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72:奇妙な3角関係な日

読者さんが、ちょっとずつ増えてて嬉しいです!

「リン、にっこりにっこり、スマイルスマイル」


下唇をこれ見よがしに突き出しているリンを、達也が焦りながら取り成すけども


「ふん」


とソッポを向いてしまうリンだ。


社会人の読者さまは『仕事なんだからワガママ言うなよ』と思うことだろう。

でもね、凛は10歳なのだ。学校に勉強に仕事にサッカーに、学級委員みたいなチックのお小言に、翔子が中学生になってめっきり顔を合わせる機会が減ったストレス。そういった諸々(もろもろ)が、水着が切っ掛けとなって噴きでてしまった感じだった。


むしろ、こうまでぶんむくれながらも素直に水着だけは着ていることを褒めて欲しい。


ん? 読者さまの声が聞こえる。


CM撮影が水着だってことは凛だって事前に知ってたはずだし、無理があるんじゃない?


ははぁ、流石は『TSリン』なんていう下流にさまよう小説を発掘してくださった読者さま。


鋭い!


………そのさ。覚悟はしていたものの、いざとなったら『嫌だな~』と思うことってない? ほら、学生の時のマラソン大会とか。


そんな感じ……じゃ、駄目?


「どうしたの、リンさん?」


静香が訊く。

着替えている時もリンの様子が気にはなっていたのだけど、初めてのCM撮影で緊張していたし、美也子が恐い顔で見てくるし、それに! 久しぶりに会ったせいなのか、それとも快晴のビーチというシチュエーションのせいなのか、リンが抱きしめたくなるほどにキュートに見えてしまったので、つい声をかけそびれてしまったのだ。


ぶんむくれながらも、チラリとリンが静香に目を向ける。


向けられて、静香は同性のリンにキュンとしてしまった。

天使みたいな笑顔のリンさんも可愛いけど、不機嫌な顔もそれはそれで可愛い。な~んて思ってしまったのだ。


ご家庭で兄が2人な静香。常々『弟か妹がいたらな~』と思っていたのだ。


リンは凛なので、妹でありながら弟にもなる。

書いていて訳が分からなくなりそうだけども、ともかく、静香がリンに更なる好意をもった瞬間であった。


「水着、着たくない」


オレ、原始人。

そんな感じの発音と区切りで、リンが言う。


「デザインが気にいらないんですか?」


ふるふるとリンは金髪の頭を振る。


「水着がイヤ」


静香は困ってしまった。


水着での撮影なのだから、水着を着ないわけにはいかない。

1+1=2と同じ理屈だ。


だから静香は


「でも、可愛いですよ?」


何が『でも』なのかは謎だけど、そう言ってご機嫌を取ろうとした。


「そうそう、可愛いよ。似合ってるって」


続いて達也が言う。


けど、それは不正解なのだ。


リンは中身が男の子なので『可愛い』なんて言われたところで、ちっとも嬉しくないのである。


さて、ここで視点を美也子に移そう。


彼女はたいへん満足していた。


いつもいつも能天気にヘラヘラ笑っている天使ちゃんが、へそを曲げているのだ。


『チャ~~~ンス!』である。


実は美也子さん。写真集で意趣返ししたとはいえ、オーディション以来、リンに軽い苦手意識をもっているのだ。今回のCM撮影もリンに美味しいところを奪われるのではと、ビクビクしていたのだ。


しかし、それも杞憂に終わった。


ヘラヘラしてない天使ちゃんなんて、敵じゃないのだ。

CMの主役は『わたし!』なのだ。

ちなみに静香は視界にすら入ってないのである。


ふふん、と美也子は余裕の笑みを浮かべてリンに言った。

余計なことを言ってしまった。


「わたしも、カッコイイと思いますよ」


褒めたんじゃない。

美也子にとって、女の子への『カッコイイ』は褒め言葉じゃないのだ。それどころか、女の子は『かわいいことこそが全て』だと思っている美也子にとっては、嫌味をこめての最高最悪のケナシ言葉だった。


ところがどっこいしょ!


