69:夏休みになって瞬間移動しちゃう日
サブタイトルが意味不明な件。
7月20日である。
「きりーつ!」
日直さんの凛は、帰りの会が終わると声をあげた。
みんながガタガタと椅子をひいて立ち上がる。
「気をつけ!」
と言ったのは女子のほうの日直さんだ。
「みなさん、さよおなら!」
凛が言えば
「さようなら!」
クラスのみんなも普段より大きな声で挨拶した。
「それではみなさん、よい夏休みを」
担任の先生がニコヤカに言う。
そうなのだ!
夏休みなのだ!
「帰ろうぜ、凛」
と誘ってきたサッカーチームの子は、両手にいっぱいの荷物を持ってる。
机のなかに詰め込んでいたのだろう、たくさんの教科書やノートをリコーダーのささった黒いランドセルに詰め込んで、両手にはお道具箱と絵具セットとお習字セットを重ねて、更には夏休みに観察するアサガオの鉢植えまで持って、頭にはこの暑いのに防災頭巾をかぶっている。
対して凛はほとんど手ぶらだ。ほとんど空っぽのランドセルに通知表が入っているだけだった。
1週間前から、ちょっとずつ持ち帰っていたのだ。
凛が1年生の時から翔子に口うるさく言われていた、その成果? である。
凛は大量の荷物を持つ友達に苦笑した。
「半分、持ったげるよ」
お道具箱と絵具セットとお習字セットの3段重ねを受け取る。
なかなか重い。
「いや~すまんね」
言いながら、お調子者の友達は、荷物をさらに同行する友達に持ってもらっている。
お得な性格である。
結局、連れは5人になった。
けれど、お調子者の家はこのなかで1番遠いのだ。最後には全ての荷物を自分で持つことになるのだけど、自業自得なのであった。
家に帰った凛は、通知表をリビングのテーブルに置いた。
帰ってきた正彦とむつみが直ぐにチェックできるようにだ。
え? 通知表の成績はどうかって?
中の上ってところかな? 両親にみせてもギリギリ恥ずかしくない感じ。
けど。
いろいろあって勉強する時間が減ってしまったので、すこ~しばかり成績は下がってる。
そこのところは先生からのお知らせにも書いてあって、もしかしたらむつみに軽く注意されるかも。
玄関の鍵をしめて、2階の自室にもどる。
ランドセルをベッドに投げ出したら、1階におりて、お風呂場へ直行だ。
汗を書いたからシャワー?
まさか。猫型ロボットとその主人に事あるごとにお風呂を覗かれる源さんとは違うのだ。
凛がお風呂場に来た理由。
それは、自分の部屋におおきな鏡がないからだった。
魔法の口紅を取り出して、お風呂場の鏡にドリームワールドの言葉で『クーシー』と書く。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
凛とタックにチックは
「「「 ぷ~くすくすくす 」」」
である。
懲りない連中である!
しかし!
クーシーとてお馬鹿さんじゃないのだ。
「やはりか!」鏡のなかでギラリと鋭い牙を剥きだした。
「妖精王に聞いたぞ! 我を虚仮にするとは、いい度胸だ!」
バレていた!
凛たちは顔を真っ青にした。
「ち、違うんだ、タックがやれって!」
「この裏切者が! おれじゃない、チックの奴がだな」
「ターーーック! あたくしじゃありませんわ、もともとは凛が!」
醜い争いである。
とてもじゃないけど見ていられない。
それはクーシーも同じだったのだろう。
「やめんか!」
一喝されて、凛と2匹は「はい!」と姿勢をただした。
「まずは言うべきことがあるだろう」
「「「 すみませんでした! 」」」
同時に直角90度に頭を下げる真のお馬鹿さん達である。
「今回は大目にみよう」
クーシーは広やかな心で許すと、うにょにょん、と凛に擬態して、鏡のなかから跳び出した。
代わって凛が「ヘイ!」目法の口紅をステッキにして
「ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!」
くるくるくるり~ん、の金色のシャワーを浴びて、繭を割ってリンにT〔天使に〕S〔スイッチ〕した。
本日の服装は。
ヘソ上丈のピンクのYシャツにホワイトデニムのローライズ・ショートパンツというセクシー系だ。オプションでサングラスとカンカン帽。靴はシンプルなスニーカーである。
リンはサングラスをクイッと持ち上げて
「80点」
高得点だ。動きやすいのが凛の琴線にマッチした。
セクシーとかそんなのは2の次なのだ。
「留守は任せておけ」
クーシーが頼もしく請け負って
「うん、頼んだよ」
リンとタックとチックは、いまだ『うにょうにょん』している鏡の世界に
「えい!」
と跳び込んだのだった。
鏡の世界から、ソッと覗く。
例によって例のごとく、トイレだった。
しかしリンとて学習する。女子トイレだ。
「誰も…居ないと思う」
きょろきょろして人の有無を確認したリンは、鏡の世界から跳び出した。
クルリンと空中で1回転して華麗に降り立つ。
「「 お~! 」」
パチパチと拍手するタックとチックだ。
以前、正彦の会社で撮っていたオーディションの裏側が映画化されたおかげで、リンの魔法のレベルがUPしていた。
その恩恵でもって、身体能力が大幅に向上したのだ。
今のリンなら、チャンバラだって余裕でこなせるだろう。
そして、授かった魔法がひとつ。
それこそが『鏡を通じて、世界中のどこでも瞬間移動できちゃう』術である。
すごい! すごいぞ、リン!
ご都合主義もココに極まった。
さて。リンの降り立ったのはトイレ……じゃなくて沖縄だった。
コマーシャルの撮影があるのだ。
そうなのだ!
遂にリンにもコマーシャルに起用されたのだ。
しかも全国放映である。
既に達也とスタッフは現地入りしているはずだった。
今日まで学校があったので、さすがに翔子と純菜はいない……はずだ。
トイレから出て、ビーチに向かう。
「おーい、達也さ~ん!」
気付いた達也が振り向く。
それに
「静香っちも久しぶり!」
そこには伊佐静香もいたのだった。
加えて。
リンは、自分を睨むように見ている娘に目を向けて
「あ~……誰だっけ」
見覚えはあるのだ。
睨んでいた娘は、ぎこちない愛想笑いを浮かべて
「藤堂美也子よ」
爆発しそうな怒りを抑えて名乗ったのだった。
みなさんは夏休み直前で、荷物をいっぱい持ち帰る派でしたか?
僕は凛みたいに計画的に持ち帰っていましたね。
さぁ、今回から夏休みに突入!
そろそろリンも全国展開です!




