94:水泳大会の第2戦から第5戦の日
お久しぶりです。
休んじゃって、ごめんなさい。
2戦目は障害物競走だ。
アイドルたちがプールサイドを走るのだけど(※プールサイドには滑っても平気なようにクッション性のあるビニールが敷いてあるのだ。けど、逆にフカフカすぎて走りにくいのである)、その途中にハシゴや滑り台、そしてここが重要なのだけど早着替えが用意されているのだ!
ということで。
これには白組からリンが参戦した。
スタートの合図がされるや、リンはダッシュした。
もう全力である。テレビだとかは考慮のうちにない。
女の子走りをしている他のアイドルを置いてけぼりに、リンはハシゴをのぼった。
カメラマンがすかさずお尻をズーム!
ハシゴをのぼった先の滑り台をリンは「わー!」と滑り落ちる。
のぞき撮りが一斉にバシャバシャとシャッターを押す。
この滑り落ちるというのがキモなのだ。上手くいく? と水着のトップスがずれたり脱げたりしちゃうのだけど…。
はい、残念。
リンの水着は無事でした。
滑り台をおりたリンは、そのままゴロゴロと前転してピタリとポーズ!
魔法のレベルが上がるのに伴って、かなり運動能力が上昇しているリンなのだ。
「わああああああ!」
観覧席から拍手。
余裕のガッツポーズをしてみせてから、リンは再びダッシュ!
お次は早着替えである。
まずは長机に置いてある幾つものダンボールから好きなのを選ぶ。
そのなかに着替えの服が入っているのだ。
「リンちゃんが選んだのは何でございましょうか!?」
「どうやらナース服みたいですね」
リンは直径1メートルほどの360度ぐるりとカーテンで囲まれた更衣室にはいった。
すると大きな時計がカウントダウンを始める。
着替えは1分限定なのだ。
1秒でも過ぎるとカーテンがストンと落ちて、着替えている様子を衆人環視されちゃうのだ!
といっても、元から水着だし、アイドルたちにとってはそれほど恥ずかしいことじゃないけどね。
言ってみれば、サービス・シーンである。
ワンピースタイプのナース服なんで、ただ頭からズボッと被ってしまえばいいだけ。
キャップを装着。
リンは余裕で1分もかからずにカーテンをめくって更衣室をあとにした。
「リンさん可愛いいいいい!」
「看護されたいですぅ!」
翔子と純菜の興奮した声援がとぶ。
残るはプールに浮かんだ浮島を走って、中央のポールにタッチしたらゴールなのだけど…。
「あらら? リンちゃんのようすがおかしくありませんですかね?」
「ほんとですね、なにか走り方が?」
遅いのだ。
それまでの、やんちゃ走りが嘘のようだった。
原因はスカートだ!
スカートをはいちゃうと、ついつい気になって、女の子走りになってしまうリンなのだ。
水着のときは平気のへっちゃらなのに、人間の思い込みというのは不思議である。
ともあれ、2位との差は歴然。
遂にリンは浮島に足を進めた。
でも、この浮島。
ペラッペラなので、とてもじゃないけど伝い歩けるようにはできてない。
リンは中ほどまで進んだところで、ボチャンとプールに落ちてしまった。
濡れ鼠になったリンがプールの縁から這い上がる。
バシャバシャとシャッターが切られて、テレビカメラがズーム。
ぐっしょり濡れたナース服が体にぴったりくっついて、しかも水着が透けて見えて、エッロいのだ!
そのあいだに2位の女の子が追いついて浮島に。
けど……ボッチャーーン!
3位も4位も、5位だって、ツルンと滑ってプールに入水だ。
リンは今度こそと、浮島を四つん這いになって進んだ。
そんなリンをのぞき撮りとテレビカメラが嬉々として撮影する。
そうなのだ!
この浮島はどうしたって四つん這いにならないとポールまで行けないのだ。
練りに練られた、このお下劣さ。
カメラはお尻に釘付けだ。
ともあれ、リンは
「やったああ!」
1位でポールにタッチした。
「ゴールでございますです! 1位は白組のリンちゃん!」
「これで白組は100点が入ります!」
ということでリンは活躍したのだ。
けど、長々と続く競技内容を書いても仕方ないので、ここからはダイジェストで。
「ちょっと! わたしの…」
ふむ。
何やら美也子さんが喚いているようですが、聞こえませ~~ん!
第3戦は水上格闘。別名、ドンケツ。
ビニール製の丸太に背中合わせにアイドルがまたがって、合図とともにお尻で押し合うのです。
これには美也子が参戦した。
なんと! 3人抜けである。
1人で3人もプールに落としちゃった。
「さすがミャーちゃん! お尻が大きい!」
リンがはしゃいで、美也子がギロリと睨んでから誤魔化すみたいに「ホホホ」と笑う。
これでも褒めているつもりのリンなのだ。
第4戦は飛び込み競技。別名をターザン。
プールサイド寄りの水上に吊り下げられたロープにつかまって飛距離を競うのだけど。
これが散々だった。
まず、ほとんどのアイドルがロープに掴まれないのだ。
ジャンプして、そのままボチャンと落ちてしまう体たらく。
ロープを掴めたとしても、そこから振り子なんてできるはずもなく、そのままズルズルと落ちてしまう。
「こりゃ、失敗だ!」
プロデューサーが頭を抱える程だった。
映像に迫力がない。
もしかしたら編集で全カットすらあり得る。
というか!
「まずいぞ!」
プロデューサー、大貫健司、36歳、独身。は大いに焦っていた。
第4戦までこなしているというのに、いまだに『ぽろり』がないのだ!
前任でありアイドル水泳大会なんてゲスイ番組を考え付いた先輩プロデューサーはこう言って健司に番組を任せた。
「いいか。ぽろりは必須だからな! ぽろりがなければ、ぽろりをつくるんだ!」
とはいえ健司は基本的に善人である。
故意に『ぽろり』をさせるほど、ダークサイドに堕ちてはいなかった。
既に番組は後半の第5戦、競泳になっている。
もちろん、ここもダイジェスト!
リンと美也子も参戦した競泳は大いに盛り上がった。
しかし活躍の意味が、リンと美也子とでは正反対だった。
美也子は田所シマがドン引きするほどに真剣な泳ぎを見せて、余裕で1位を決めた。
対してリンである。
実はリン…というか凛。
泳ぎがヘタッピなのだ。プールは好きでも、泳ぐのは不得意だったのだ。
本人は華麗にクロールしているつもりでも、傍からすると溺れているようにしか見えない。
特に息継ぎの時なんて、あまりにも悲惨である。
観覧席は大爆笑だった。
しかしリンは本気なのだ。
凛くんは何時だって全力なのだ。
それを感じ取ったのだろう、仕舞いには観覧席からもアイドルたちからも「がんばって!」という声援が飛ぶ有り様だった。
「感動であります!」
「リンさん! 頑張ったね!」
会場全体がひとつになった瞬間だった。
1人を除いて!
この様子を見ていた大貫健司は。
「ちっが~~~~う!」
と心のなかで叫んでいた。
番組の方向性が明後日の方向に進んでいる。
次は最終戦の水上騎馬戦だ。
「やってやる! やってやるぞ!」
健司は決意すると、売れないアイドルを1人、呼び寄せたのだった。
次でアイドル水泳大会は終わりだと思います。