リンの中身は男の子。


「え、そうかな?」


美也子の言葉こそが、リンにとっての大正解だったのだ。


「ええ、とってもカッコイイですよ」


美也子は気付かない。


「そっかな~」


ニヘヘ、と単純なリンはすっかりご機嫌になって、照れてしまった。


「え?」


と思った美也子さん。


もう遅い。


「そっか~、カッコイイか~」


天使ちゃんはすっかりニコニコ笑顔になってしまっていたのである。


「ありがとう、助かったよ」


達也が言って


「藤堂さんって、実は好い人だったんですね」


ついつい静香が本音を漏らしてしまっているけど


「ふん!」


美也子はソッポを向いて歩き去った。


「照れ屋なだな~」


「そうですね」


達也と静香は、すっかり勘違いしているし


「ミャーちゃんか…」


リンは既に渾名あだなを付けて友達になる気が満々であった。






撮影がはじまった。

とはいっても、何をどうしろこうしろという指示があるわけじゃない。


夏の日差しの下。

無邪気にはしゃぐ3人の女の子。


それを撮るだけなのだ。


『まぁ、女3人寄れば姦しいというし。しばらくしたら、和気あいあいとしてくれるだろう。増してMISAKIグループ主催のオーディションを受けた、いわば同窓なのだから』


楽観していたのだ。


藤堂美也子は愛想がいいと評判だったし。(男性に、という注釈がつきます)

伊佐静香は物静かだけど場の空気を読んで雰囲気にとけ込めると言われていたし。

リンは、いつもニコニコしている。


この3人なのだ。

自然と仲良くなってくれるだろうと期待していた。


のだけど。


「う~ん」


撮影から2時間が過ぎた頃、さすがに監督が困り顔で唸った。


ちっとも3人が仲良くなってくれないのだ。


藤堂美也子は、波打ち際で寄せる波とたわむれて『ケーキみたいに甘やか』という評判に恥じない行動をしていた。


でも、それは監督の求めるものではない。


監督は『波』じゃなくて『3人』でたわむれる様子を欲しているのだ。


そんな美也子に仔犬のようにまとわりつくのはリンだ。


このリンの行動は監督としては二重丸どころか花丸である。


けど、美也子はリンを徹底的に無視していた。

リンが寄ってくれば、離れ。

リンが話しかけても、知らんぷりなのだ。


これには監督もスタッフも「おいおい」と呆れてしまう。


美也子のリンに対する態度は絶望的だ。


となれば、場の空気を読める静香に取り成しを期待したのだけど。


静香はといえば、リンと美也子を離れた場所から見ているだけだった。


嫉妬していたのである。

静香は、リンを美也子に取られてしまったと焼き餅をやいていたのだ。


う~ん、愛が重い!


しかも、だ。リンの相手をしたくない美也子は、わざわざ静香に話しかけて、話しかけられた静香は、ムッツリと押し黙る。


ここに奇妙な三角関係が完成されたのだ!


「これは埒があかん」


自然と仲良くなってもらって、女の子たちの自然な笑顔を撮影したい。

そう思っていた監督だったが、仕方なしに指示を出すことにした。


「おーい!」


と3人娘を呼び寄せようとした時だ。


俄かに空が掻き曇った。


「スコールか!?」


「撤収、撤収!」


機材が濡れたら大変だ。スタッフが雨除けの準備を始める。


ザー、と目の前も見えないほどの大雨が降りだした。


だから誰も気づかなかった。


海の向こうから大きな海賊船が波を滑るように迫っていたのを。

そうして、空を跳んでビーチに降りた海賊の衣装をみにつけた骨骨な連中が、3人の女の子を担ぎ上げて、さっさと海賊船に戻ったのを。


誰も気づかなかった。

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