84:野外フェスに行こうな日
バブルだし! お金余ってるし!
そうだ!
野外フェスしようぜ!
ということで若い人たちが発起して始まったのがサマー・ロック・フェスティバル、通称『サマロク』である。
東京湾岸の埋め立て地の一帯をそのまま開催地にしてしまう日本最大のフェスだ。
参加するアーティストは様々。
ロックを謳ってはいるけども、POPだって、ジャズだって、クラッシックだって、和楽器の演奏だって、音楽ならなんでもござれの大イベントなのだ。
もちろん、アイドルだって大歓迎!
ということでアポロプロも参加を打診していたのだけど、見事、受かりました。
わー、パチパチパチ!
サマロクは8月の3、4、5、6の4日間昼夜の隔てなく行われるけど、リンのステージは6日目の夜、大トリということになった。
大トリである!
責任重大である!
「リンさん、凄い!」
「さすがはリンさん!」
翔子と純菜は無邪気に喜んでいるけど、達也はそうもいかない。社長として、それ相応のプレッシャーを感じてしまうのだ。
「にしても、どーしてだ?」
リンはデビューして半年も経ってない。
新人だ。
そんなアイドルに普通は大トリなんて依頼が来るはずないのだ。
悩む達也の隣りでは、若葉がニコニコ満面の笑顔でいる。
リンが抜擢された、そのフィクサーが彼女だった。
岬若葉。実は、サマロクを主宰しているうちの1人なのだ。というか、中心人物なのだ。
そんな彼女が言ったものだ。
『大トリですが、是非とも推薦したい女の子がいるんですけど』
推薦と言いつつも、翻訳したら『これ決定事項だかんね』ということになる。
そうして若葉が推したのがリンだったのだ。
もちろんリンの歌声が素晴らしいというのをお見合いの場で確認したからこそ、だ。
でも、裏の考えもあった。
リンが有名になって売れれば売れるほどに、達也が有能ということが証明されて、若葉と結ばれる障害がなくなるのだ。
サマロクの大トリはまさしく名前を売るにはうってつけだった。
とはいえ失敗したら大大大ブーイングで顰蹙ものなんだけど。
『達也さんなら平気よね』
と若葉は謎の信頼を達也に寄せているのであった。
達也が知ったら、顔が真っ青になることだろう。
若葉の公私混同である。
でも、ま。19歳だし? ちょっとぐらいは…ね?
そんなこんなで8月6日。
達也は、例によって凛と翔子と純菜を伴ってサマロクへと向かっていた。
車はマーチがオシャカになってしまったので、ダイハツのミラ・ミラーノだ。おもしろい形の車で、カタツムリみたいにボディが丸く大きく膨らんでいるのだ。
言うまでもないけど、若葉からの借金である。
順調にヒモの道を邁進している達也なのだ。
その若葉は残念ながら同乗してない。
なんせアイドル引退を宣言してしまったのだ。引退するその日まで、各所で引っ張りだこだった。しかもサマロクの運営までしないといけないのだから、まさしく超人的な働きをしなければならないのである。
なので、達也と遊んでいる余裕は
「6日目にサマロクでデートしましょうね♪」
・・・意外とあるよーです。
サマロクの来場者は1日あたり約7万人。最終日は9万人だとも言われている。
とーぜん道路は渋滞するかと思いきや、そーでもなかった。
サマロクのアクセスは車より、むしろ船のほうが多いのだ。
地方の港から船に乗って、スイスイとサマロクへ向かう。
こっちのが断然らくちんなので、み~んな船旅を選択しちゃうのだ。
他にもシャトルバスだって、電車だってある。
むしろ車で来場するのは都内住みの人たちが多数を占めていた。
「着いた~!」
広々とした駐車場にミラ・ミラーノを停めて、車外に降りた達也は大きく伸びをした。
「ドンカドンカ、音がそこら中から聞こえる!」
凛はもうテンション・マックスだ。
「はやく、行こー!」
駆けだそうとした凛の襟首を「どうどう」と翔子が摘まんだ。
「落ち着きなさい、迷子になったらどーすんのよ」
「あのね、翔姉え。ボク、もう10歳だよ? あと2ヶ月で11歳だよ? 迷子になんてなるはずないじゃん」
な~んて生意気な口をきく凛のおでこに翔子がデコピン1発。
「あんたはまだ10歳なの!」
ム~と不満な凛に、純菜はクスクスと笑った。
「凛くんは、たぶん11歳になったとしても迷子になると思いますわ」
これを聞いたタックとチックは「うんうん」と深~く深~くそれはそれはしみじみと頷いたのだった。
ということで野外フェス篇です。




