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71/128

71:3人が水着に着替えた日

なんか。

改めての自己紹介みたいになっちゃった。

まずは仮設された更衣室で水着に着替える。

スリートリーほどの大手がスポンサーだとお金がドバドバ使えるので、ビーチにプレハブめいた更衣室がつくられていたのだ。

しかも、シャワーつきである。


これだけの物を設置するとなると、うん百万かかることか…。


う~ん、バブル!


ドアが開けられた。


ビキニ姿の美也子が出てくる。


「お~」


なんて男性スタッフが感嘆して、反対に『ちっ』と女性スタッフが聞こえないように舌打ちをする。美也子はといえば男の視線に気づかないふりをしつつ如何にも恥ずかし気に振る舞って、内心では『ふふん』とご満悦である。


なんせ見せるために、スタイルに気を使っているのだ。

修行僧めいた徹底した食事制限とアスリートも真っ青な運動の両立を日々こなして、しかも高校生なので勉強をしつつ、アイドルとしてのスキルアップのためにレッスンを受けて、こうして仕事もしている。


美也子は努力家なのだ。

ある意味、ドMなのだ。


けど。


どうよ? あんたらとは違うのよ!


な~んて女性スタッフを鼻で笑う気配が滲んでいて、それを同性たる女性は敏感に察知した。


これが女性に嫌われる原因だった。


美也子はちょ~と性格に難があるのだった。

男にびという訳じゃないのだけど…。


美也子についているマネージャーも悩みどころだった。


だって、注意したところで


「わたし、同性のファンなんてらないし」


で一蹴されてしまうのだ。


だいぶ前にも書いたけど、藤堂美也子は男にちやほやされたいがためにアイドルになったのである。


う~ん。

ここまで徹底すると、むしろ偉い!


続いてドアが開けられた。


出てきたのは、伊佐静香だ。


着ているのはワンピース。

白を基調としたデザインで、左の胸元にはワンポイントで空色のリボン。


スタイリストさんが選んだだけあって、大和なでしこ然として黒髪のつややかな静香に、よくよく似合っていた。

清楚といった感じだ。


ちなみに。

バブル当時は今ほど水着のバラエティがなかったみたい。ビキニ・タイプもワンピース・タイプもシンプルというか、野暮ったいデザインばかり。今はビキニだけでも、バンドゥやらモノキニやらタンクトップやらあって、女性にしたら選ぶ楽しみが増えたように思えます。


しッか~~~~し!


バブル当時には『ハイレグ』と『貝殻ビキニ』が生まれているのだ!


しかも! 調べたら貝殻ビキニを考案したのって、貝殻ビキニを着用したグラビアアイドル本人の武〇久美子さんなんだって!


……攻めるよね~。


静香に話を戻そう。


静香はちっとも攻めてなかった。


当たり前である。

基本、静香は選手名鑑を熟読することで心の平穏を得るような女の子なのだ。


男の人に見られるのは恥ずかしい。

でも、わたしはアイドルなのだから恥ずかしがってちゃイケない。


そんな葛藤がギクシャクとした動作になって、初々しさに女性スタッフは口元をほころばせた。同様に、男性スタッフも目尻を下げている。


男にも女にも気にいられている。


これには静香のマネージャーも満足……してなかった。


静香のマネージャーはキャリアウーマンみたいな外見の30歳手前の女性である。


実は彼女。オーディションで静香に入札したスカウトでもあった。


マネージャーは、あのオーディションの日。

静香に、日本を代表するような女優となる未来を見たのだ。


とはいえ、つい最近までの静香は見事なまでにマネージャーをガッカリさせてくれていた。

ヤル気がないわけじゃない。

かと言って、ヤル気があるわけでもない。

ただ、言われたことをこなしているだけ。

そんな感じだったのだ。


「なんで、あんなったんだ?」


同僚には馬鹿にされて、上司にはいびり込みで責められた。


だけど、それが変わった。


静香が俄然、アイドルとしての性根を固めたのだ。


積極的にレッスンを受けるようになって、寮母をしている往年の名優である悠木ゆうき千年ちとせに教えを受けてさえいた。


おかげで、演技力は抜群になっていた。

それこそ大根の藤堂美也子なんて及びもつかないほどに。

とマネージャーは思っている。


地道に舞台もこなして、界隈での評判も上々だ。

あわせて、マネージャーの失墜していた評価はうなぎのぼりだった。


もっとも。


静香本人はまだまだ自信がないようだった。


それがマネージャーは気に入らないのだ。


自信がないのを初々しいなんて言ってもらえていられるのは、デビューして1年もない。

はやいとこ堂々として欲しかった。


それこそ、藤堂美也子を見習ってほしいほどに。


……これを美也子のマネージャーが聞いたのなら、泣いたかもしれない。

代わってください!

そう懇願したかもしれない。


マネージャーの悩みは尽きないのだ。


そうして……業界でも、もっとも悩みまくっているであろうマネージャーがココに居た。


神宮寺達也である。


「おそい…」


リンが更衣室から出てくるのが遅いのだ。


美也子と静香が出てきてから5分は経っている。


「わたし、見てきます」


そう静香が言ったときだった


ガチャリ


とドアが開いた。


もちろんリンである。


リンは意外にもビキニだった。


『あの、肌が赤ちゃんみたいにモチモチで綺麗なのよねぇ』


とメイクさんとヘア・メイクさんに聞いたスタイリストさんが、それなら肌をおおきく晒したほうが好いわね、と選んだのだ。


時代はアナログ放送である。

テレビはブラウン管である。


肌を映したところで、綺麗なんてことは視聴者に届きやしない。


それでもビキニを選んだのは、スタイリストさんの我儘だった。


そうして。


我儘に付き合わされたリンはと言えば。


「おいおい…」


思わず達也がヘチョンと眉を下げてしまうほどに、ぶすくれていた。

完全無欠に不貞腐れていた。


リン…というか凛。

加納天全の一件いらい、ビキニタイプの水着が大ッ嫌いなのだ!

ある意味でトラウマになっていて、失敗した仕事を思い出してしまうのだ。


それでも水着を身に着けているのは、美也子と静香がいなくなった後で、タックとチックに説得されたからに他ならない。


「まいったなぁ」


達也は内心で頭を抱えた。


こうまで不満顔をしたリンを見るのは初めてだったりするのだ。


どうしよう…。


神宮寺達也19歳。

悩みが尽きないのであった。

時間がなかったので、リンだけ水着の説明が適当。

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