83:達也の想いと若葉の想いの日
「う~ん?」
凛は目を開けた。
シートベルトをしてなかったせいで、リアウインドウにごっつんこしてしまって、目を回していたのだ。
怪我がないのは、幸運だったとしか言いようがない。
※シートベルトは締めようね。
たんこぶのできた頭をさすさすしながら周りを見れば、シートベルトをしていた翔子と純菜はコテンと意識を失っていた。
「翔姉え? 純ちゃん?」
ゆすっても2人は起きない。
「うう…」
凛は泣きそうになってしまった。
翔子が自分を庇ったせいで死んでしまった時のことを思いだしたのだ。
「おいおい、泣くなって」
ピョコンとタックが凛のフードから跳び出した。
「どれどれ?」
同じくフードから跳び出したチックが、翔子の頭をまるで毛づくろいするみたいにいじくって
「命に別状はありませんわ。ただ、気を失ってるだけですわね」
「こっちも同じく」
純菜の頭を毛づくろいしていたタックも同様の診断をくだす。
「ほんと?」
涙目で訊く凛に
「「 だいじょーV 」」
タックとチックは安心させるみたいに、ター〇ネーターやプレ〇ターやコマ〇ドーで有名になったシュワちゃんがどーいったコネだか日本でやっている栄養ドリンクのCMの真似をしてみせた。
それで凛は安心した。
なんだかんだでタックとチックを信頼している凛なのだ。
ホッとして、滲んだ涙を腕でグイとこする。
そうしてフロントウィンドウのほうを向いたところで、真っ白ジャケットの達也が、雛人形みたいな着物をきた若葉を抱きしめているのを目撃した。
声が聞こえる。
「達也さん、どうして!」
「お見合いだって聞いて、若葉に伝えたいことがあって!」
「わたしも、伝えたいことが」
2人は見詰めあって。
好きだ。
好きです。
同時に言ったのだ。
ピュー! と口笛しようとした凛のほっぺたにチックの渾身の右ストレートが炸裂した。
「好いところなんですから、茶化さない!」
「はい…」
おとなしく座席の陰に隠れる凛である。
さて、ココで終わったのなら物語は大団円だろう。
でもこれは現実? なわけで。
ファン、ファン、とサイレンの音が近づいてきて、料亭からは御曹司やら奥に引っ込んでいた各々の両親やら、仲人さんやら、料亭で働いている人やら、加えて黒服の隠密が何十人と出てきて、達也と若葉を取り囲んだ。
「達也くん、これはどういったことだね!」
若葉の父親が怒鳴りつけた。
さすがはMISAKIグループのトップだ。迫力が物凄い!
達也が思わず背筋を伸ばす。
「お久しぶりです!」
「なにが久しぶりだ! 尋ねているのは、そんなことじゃない!」
「ハッ! 俺は、若葉に伝えたいことがあって、来ました!」
「まさか、好きだとでも言うんじゃないだろうな!?」
「そ、その通りです! 俺は若葉さんが好きなんです!」
そんな達也の告白に
「わたしも、達也さんが好き!」
若葉もまた自分の想いを口にした。
「若葉!」
魂消るみたいな声を母親があげる。
父親の顔が怒りで真っ赤になった。
「この馬鹿ものが!」
スッと2人を指さして。
「引き離せ!」
隠密に命じたのだ。
と、そんな一大事を眺めていた凛である。
「ヘイ!」
口紅を、小さな羽の生えたステッキにした。
「ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!」
唱えれば、迫っ苦しいマーチの後部座席から広々とした魔法の空間にずれる。
そこで凛は、金色のシャワーを浴びて、繭となって、T〔天使に〕S〔スイッチ〕したのだ。
唐突で強烈な光がマーチから四方に溢れて、殺到しようとしていた隠密も、激怒していた若葉の両親も、抱き合っている2人も、気を失っている翔子と純菜をのぞいた、誰も彼もが目を細めて輝きに注目した。
ドアを開けて、リンは外に出る。
その時に、入れ代わったクーシーにウィンクをして『今日もあんがとね』と伝えておく。
「リン? どうしてココに?」
達也が呟くけど、そこはタックとチックが『ヒマワリの種10個ぶんのハラヘリ・パワー』でツジツマを合わせた。
今、達也の頭ではリンも付いてきたことになったのだ。
う~ん、便利。
因みに翔子と純菜はもう頭のなかをいじくり済みである。
恐!
んで。
変身して車外に出たものの、リンは何か考えがあってのことじゃあなかった。
何時も通り、勢い任せの凛である。
とりあえず。
リンはマイクを取り出した。
そうこうしているうちに、警官までが取り囲んでいる。
どうしよっかな…?
リンは考えて。
歌うか!
という結論に落ち着いた。
今までも歌えば魔法の力でどーにかなっちゃったし、今回もどーにかなっちゃうだろうと思ったのだ。
安易すぎ!
でも……正解!
