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08:超お金持ちの純菜に構われた日

書きました。

でも、デパートにまで行けませんでした。

なので、続けて投稿しちゃいます。

「また明日!」


凛は学校が終わるなり、ダッシュでクラスを後にした。


校庭でドッジしようぜ、とか、家に集まってゲームしようぜ、という誘いは断ってある。

なにせ、凛はアイドルのオーディション会場に行かねばならないのだ。


パーカーのフードでは


「急げ急げ!」


タックが風を切る走りに興奮して


「きゃ~!」


チックがジェットコースター感覚で騒いでいる。


家に到着! 自転車に乗ろうとして


「なかったんだ!」


昨日に続いて思い出す。


何べんでも言おう。凛はちょび~と抜けているのだ。


デパートは2駅向こうだ。歩きだと20分はかかる。新興住宅地なだけに、駅と駅との距離がほどよく開いているのだ。


「しかたない」


凛は翔子に自転車を借りることにした。


ピンポーン、と隣家の玄関チャイムを押す。


「はーい」


と返事があって、玄関ドアが開けられた。


「あら、凛くん」


出てきたのは翔子の母親だった。

凛が言うところの『翔姉えのオバサン』だ。翔子の母親なのだから、正確には翔姉えのお母さんが正しいのだろうが、どういうわけかオバサンで固定されていた。父親は、言うまでもなく翔姉えのオジサン、だ。


翔姉えのオバサンが、ニコヤカに微笑みかけてくる。

なのに、凛はちょっと怯んでしまった。病室でのことを思いだしてしまったのだ。


今まで親しくしていたのだけど、ちょっと苦手意識が生まれてしまったようだった。


「こんにちは、翔姉え居ますか?」


気を取り直して訊く。


「ええ、いるわよ。呼んでくるわね」


パタパタとスリッパを鳴らして、翔姉えのオバサンは奥へ引っ込んだ。


翔子! 凛くんよ! なんて声が聞こえてくる。


待つほどもなく、翔子は遣って来た。

けれど、もう1人。おまけがいた。


「凛く~ん!」


と翔子を追い越して、速足で迫ったのは眼鏡をかけた翔子と同い年くらいの女子だ。


「久しぶりぃ!」


逃げようとしたものの、背中を向けた姿勢のままに凛は眼鏡女子に抱きしめられてしまった。


みさき純菜じゅんな、12歳。翔子の親友だ。


純菜は凛を猫可愛がりするのだ。異性としてではない。文字通り、ペットの如く可愛がるのだ。


果たして凛は、抱き着かれて頬ずりをされた。


「寂しかったよ~」


「や~め~ろ~」


突き放そうとするのだけど、背中越しだからどうにもならない。


凛は男の子だ。可愛いがられて喜んだりしないのだ。


「純菜さんや、それぐらいにしといて上げてくださいな」


そう翔子があいだに入ってくれて、ようやくに凛は解放された。


玄関ドアに背中をペッタリと貼り付けて、純菜と距離を取りながら


「翔姉え、自転車貸して」


と凛は切り出した。


「あら? どっか行くの?」


「うん、デパートに行くんだ」


「もしかして、オーディション見に行くんですか?」


純菜が訊いてくる。


凛は警戒しながら「そう」とうなずいた。


「奇遇ですね」純菜が嬉し気に手を打ち合わせる。

「わたし達も、ちょうどその話しをしていたんですよ」


「そ、純菜ンとこで面白い催しものをしてるっていうからさ。見に行こうか、て話してたとこだったの」


純菜の家は大金持ちだ。デパートを全国に展開しているだけじゃない。他にも建設や運輸、食品など、手広く経営している。岬グループ、または岬財閥とか言われる、そんな一族の直系にあたるのが純菜なのだ。いってしまえばご令嬢である。


「善は急げと言いますし」


純菜はパンパンと手を打ち鳴らした。


コンコン、と玄関ドアが外側からノックされる。


凛はビックリして飛び退いてしまった。

そこを再び純菜にガッチリホールドされてしまう。


「お呼びでしょうか、お嬢様」


ドアの向こう側から声がする。


「車を回してくださいな。デパートにオーデイションを見に行きます」


「承りました。ただちに手配いたします」


気配が走り去る音がする。


はぁ、と翔子が息を吐いた。


「前から訊きたかったんだけど、忍者なの?」


「う~ん? 家では隠密と呼んでますけど。ボディーガードのようなものですわ」


そう答えた純菜が「きゃ」と飛び退いた。


タックとチックがフードからもそもそと顔を出したのだ。


チックは「きゅーきゅー」と騒いでいる。

凛には分かった。お嬢様みたいな喋り方をするチックは、正真正銘のご令嬢である純菜に会えて興奮しているのだろう。


だから、タックがヒマワリの種10個分の腹減りパワーを使ったようだった。

前から2匹のハムスターのことを知っていたと暗示をかけるに違いない。そうしないと翔子は知っているのに、親友の純菜は知らないという、齟齬そごができてしまうからね。


タックと純菜は束の間、見詰めあって


「タックさんとチックさんをフードに入れてますのね」


純菜はおずおずと2歩ほど凛から離れた。


「そんな怖がらなくたって、ハムスターよ?」


「怖いというか、なんだか潰してしまいそうで…。大きな動物は平気なんですけど…」


翔子と純菜との遣り取りで、凛はピンときた。


バリアーだ! チックとタックがいれば、もう純菜にハグされることがない。

そうと分かって、凛はニッコニコだ。


コンコン、と玄関ドアが再度ノックされた。


「お嬢様、お車をご用意いたしました」


速い、と凛は思う。

カップ麺を待つよりも、てんで早い。


そう思ったのは翔子も同じだったみたいだ。


「カップ麺よりも早いじゃない」


純菜は肩を竦めた。

もしかしたら、カップ麺というのがいまいち共感できなかったのかもしれない。なんせ令嬢なのだ。そして凛と翔子は庶民なのだ。


「ママ! ちょっとデパートに行ってきまーす」


「お昼はどうするの?」


オバサンが顔を出して尋ねる。


「デパートでハンバーガー食べてくる。お小遣いもあるし」


「あらま、豪勢だこと」


「そういうことなんで、行ってきまーす!」


「夕飯までには帰って来るのよ」


と送り出されて、3人は外に出た。


家の前には、車が回してあった。

外国映画でよくみる、お金持ちの車。真っ黒なダックスフンドみたいに長いヤツ。

……じゃない。

普通の一般的な車だ。


とはいえ、当然だけど運転手さん付きだ。


「どうぞ」


運転手さんが恭しくドアを開けてくれる。


凛は緊張しながら、純菜は悠然と、翔子はギクシャクしながら、順番に後部座席に乗り込んだ。


バタンと運転手さんがドアを閉める。

次いで運転手さんは運転席に入ると


「何処に行かれますか?」


「デパートでお願いしますわ」


「はい」


車を出発させた。


ところで。凛は車のなかで隣の純菜に構われまくった。

チックとタックというバリアーが機能しなかったのだ。


何故なら。2匹のバリアーを翔子が取り上げて、愛でてしまったからだ。


おかげで


「や~め~ろ~」


凛は逃げ場のない密室で、散々な目にあったのだった。

次回は完全完璧にデパートに到着!

そしてT(天使に)スイッチ


因みに。シートベルトは着けてません。

バブルぐらいの頃は、シートベルトを締めてなくてもよかったみたいです。

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