある凛くんが
「大手門って?」
尋ねる凛の頭に、お爺さんがポンと手を置いた。
凛の坊ちゃん刈りな頭はキューティクルが艶々(つやつや)で、手を置かずにはおられない魔性の魅力を放っているのだ。
「お城の立派な玄関のことだよ」
「お城の玄関か。見たかったなぁ」
チュ、チュー。タックとチックも同意見のようだ。
それから坂道を、杖をつくお爺さんのゆっくりにあわせてのぼる。
着いたのは本丸の址だ。
「わぁ!」
と凛は駆けだした。
本丸址は高台にあるので、市街地が一望できるのだ。
「凛! 転ぶわよ!」
むつみが注意するけど
「大丈夫だよ」
振り向いて言ったそばから、すっ転ぶ凛だ。
さすがは主人公。お約束をわきまえてらっしゃる。
「言わんこっちゃない」
むつみが慌てて走り寄る。
「えへへ」
と照れ笑いする凛に怪我らしい怪我はない。
サッカーで転ぶのはなれているので、こんなぐらいじゃ擦り傷だってつくらないのだ。
そんな、やんちゃな凛をお爺さんが目を細めてみている。
「好い子ですね」
「少しばかりそそっかしいですが」
正彦が苦笑する。
お爺さんが疲れてしまったので、これで初日はお開きになった。
「お爺ちゃん、明日もいろいろ教えてよ」
別れ際、さらりとお願いする凛に
「こら」
正彦とむつみが叱る。
「わたしは暇ですからやぶさかではありませんが。ご家族の旅行を邪魔してしまうのではありませんか?」
「そんなことはありませんよ」
「今日はとても楽しかったですし、お願いできますか?」
「ええ、よろこんで」
こうしてお爺さんとの約束をとりつけたのだけど。
民宿に帰って、むつみは正彦を相手に首をひねっていた。
「あのお爺さん、な~んか見覚えがあるのよね?」
「僕もなんだよ。平さん、て言ってたよね?」
う~ん? 2人は答えのないままに魚の小骨が喉に引っかかったような思いをするのだった。
2日目も干原家と平お爺さんは楽しく過ごした。
その流れで3日目の約束をとりつけて、その当日。
伊達政宗の霊廟である瑞鳳殿を巡っているところで事件が起きた。
お爺さんが倒れてしまったのだ。
大急ぎで救急車が呼ばれて、正彦はそのまま付き添いで病院へと向かった。
むつみと凛も後を追ってタクシーで病院へ。
病院に着くと、むつみはナースステーションに行って、凛は待合室で大人しく待っていた。
待合室に設置されているテレビはNHK教育が選択されていて、中国残留孤児のプロフィールが流されている。
中国残留孤児というのは、そのままで、戦争のどさくさで中国に残された子供たちのこと。
もっとも、バブル華やかな時代は1980年代の後半。もう既に孤児は大人だ。
それでも日本に肉親がいるかも知れないと、こうして写真や名前や育った場所、憶えていることをアナウンサーが読み上げて情報を募っているのだ。
待合室の老人がジッとテレビを眺めている。
こういう時。能天気な凛でさえも『戦争』を感じざるを得ない。
「凛」
むつみに呼ばれて、凛は一緒にお爺さんのいる病室に向かった。
点滴の針を腕に刺したお爺さんはベッドで眠っていた。
正彦とむつみが小声で喋っているのをよそに、凛はスツールに座った。
お爺さんは改めて見ると、しわくちゃだった。
髪も眉も真っ白。
戦争を体験してる人なんだ。
凛はなんとなくそう思った。
「凛」と正彦が呼んだ。
「僕とムーちゃんはお医者さまにお話を聞いてくるから、ここで待ってておくれ」
「何かあったら、そのボタンを押すのよ」
言い置いて、2人は病室を出て行った。
凛は借りてきた猫みたいに大人しかった。
魔法をさずかった事故以来、凛は病院が苦手なのだ。
苦しい思いをしている人がおおぜい居ると思うだけで、胸が苦しくなってしまうのだ。
「うう」
お爺さんが眉をしかめて唸る。
凛は、お爺さんの手をそっと握った。
固い、木みたいな手だ。
「苦しそうだな」
「悪夢を見ているみたいですわね」
タックとチックが肩にのって言う。
「なんとかできたらいいんだけど…」
凛が言うのに
「だったら魔法で夢に入り込めばいい」
「そんなのできるの?」
「もちろんですわ」
チックが偉そうに胸を張る。
「なら」
立ち上がった凛は「ヘイ!」魔法の口紅をステッキに変化させたのだ。
パッパと進めます。
ほとんどダイジェスト!




