77:3本の矢の日
「自信なんて、ぜんぜんないよ」
謙遜なんかじゃなく、ほんとうに自信がなかった。
魔法の力があるとはいえ、今のリンでは、美也子みたいに歌と踊りの両立をこなすことは出来なかったし、静香みたいに相手を唸らせるパントマイムが演じられるはずもなかった。
歌はともかく、踊りをするにはリンに体力が足らなかったし。
パントマイムは、それこそ試行錯誤と地道な努力の積み重ねがあってこそなのだから。
とはいえ、リンに悲壮感はない。
どーせ、タックとチックがどうにかしてくれると高をくくっているのか?
そうじゃない。
考えがあるのだ。
社会の授業で先生が言っていた『1本の矢は簡単に折れてしまうけど、3本束ねた矢は簡単に折れはしない』それを思い出したのだ。
なるほどなぁ、と思ったものだ。
ということで。
動揺もありありと青い顔をしている静香と美也子に、リンは提案した。
「だからさ、1人で駄目なら、3人で協力したらいいじゃない」
え? と2人が戸惑ったような顔をする。
「いいのかしら?」
と言ったのは真面目な静香だ。
ルール違反にならないのか恐れているのだろう。
一方で。
「いいに決まってるわ。だって、いけないなんて言われなかったもの」
ニンマリと笑ったのは美也子だ。
彼女はこういった卑怯……いいや、搦め手を突くのが大好きなのだ。
リンはサッカー・チームでしてるみたいに手をだした。
「手を重ねて」
リンに言われて、静香が
「がんばりましょう!」
美也子が
「今だけは共同戦線をはってあげるわ」
手を重ねた。
「がんばろう!」
リンが号令して『応!』3人は手を放した。
「で、具体的に3人でどーするの?」
「う~ん」美也子の問いにリンは
「どうしよっか?」
「あんたねぇ…」
呆れてしまう美也子だ。
「3人でできることですか…。やっぱり歌ですかね?」
「じゃあ、決まりね。さっき、わたしが演ってみせたやつ。あれで行きましょ」
「ミャーちゃん、ボク等が出来ないと分かってて言ってるでしょ」
「あら、出来ないの? 出来ないんじゃ、仕方ないかぁ」
リンよりも上だという言質を取って、すっかりご機嫌の美也子である。
彼女は自分のプライドを保つためなら時と場所なんて選ばないのだ。
「でしたら、姫宮若葉の歌はどうです?」
「若葉ちゃんのなら、ぜんぶボクも歌えるし踊れるよ」
静香の提案に、リンは言った。
姫宮若葉は国民的アイドルなのだ。彼女の新曲と振り付けは、テレビで放映されるなり、たいていの女の子が真似をする。
それは翔子も純菜も、むつみですら例外じゃなく。
当然、凛も付き合わされて、歌えるし、踊れるのだ。
もちろん、静香だって。
それに美也子だって。
「決まりね」
「曲は何にしよっか?」
「渚のココナッツはどうでしょう?」
渚のココナッツは、姫宮若葉がレコード大賞をとった曲だ。
振り付けもそれほど激しくないし、これなら美也子でも最後まで踊れるだろうという静香の配慮だ。
その配慮は美也子も分かった。
「なまいき」
と毒づきながらも、否やを口にしない。
最後のチャンスなのだ。
「決まりだね!」
リンが言ったときだ。
「話し合いは終わったようね」
船長が呼んだ。
「練習する時間はないみたいね」
「いっぱつ本番ですか…」
美也子と静香は言いながらも、顔は既に『プロ』だ。
不安はない。
そしてリンはといえば。
「いっちょ、やったりますか!」
うし! とガッツポーズをして気合いを入れるのだった。
センターはリンだ。
その両脇に静香と美也子。
リンが主旋律を担当して、両脇の2人は要所要所でのコーラス。
踊りはリンは無し。歌に集中して欲しいからだ。
なので、歌の代わりに静香と美也子は振り付けで頑張る。
これが、短時間で話し合って決めたことだった。
この位置取りに美也子はちょっと眉をしかめたけど、文句を言ったりはしなかった。
体力が限界だとわきまえているのだ。
「ヘイ!」
リンはマイクを取り出した。
ジャカジャン♪ と骨骨たちが演奏を始める。
リンは歌った。
「ほぉ」
船長がうなる。
魔法の力が上乗せされているとはいえ、それでもリンの歌声は見事なものだった。
リンだって、伊達にアイドル活動をしていたわけじゃないのだ。
確実に地力を身に着けていた。
静香と美也子の踊りも、まるで鏡に映したみたいにシンクロしていた。
ニッと船長の口角が上がる。
『おもしろい子だ』
3人で前に出てきたときに船長は訊いたのだ。
これは誰の発案だ? と。
リンが手を挙げた。
もちろん、船長は咎めるようなことをしなかった。
協力することを待っていたのだから。
そして、その案を出したのが他ならぬリンだというのが好かった。
魔法の力を授かった子は、たいていが力におぼれて、他人を頼らなくなってしまう。
独りよがりになってしまうのだ。
もっと悪いと、自分は選ばれた人間だと思い込んで、他人を見下すようにさえなってしまう。
対して、凛はちっともそういうことが無いようだった。
『これは合格ね』
そう思ったときだ。
お調子にのったリンが歌いながら、骨骨たちに魔法をかけた。
10人の骨骨たちが骨じゃなくなたった。
肉と皮をまとって、ありし頃の姿に戻ったのだ。
え! と驚いたのは静香と美也子、当の骨骨たちだ。
それでもリンは気にした風もなく歌っている。
骨骨たちは互いに顔を見合わせると、笑顔になって、より演奏に力が入った。
『なんと、まぁ』
骨骨たち部下の奏でる音楽は知り尽くしているつもりだった。
それが、こんなにも嬉し気に楽器を弾くことができたとは。
歌が終わる。
踊りが終わる。
曲が終わる。
パチパチと船長は拍手をした。
「合格よ、素晴らしかったわ!」
その言葉に、リンと静香と美也子は
「「「 ヤッターー! 」」」
思わず抱き合って跳びはねた。
パチン、と船長が指を鳴らす。
すると骨骨たちは元通りの骨に。
そして、3つの光が3人娘たちに飛んだ。
静香の髪に留まった光が、沖縄の海に勝るとも劣らない青色をしたイルカのバレッタになる。
美也子の手首に留まった光が、珊瑚のように赤いブレスレットに。
リンのマイクに留まった光が、マイクをステッキに変化させて、ステッキをバージョンアップさせた。具体的には、小さな羽が生えた。
「褒美よ」
言って、船長は
「さぁ、今度はアタシ自らが送るわ」
空に飛び上がって、巨大な龍へと変身した。
それを見ていたタックとチックは
「やることが派手だねぇ」
「まったくですわね」
呆れてから、船長のほんとうの名前を口にしたのだ。
「「 ま、リバイアサンだから仕方ないか(ですわね) 」」
バレッタとブレスレットと、そして変化したステッキ。
そう! スポンサーから「この玩具を売れ!」という指示があったのです!
などという戯言は置いておいて。
船長の正体はリバイアサンでした。
で。明日でCM撮影篇はお終いになると思います。
しかも、閉めるだけなので文章も短くなりそうです。
よろしくお願いします。




