81:若葉のお見合いを達也が知っちゃった日
恋バナなんて興味ないんじゃ!
で読み飛ばした読者さま向けの前回のあらすじ。
達也と若葉が、なんやかんやでデートの約束。
けど、若葉にお見合いのお話が!
てな感じだよ。
そわそわ、そわそわ。
達也は落ち着かなかった。
事務所の黒電話のまえを行ったり来たりと落ち着かない。
もちろん、若葉からの連絡を待っているのだ。
神宮寺達也、当年取って20歳。
実は……デートが初めてだったりするのだ!
そりゃー、若葉とお出かけぐらいしたことはあるけど。
その時は全然まったく意識してなかったからね。
うろうろ、うろうろ。
黒電話の前を行ったり来たり。
「あ~、もう!」
見兼ねて翔子が言った。
「いったい、どうしたっていうんですか?」
そんな翔子の横では凛が「う~ん」と悩みながら算数ドリルをやっていて。
テーブルを挟んだ前に座っている純菜はニンマリと凛のことを頬杖ついて眺めていた。
この3人。
格安で達也に家庭教師をお願いしているのだった。
いいや、実際のところ家庭教師をしてもらっているのは凛と翔子だけ。
純菜は、ただ単に凛がいるから来ているだけだたりする。
ほんで。
落ち着きのない達也に、遂に翔子が切れたのだった。
「いや~、ごめんごめん」
謝って達也は席に着くけども、ちらちらと黒電話のほうを見て、これまた翔子たちの気を散らした。
「おっきな仕事の電話でもあるんですか?」
仕事、と聞いて凛が顔を上げる。
「仕事じゃなくて」
達也はチラリと純菜を見た。
「なんですか?」
ぶっきらぼうに純菜が言う。
今更の説明ですが、純菜さん。
達也のことが好きではありません。
それというのも、達也のことを女性をとっかえひっかえの遊び人だと思っているのだ。
もっとも。
近頃では『あれ? この人って噂と違くない?』と思うようになっていた。
「いや~」
デヘヘ、と達也が脂下がる。
「キモ!」
反射的に純菜が言ってしまって
「ひど!」
ヘチョンと達也の眉が下がった。
「で? 仕事じゃないんだったら、なにをそんなに電話を気にしてるんですか?」
改めて翔子が訊いて、達也は「どうしよっかな~、言っちゃおっかな~」と散々に凛と翔子と純菜を苛々させた挙句に、言ったのだ。
「若葉とデートの約束をしてね。時間の都合がついたら、若葉から連絡が来ることになってるのさ」
「やったじゃないですか! 前からお似合いだと思ってたんですよね!」
「よかったね、達也さん」
翔子と凛は祝福したけど
「んん?」
純菜はむずかし顔をした。
「それって何時の話ですか?」
「3日前のことだよ」
「ははぁ、それでですか」
得心がいって、純菜はむずかしい顔を解くと
「達也さんさ、お姉さまからの連絡はたぶん無いと思いますよ」
言ったのだ。
「え? どーいうこと?」
あせあせと達也が尋ねる。
「お姉さまね、お見合いすることになりましたの」
「ええ?!」
と驚いたのは達也だけじゃない。
凛も翔子も驚いた。
「若葉ちゃん、結婚しちゃうの?」
2人にとっての若葉は、岬若葉ではなしに、姫宮若葉なのだ。
「たぶんですけど、そうなるでしょうね。でも、内緒ですよ」
純菜に言われて、首を大きく縦に振る凛と翔子である。
一方で達也は愕然としていた。
「お見合いの話があったのは深夜だって聞いたから、達也さんと約束したのは、お見合いを知らなかった時の話なんでしょうね」
「相手は誰なの?」
放心している達也には悪いと思いながら、そこは女の子、翔子がゴシップの誘惑には勝てずに訊く。
「四菱の若社長って聞きましたわ」
「へ~、若葉ちゃんと四菱か」
「そこはMISAKIグループと四菱と受け取って欲しいところですわね」
「何時? 何時、お見合いするの?」
「え~と……たしか今日ですわ」
な~んて話をしている2人に、凛が
「ねぇ、ねぇ。お見合いってさ、好き同士じゃない人が結婚することだよね?」
訊いた。
「そんな感じでいいんじゃない」
適当に答える翔子だ。
いやいや、お見合いって =(イコール) 結婚、じゃないですから!
面倒になった翔子の返答だったけど、これがこと若葉になるとその通りなのだから、あながち間違ってもないのである。
「そっか~」
凛は腕組をしながら考えて
「でもさ、達也さんとデートする積もりがあったんでしょ? なら、若葉ちゃんは達也さんのことが好きなんだよね」
鋭いことを言う凛である。
「そう……なのかなぁ」
翔子は首を傾げて、純菜がジッと考え込む。
そんな2人と、「四菱…」と呟いている達也に向かって凛は言ったのだ。
「だったらさ。若葉ちゃんは達也さんと結婚したほうが良いんじゃない?」
はい、出ました。
凛くんのぶっ飛び発言!
でも、凛としても考えた末の発言だった。
正彦とむつみは仲がいい。
それは、お互いに好き合ってるからだというのは、両親から聞かされている。
だから、結婚は好き合ってないと駄目だと思っていて。
なら、好き同士でもないのに結婚するのは間違ってる。
そう考えた末の発言だった。
あれ?
やっぱ、ちゃんとは考えてなくね?
「ねぇ、達也さん」
凛は心ここにあらずの達也の肩を揺すった。
え? と達也の瞳が凛をとらえる。
「卒業だよ、卒業! 映画のやつ!」
卒業とは1967年のアメリカ映画のことです。知ってる人は知ってると思いますが、端的に言って略奪婚の映画なのだ! 花嫁さんを主人公が連れ去ってしまうという、とんでもな映画なのだ。現代だと、内容的に批判を免れない作品である。
それを凛はテレビで見たばかりだった。
もちろん、名作だから達也だって知っている。
「卒業か…」
「ちょ、ちょっと達也さん…?」
嫌な予感に純菜が言うけど
「行こう!」
達也は決然と立ち上がったのだ。
もちろん、達也だって社会人だ。卒業みたいな真似をするつもりはない。というか、あんなことをしたらMISAKIグループと四菱に睨まれて、生きていけなくなるのは必至だ。
それでも。
それでも、若葉の気持ちを確かめたくなったのだ。
確かめたからと言って、どうなるわけでもない。
それでも、である。
「おもしろそう!」
と無責任に食いついたのは翔子だ。
マンガのネタになると思ったのだ。
「行こう! 行こう!」
これもまた無責任に煽る凛である。
そして純菜はといえば。
「仕方ありませんわね」
もしもの場合には、せめて翔子と凛だけでも守らねばと悲壮な覚悟を固めていたのである。
こうして4人は、若葉のお見合いの席にカチコミをかけることと相成ったのだ!




