73:10人の骨骨たちとリンの日
起きろ、起きろ。
起きなさい、起きなさい。
左右の耳元でわめかれて「う~ん」とリンは目を覚ました。
「おはよ~」
上半身を起こして、何時ものように挨拶をしてから「んん?」と首をひねる。
自分の部屋じゃないのだ。
天蓋つきの豪華なベッドにリンは寝ていた。
「何処、ここ?」
と疑問を呈しつつも、リンはのんびり~と周囲を見回した。
半ば寝ぼけてるのだ。
「「 ここは幽霊船だ(ですわ) 」」
対してリンの答えであるが
「ゆーれーせん、て何?」
凛は心霊系が大の苦手。なので、とーぜん幽霊船なんて知らないのだ。
タックとチックが顔を見合わせた。
アイコンタクト。
幽霊船が船のお化けだなんて知ったら…。
『大騒ぎになるな』
『ですわね』
この間、1秒である。
2匹は話題を変えることにした。
「まぁ、この船のことは置いておこう」
「それより、他の2人を探して、脱出しましょう」
「他の2人?」
「伊佐静香と藤堂美也子だよ」
「あーたと一緒に攫われたんですのよ」
「そりゃ大変だ!」
リンはベッドから跳ねるようにして下りた。
反動で、タックとチックが波に翻弄されるみたいにベッドでコテコテンと転がったのを、リンは掬い上げて、金髪の頭にのせた。
「助けに行こう!」
気分は勇者であった。
捕らわれのお姫様を救出するのだ!
というか!
リンもお姫様の1人なのだという自覚は無しだ。むしろ他の2人よりもお姫様っぽいのに!
だから、こそこそ隠れてなんてことはしない。
ババン! とドアを盛大に開けた。
幸いにも見張りは居なかったし、音を聞きつけて来るような骨骨もいなかった。
肝を冷やしたのは、タックとチックである。
「おいおい、もうちっと静かにいこうぜ」
「見つかったら、どーするつもりですの」
ふふん、とリンは鼻で笑った。
「見つかったら?」
アチョー、とカンフーの構えだ。
「とっちめる!」
根拠のない自信に、タックとチックは「はぁ」と溜め息をついた。
「どーする?」
「言って、聞くような子じゃありませんしね」
「危なくなったら、助けてやっか」
「しかたありませんわね」
ボソボソと小声でしゃべる2匹である。
今の姿こそちびっちゃいハムスターだけど、タックとチックはドリームワールドでも屈指の実力者なのだ。
骨骨の相手なんて余裕なのだ。
それに。2匹はリンたち3人を攫った相手の正体をなんとなくだけど察してもいた。
リンはノッシノッシと通路を進んだ。
「船長のワガママにも困ったもんだよな」
「人間の女の子を3人も連れて来いとかさ」
「まるっきり、、悪者みたいだよね、俺ら」
「いやいや、ハッキリと悪者だから、海賊だから」
「そーいや、そうだった」
あはははははは。
なーんて和やかな笑い声が聞こえてきて、リンは躊躇なくドアを開けて乗り込んだ。
海賊の衣装を身に着けた10人近くの骨骨がいた。
笑い声がピタリと止まって、視線がリンに集まる。
「あちょ~」
リンは構えを取った。
ちなみに真似っこしてるのはブルー3のほうじゃなくて、ジャッキー鎖のほうだ。リンはジャッキーしか知らない世代なのだ。
1拍、2拍。
なんともいえない時間が過ぎて…。
「「「「「 ぎゃあああああ! 」」」」」
「「「「「 人間だああああ! 」」」」」
骨骨たちが顎をガクンと落として絶叫した。
その場で頭を抱えてうずくまる骨骨、抱き合ってブルブル震える骨骨、さまざまな骨骨がいるけど、どの骨骨もリンに怯えていた。
ここまで恐れをなされてしまうと、リンとしても申し訳ないというか気の毒というか複雑な心境になってしまった。
「ごめんね、痛いことなんてしないから」
構えを解いて言った。
「ほんとうに痛いことしないのか?」
骨骨の1人が勇気を振り絞って確認をしてきたので
「絶対にしないよ」
リンは胸のまえで手の平をグッパと閉じて開いてみせた。
ちなみに、この行動に意味はない。
「だったら安心だな」
「だな~」
と骨骨たちに元通りの和やかな雰囲気が戻る。
というか?
リンは骨骨…ガイコツを見てどうして平静でいられるのか?
実はリン。
骨骨が仮装をして覆面をかぶっていると思い込んでいるのだ。
知らぬが仏、である。
骨が相手だけに。
……うまいこと言った!
さて。
リンは骨骨たちにおもてなしをされた。
お菓子とジュースを出されたのだ
お腹が空いていたリンは、ありがたくいただいた。
タックとチックもメロンをもらっている。しかも、網のついたお高いほうのメロンだ。
『あのさ、俺さ、気づいたんだけどさ。あのハムスター、凄い気配してないか?』
『あ、やっぱ? そう思う? ご機嫌とっておいたほうが良いかな』
ということで、お高いメロンが供されたのである。
「おいしいね~これ」
手作りのお菓子を褒められて、骨骨たちもご満悦だ。
すっかり嬉しくなってしまった骨骨たちは海での冒険譚を話して聞かせた。
何度も言うけど、凛は聞き上手である。
しかも、骨骨たちにとって、リンは数百年ぶりのお客様だった。
※拉致したなんてことはスッカリ忘れてます。
骨骨Aがお話を聞かせれば、次は俺だと骨骨Bがおしゃべりをして、その途中で待っていられなくなった骨骨Cが割り込んだりと、あっという間にリンと骨骨たちは仲良くなった。
そんな時だ。
「「 きゃああああああ! 」」
女の子2人の悲鳴が聞こえた。
静香っちとミャーちゃん?
「そうだった!」
ガタリと椅子からリンは立ち上がった。
「2人を助けに来たんだった!」
そうだった! タックとチックも汁でベトベトになった顔を『ハッ!』として上げたのだった。




