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96:仙台旅行の日

お盆になると、たいていの家は田舎に帰省する。


でも干原ほしはら家は違う。


だって帰るべき田舎がないのだ。


父親の正彦は関西出身だけど、両親は亡くなってるし、兄弟もいない。親類はいるけども、両親が亡くなったときのゴタゴタで付き合いがないから、帰る理由がない。


母親のむつみは神奈川の出身で両親も健在だけど、川崎の都心部の高層マンションに住んでいて、凛の祖父母は田舎暮らしとは正反対の暮らしをしている。


そんなわけで、凛には田舎がないのだ。


とはいえ何処にも遠出できないのは可哀想。


そう考えたのか、それとも自分たちが羽を伸ばしたいだけなのか?


干原家ではお盆になると家族旅行をすることになっていた。


今年の行き先は


「ボクは翔姉えのジッジとバッバのとこ」


お隣同士だからというだけで、伴場ばんば家の帰省にたびたび付いて行っている干原家なのだ。

たびたび過ぎて、伴場家の田舎先ではほとんど親族同様の扱いを受けているぐらいだったりする。


例年なら、これで決まっていただろう。


正彦も翔子の父親やその親族とお酒をグビグビ飲むのが好きだったし、都会っ子のむつみも伴場家が帰省する田舎らしい田舎が物珍しくて好きだったのだ。


ンでも。


ハイ! とむつみが挙手をした。


「あたしは仙台に行きたいです!」


ハイ! と正彦が挙手をした。


「僕も仙台が良いと思います!」


凛は2人の勢いに気圧された感じでキョトンとしてしまった。


しめしめ、と正彦とむつみは思う。

大事なのは勢いなのだ。

勢いで押し切る。

そうしないと、凛は「翔姉えのとこがいい!」と駄々をこねるに違いないのだ。


「なんで、仙台なの?」


凛が訊くのに、よくぞ訊いてくれましたとばかりに、結婚して12年目、お付き合いは大学の頃からなので16年目になる、いまだにラブラブな正彦とむつみは声を合わせていった。


「「 だって、政宗がカッコイイから 」」


NHKの大河ドラマで放送している『独眼竜政宗』に大はまりしている2人なのであった。


でも凛はぜんぜ~~ん、はまってない。

時代劇が嫌いなわけじゃない。

その時間はお風呂にはいっているから見逃してしまうのだ。


「そんなのヤダ」


案の定、凛はぶー垂れようとしたのだけど。


「チュ、チュー」


「チュチュチュー」


タックとチックが100パーセント乗り気だった。


この2匹も独眼竜政宗に入れ込んでいるのだ。


日曜日の放送時には、折り紙で作った刀をタックが、これも折り紙で作った兜をチックが、それぞれ身につけてから視聴に臨むほどだった。


正彦とむつみ、2人だけなら凛はわがままを通しただろう。

けど、ここにタックとチックが加わると4人。


さすがに4対1では、凛も折れた。


「まったく、みんなしてワガママなんだから。いいよ、仙台で」


何故だか上から目線で、凛は仙台行きを承知したのであった。






車で出発したから、渋滞に巻き込まれたり。

途中で凛がおしっこを漏らしそうになったり。

運転席の正彦と助手席のむつみが、後部座席の凛をほっぽってラブラブちゅっちゅっだったり。

タックとチックが掴みあいの喧嘩をしたり。


なんやかんやあったけど、干原家は予定通りに仙台に到着した。


泊まるのはホテル。

とはいかなかった。


予約が遅かったので、どこも満室になってしまっていたのだ。


考えることは誰もが同じで、お盆休みに仙台旅行をしようと計画する独眼竜政宗にはまった人達がおおぜいいたようだ。


それだけ大河ドラマ『独眼竜政宗』は凄まじい人気だったのである。

なんと平均視聴率は39.7パーセントで、歴代の大河ドラマでトップ。最高視聴率に至っては47.8パーセント!


凄すぎです!


なわけで、正彦とむつみは


「やっぱり、翔姉えのとこのほうが良いんじゃない?」


などと未練たらたらで言う凛が本気で言い出す前に、むつみの雑誌記者という広い人脈を使いまくって、遂に都市部から離れた田園風景ものどかな田舎に宿を取れたのである。


民宿だ。

むつみの同僚の、同僚の後輩の、後輩の義理の両親がやっている、なんとも覚束おぼつかない伝手つてを頼った結果だった。


「よくぞ、おいでくださいまして」


到着した干原家は、人の好さそうな老夫婦にていねいに迎えられた。


与えられた部屋に荷物を降ろして


「さぁ、行こう!」


その足で政宗ゆかりの地を巡る気がまんまんの正彦とむつみだった。


正彦、35歳。

むつみ、36歳。


バイタリティがみなぎっていた。


むしろ


凛、10歳。


のほうが


「え~、もう少し休もうよ」


とクタクタだった。


畳の上にだらんと寝転んでしまう。


「ちゅ、ちゅちゅ!」


「ちゅー、ちゅっちゅ!」


タックとチックが凛の頭の上で催促するみたいに足踏みをする。


「無理」


腕の中に顔を隠した凛だけど、タックとチックの催促は終わらない。


「あー、もう!」


仕方なく、凛は身を起こした。


コロリンと転がった2匹が、フードのなかにスポンとホールインワン。


こうして凛の仙台旅行がスタートしたのだ。

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