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93:浮島戦の日

「今年も懲りずにやってまいりました! 夏のアイドル水泳大会!」


サングラスにリーゼントというアラサーの男性が声を張り上げると、賑やかしのパフパフラッパや小太鼓が打ち鳴らされて、わーーー、観覧席から歓声がわいた。


「司会はワタクシ、田所シマと」


「伊佐静香がお送りします」


と水着姿の静香がにこやかに続けた。


なんと、静香は司会者に抜擢されていたのだ。

もちろん司会がプールに入ることはないから『ぽろり』の危険のない安全地帯である。


わーーー、と観覧席から一段とおおきい歓声が上がる。


「今回もアイドルたちには紅白にわかれて勝負をしていただきます!」


「まずは紅組のご紹介です!」


静香が言うと、場内に曲が鳴り響いた。

静香の2曲目の新曲だ。


その場で静香は歌をうたう。


アイドル水泳大会は、水着姿のアイドルを楽しむだけじゃないのだ。

こうしてアイドルに歌をうたわせて、宣伝までさせてしまうのである。

であればこそ『ぽろり』なんて危険があるのに事務所は所属アイドルを出演させるのだ。

とはいえ、歌をうたえるのはそれなりにちからをもった事務所がプッシュしているアイドルだけで、放映時間2時間で10人いるかいないかだろう。


場内に響き渡る静香の歌声。


あいかわらず下手である。


これをバックに、紅組のアイドル20人が入場をした。


先頭はもちのろんで美也子だ。


藤堂美也子。


激怒げきおこだった!


なんで! わたしが! 静香の歌で! 行進しないといけないのよ!

て具合だ。


しかも司会者の静香は個室で着替えていたと聞かされたのだ。


この! わたしが! 大部屋で! 着替えてたのに!

て具合だ。


けど、これは仕方ないのだ。


だって美也子は無理矢理に出場をしたのだ。

番組としても若手ナンバーワンとの呼び声も高い美也子に個室を用意したいところだったけど、急だったせいで用意できなかったのである。


ギロリと睨まれて、静香のマイクが「ヒッ」なんていう悲鳴を拾ってしまう。


いちおう。いちおう、断っておきましょう。

これでも静香と美也子は1日に30分は電話でお話をするぐらいの間柄なのだ。

30分なのはお互いの寮できびしく制限されているせいで、それがなかったら2時間でも3時間でも延々とお喋りしていられるだろう。


紅組の入場が終われば、お次は白組だ。


そして歌がはじまる。

今度は美也子の曲だ。


静香のあととか舐めてんの!


ハラワタが煮えたぎっている美也子だ。


とはいえ、そんな感情はおくびにも出さない。

ニッコニコだ。


観覧席から「エル、オー、ブイ、イー、ラブリー、美也ちゃーん!」というファンの応援が沸く。


そしてリンを先頭に白組が入場した。


行進は観覧席の前を通るのだけど。


その瞬間、応援が途切れた。


リンに見惚れたのだ。


リンはご機嫌だった。

プールで遊べるうえに、思いがけず静香と美也子がいるのだ。

笑顔180パーセントだった。


その太陽みたいなキラッキラさに、思わず見惚れてしまったのだ。


途切れた応援に、美也子は観覧席を見て、そこにリンを見た。


まぁああああああた、リンか!


怒りで鼻にシワが寄りそうになるのを、こらえる。

プロである!


プールの両側に紅白のチームが居並ぶ。


「では、ここに第8回、アイドル水泳大会の開催を宣下いたします」


田所シマが言うと、賑やかしの楽器が吹き鳴らされて、わーーーーー、おおきな歓声が発せられたのだった。






「最初の競技は、浮島戦でございます」


「これは、プールに浮かべた2メートル四方の浮島に、おおぜい乗ったほうが勝ちとなります」


「「 では、スタート! 」」


ビーー、と電子音でスタートが切られる。


まっさきにプールに飛び込んだのはリンだ。


これを観覧席から見ていた翔子と純菜と達也は「わ!」と思った。

それというのも、ビキニタイプの水着だったら、絶対にブラが外れるかズレているだろう、そんな勢いだったからだ。


「若葉に感謝だな…」


達也が遠い目をして言う。


「リンさん、張り切り過ぎですよ」


「まるで小学生の男の子みたいですわ」


リンが飛び込んだことで、他のアイドルも次々にプールに入った。


『ぽろり』があるかも!

ごっついカメラを構えたのぞき撮りの連中がバシャバシャとシャッターを押す。


翔子と純菜も軽蔑したみたいに白い目を向けた。

いいや2人だけじゃない。

女性のほとんど全員が白い目を向ける。


一方でプールのなか、水中である。


アイドル水泳大会は水中にも数台のカメラがあるのだ。


これが舐めるようにうら若い女の子たちの姿を追いかける。


う~ん。

書いていて思ったけど、こりゃ、現代じゃあ放送できないわけだ。


塩素くさい水を掻き分けて、ざぶざぶとアイドルたちが発泡スチロールでつくられた浮島に殺到する。


リンはイの一番にのぼった。


カメラがリンのヒップをズームで撮影。

のぞき撮りもバシャバシャ!


そんなのぞき撮りに拳を振り上げて踊りかかろうとする翔子を、純菜と達也が2人がかりで羽交い絞めにしている。


うーん、カオス!


リンが浮島にのぼれば、美也子も紅組の浮島に一番にのぼった。


それから次々にアイドルたちが這い上がるのだけど。


浮島は薄っぺらい。


ビート版って知ってる?

小学生の時に両手にもって泳いだことない? お腹に抱えたまま飛び込むと、ビート版の浮力で水中から勢いよく飛び出して、面白かったの憶えてない?


浮島は言ってみれば、おおきなビート版なのだ。


誰かが乗るたびにグラグラするし、端のほうになるほど傾ぐ。


で。


リンの周りに6人ほどが乗ったところで、一方に体重が掛かり過ぎたのか、浮島はグルンと転んだ。


わああ!


とリンは水中に逆戻りだ。


「あははははは!」


鼻から水を垂らしながら大笑いである。

美少女が台無しだ。


達也は「まったく」とひたいを抑えたけど、翔子と純菜は「リンんさんらしい」と微笑んでしまう。

同じように、観覧席のお客さんもつられて笑ってしまう人がいた。


のぞき撮りの数人も、おもわずリンの笑顔をバシャバシャしてしまうほどだ。


「きゃああ!」


美也子の紅組の浮島も転がった。


「何やってんの! もっと計算して、一方に偏らないようにのぼるのよ!」


リーダーシップを発揮する美也子だ。


でも相手はアイドルなのだ。

プライドがめっちゃ高いのだ。


美也子の上から目線の物言いで、逆にチームワークも何もあったものじゃないバラバラになってしまった。


これで白組が勝てる。


と思いきや。

こっちもこっちで、リンを中心として遊んでいるだけだったりした。


もっとも番組としてはこれで正解なのだ。


競技に勝つことを目的にされて、アイドルの等身大の笑顔が撮影できないと意味ないのだ。


ビーーーーー!


「しゅうりょーーーーう!」


「終わりです、みなさん、おしまいですよ!」


終了の電子音が鳴っても、いまだに浮島にのぼろうとする女の子たちを静香が注意する。


それでも止めないがひとり。


「リンさん! ストップですよ!」


名指しで言われて、リンは照れ笑いを浮かべながら、静香に手を振った。


「ということで集計なんですございますが!」


数えるまでもなかった。


「紅組、白組、ともに浮島にのぼっているのは0人」


「引き分けです!」


こうしてアイドル水泳大会の1戦目は終了したのである。

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