09:デパートの販売機エリアで腹ごなしをした日
MISAKIデパートは月毎に様々な催しをしている。
去年でいえば。1月は世界中のお正月がどういうものかを写真とビデオで解説した。2月はバレンタインデーで、これも世界中の有名どころのチョコをあつめて販売。3月はひな祭りで10段飾りのひな人形を展示、4月はお花見用の様々なお弁当を売り出し、5月は母の日によせてプレゼント用のケーキフェスティバルを、6月は梅雨ということで色々な傘を展示販売……というような具合に、お客様を楽しませることに積極的で、お客もまたデパートに行くのを楽しみにしているのだ。
ということで。
「今回の催しは、テレビ局や各芸能事務所とタイアップしたアイドル・オーディションなんですよ」
車を降りた凛と翔子に、純菜は言った。
「日本全国に展開するMISAKIデパートの各店舗でオーディションを行って、各地区の代表を決定してですね、4月の18日に後楽園球場でテレビの生放送をしながらアイドル・デビューする子を決めるわけです」
へー、と凛と翔子は感心しきりだ。
「ただ嵐がありましたから、土日が使えなくって、各地区でのオーディションは、こうして平日になってしまいましたけどね。それでも大勢の人が来てくれているようで、なによりです」
純菜の言う通りで、デパートは盛況だった。
普段の2割増しで人がいる。これで嵐がなくて日曜日の開催だったのなら、もっともっと沢山の人が来ていたことだろう。
「ちょっと早いけど、腹ごなししましょうか」
翔子の提案で、3人は1階の自動販売機エリアに向かった。
自販機エリアというのは、文字通り自動販売機だけの場所だ。ジュースの販売機ばかりじゃない。お菓子だってあれば、お蕎麦もあるし、うどんだって、ハンバーグだって、サンドイッチだって、アイスだってあるのだ。そして何よりも重要なのは、その安さだった。普通のお店で買うよりも、だんぜん安いのだ。味だって、悪くない。むしろ家で食べるよりも味が濃くて美味しいぐらいだった。
自販機エリアは、ほどほどに混んでいた。
それでも座る場所はあって、3人はテーブルに落ち着いた。
白いテーブルには、安っぽい赤と白の格子模様のビニールクロスが広げてある。
そのうえに、翔子はビンのコーラにハンバーグ。純菜はビンのオレンジジュースにサンドイッチ。凛は翔子におごってもらってお蕎麦を置いた。
「「「 いただきまーす 」」」
凛はお蕎麦を、ぞぞぞ、とすすった。
タックとチックは、オヤツ代わりに持っていたバナナのドライフルーツを食べてもらっている。
量は少ないけれど、そもそも2匹は体が小さいので充分だろう。
翔子は当然だけど、美味しそうに食べている。
問題はご令嬢たる純菜だったけれど、彼女も不満どころか、ニコニコと食べている。それもそのはずで、翔子と付き合ううちに、こうしたジャンクな食べ物に慣れてしまったのだ。
「もしかしたらだけど、リンさん来てるかも」
思い出したみたいな感じで、そんなことを翔子が口にした。
リン、と聞いて自分の名前を呼ばれたと思って凛が顔を上げる。
でも違ったみたいだ。
「リンさん、というと? すっごい美人っていう、あの?」
「そうそう。コッチの凛とは大違いなんだから」
言いながら翔子がハンカチを差し出す。
口を拭けということなんだろう。
子供扱いは御免、とばかりに凛は顔を背けて自分のハンカチで口を吹いた。
そんな態度が生意気に映ったのか、翔子が軽く凛の頭を小突いて「イテ!」という凛を無視して純菜との話に戻る。
「ほッンとに美人なんだ。アイドルにだってなれると思うんだよね」
「翔子さんッたら、すっかりファンですわね」
「そう! あたし、リンさんのファン1号なんだ」
「そういえば」と凛は何食わぬ顔で2人の会話に割り込んだ。
「オーディションを受けるのって、どうしたらいいの、純ちゃん?」
「たしか…ステージに上がるだけですわ。それで歌や踊りを披露して、観客席からの拍手の音が一定の音量異常になったら合格、そのうえで2日目に合格者を集めて2回目のオーディションという感じですわね」
純菜が答えてくれて「うふふ」と翔子が笑った。
「凛ったら、オーディションに出るつもりなの?」
如何にもからかうみたいに言われて
「そんなんじゃないよ!」
凛はむくれながら席を立った。言外に無理だと言われてるみたいで、凛の向こう気にちょこっと触れたのだ。
そりゃ~無理だとは思うけど…。
タックとチックがちょこちょこと凛のフードに潜り込む。
「んで? トイレ?」
「違うよ、オーディション会場に行くの」
「なら、もうちょっと待っててよ。あたし達、食べてるんだからさ」
「1人で行くから、いいよ」
「今日は人の出が多いですよ? 迷子になりません?」
純菜が小首を傾げて言うのに、今度こそ凛はぶすくれた。
「ボクは5年生なんだからね!」
凛はスタスタと歩き去った。
可愛いわぁ、なんていう純菜の声は華麗にスルーした凛なのだ。
ちょこちょこと投稿するスタイル。
そしてTSできませんでした。
次回こそ!