リンは歌った。
それは、しかし今までの歌じゃなかった。
リバイアサンによって魔法のレベルがUPしていたのだ。
恋の歌だ。
聞く人に初恋を思い出させる、そんな歌。
みんなが、リンの歌声に耳を傾けた。
若葉の両親から怒りが解けてなくなる。
2人だって、当然だけど初恋ぐらいしているのだ。
そして、その想いが蘇ってしまったからには、達也と若葉を無理矢理に引き離すなんてことが出来るはずもなかった。
リンの歌が終わる。
ハッとして隠密や警官が動こうとするのを
「よせ!」
父親が制止した。それから
「本日は、まことに申し訳ないことになりまして」
そう四菱の御曹司とその両親に謝罪しようとした父親は
「え?」
と思わず間の抜けた声をもらしてしまった。
それというのも、御曹司と、料亭の仲居さんが抱き合っていたのだ!
しかも、仲居さんは赤髪にそばかすのある外人さんである。
「父さん!」御曹司が言った。
「僕と彼女は好き合ってるんです! どうか結婚を許してください!」
御曹司。実は、懐石料亭ジョニーの仲居さん……というか亭主のひとり娘とず~と付き合ってたのだ。
それで、今回のお見合いも乗り気じゃなくて、どうやって断ろうかと悩んでいたからこそ、話題にも乗れずに、緊張からまばたきも極端に減ってしまっていたのだった。
突然の告白に、御曹司の両親も、若葉の両親も、動揺しつつ顔を見合わせて。
「ふ」
と苦笑したのは御曹司の母親だった。
「こんなことって、あるんですね」
「まったくですね」
若葉の母親も苦笑して
「せっかく苦労して見合いの席までこぎつけたというのに、当人たちにその気は更々ないときたもんだ」
御曹司の父親が肩を竦める。
「もう、見合いという時代でもないのかも知れませんな」
若葉の父親が溜め息をつきつつ言って。
「でしたら!」
若葉が食いつくみたいに言った。
「好きなようにすると好い、もう煩いことは言わんよ」
そう言質を取って、若葉と達也は手を取り合って喜んだのだった。
「もっとも」と若葉の父親は恐い顔で続けた。
「警察と、この店の損壊は、達也くん、君の責任だよ」
「え!」
と今更ながらに自分の仕出かしたことに驚愕する達也に
「おとなしくしろ!」
警棒を振り上げて警官が殺到したのだ!
ということで、その後の顛末をば。
達也は警官にしょっぴかれて、厳重注意を受けた。
それだけですんだのは、なんやかんや言ってはいても、若葉の両親が手を回してくれたおかげだった。
懐石料亭ジョニーの損害は
「わたしが負担します」
と若葉が言ったものの
「俺が仕出かしたことだから」
と達也が言い張って、借金払いにしてもらった。
ハッキリいって、お目目が飛び出るぐらいの金額だ。
壊れた塀や庭の修理費用。
迷惑をかけたお客さんへの詫び料。
修理が終わるまで休まざるを得ない料亭の負担金。
もう1度言おう。
お目目が飛び出るぐらいの金額だ。
そして、だ。
達也と若葉は、お付き合いを認められた。
実を言えば、若葉の両親もここのところの達也の頑張りを見ていたのだ。
このぶんなら若葉を妻合せても問題ないだろうと踏んだのである。
というか!
もともと、両親は達也のことを実の息子のように思っていて、若葉と結婚して義理の息子になるのを待望していたのだ。
けれど、ど~も、若葉と達也は嫌い合っては無いようだけど、好き合っても無いようだと、隠密からの報告でガッカリしていた。
それが蓋を開けてみれば相思相愛。
なんだよ、はやく言ってくれよ!
若葉パパの心の声である。
この達也の御乱心事件から3日後。
なんと若葉が芸能界の引退を発表をした。
まさに電撃的ニュース!
お付き合いする男性ができたからにはアイドルを辞めなければならない。
そんな潔い考えからだった。
達也のことは当然ながら『一般人男性』と伏せられたけど、大大大ニュースになって駅前では号外が配られるほどだった。
そんで若葉は今、どーしているかと言えば。
「はい、達也さん。あ~ん」
持参した手弁当を達也に「あ~ん」させていた。
「よせよ、みんなが見てるじゃないか」
と言いつつも、達也は「あ~ん」をしちゃうのだ。
これには翔子も純菜も「うへぇ」とあてられてしまっていた。
いちばんの見せ場を目を回して見逃した上に、これである。
今回は翔子も純菜も損ばかりだった。
凛はといえば。
イチャイチャは正彦とむつみで見慣れているので、どこ吹く風だ。
夏休みの宿題を7月中に片付けるつもりでタックとチックに「ちゅーちゅー」と励まされながら頑張っていた。
あ、そうそう。忘れちゃいけない、四菱の御曹司。
なんと! 仲居さんのお腹には御曹司の赤ちゃんが宿っていたのだ。
これには御曹司の両親も折れないわけにはいかなかった。
まぁ、リンの歌をきいたときから認めてたんだけどね。
出産はお正月当たりとのことで、御曹司の両親は『ジジ』と『ババ』になるのを心待ちにしているのだった。
何時も通り、締めは駆け足になっちゃいました。
これにて、達也と若葉篇はお終い。
次はどうしよっかな~。




