68:時代劇を撮影しちゃう日
今回で時代劇篇はお仕舞。
チャンバラのシーンである。
物語の終盤、おおぜいの忍者に襲われるリン。
実はリンは異国のお姫様だったのだ。しかし、姫が戻っては困る政敵が、とある藩に大金を融通して、侍にリンを襲わせる。
そんなシーンだった。
「とりあえず。洋子ちゃんの役は、姫くんの護衛だ。そうだな……キミはネオ・お江戸でも忍者を演っていたようだから、そのままの忍者役にしよう。異国の姫を護るために雇われた、忍者。それがキミだ」
「わかりました!」
赤い忍者の服装に着替えた洋子が、不安を隠すように大きく応える。
「では、はじめます!」
リハーサルが始まった。
※リハーサルとは、撮影前の練習です。
襲いかかる侍たち。
怯えて縮こまるリン。
刀を振るう万代。
そして。
身軽に飛び跳ねながら、侍の背後をとって、刀で首を掻き切る洋子。
倒し方が地味だ。
それでいてリアルだ。
万代の分かりやすい迫力ある殺陣と、あまりにも際立っている。
だが、それが
「いい…とオレは思う」
カメラチェックをしていた万代は驚きながら言った。
対比、とでも言おうか。
大袈裟に敵を斬り伏せる万代と、地味に首を切ったり突いたりする洋子。
演劇的な万代の殺陣と、リアルに寄っている洋子の倒し方。
それぞれ両極端で、だからこそお互いを引き立てていた。
万代は会心の笑みを浮かべた。
「もうマンネリだなんて言わせねーぞ!」
「万ちゃん…」
ぼそりと正彦が呼びかけた。
ん? と万代は親友を見る。人前では『万代さん』と呼びかける正彦が『万ちゃん』などと呼ぶときは、仕事にこれ以上ないというほど集中している時だ。
「侍役のキャストさ、もっと集められないかな?」
「なんでだ?」
「勿体ないんだよ。万ちゃんとさ、あの娘が暴れるには、もっともっと斬られ役が欲しいんだ」
「…つまり?」
「素晴らしすぎて、もっともっと長くシーンを撮りたい」
万代が知る限りで最高のカメラマンからの、最高のお言葉だ。
ニヤニヤしてしまう万代である。
とはいえ、だ。
「そう言われてもな…」
ううん、と万代は唸った。
キャストは限られているのだ。
だから時代劇では、斬られた俳優がヨロヨロとカメラの撮影範囲から抜けて、再び何食わぬ顔で参戦する、という手法がとられている。
が。
「それは駄目」
正彦が面倒臭いことを言いだした。
「興ざめだもの」
万代にも、正彦の気持ちはわかる。
分かるけど、無い袖は振れないし、時間だってないのだ。
「忍者が、いるよ!」
そんなことを言ったのは、またしてもリンだった。
スタッフや俳優陣が『また、なにを言い出すのやら』と興味深げに面白そうにリンに注目する。
「忍者? どこにだ?」
「ほら、そこ!」
リンが指さした先には、確かにおおぜいの忍者がいた。
洋子のバイト仲間たちだ。
洋子が『暴れちゃう将軍』の撮影に参戦していると聞きつけて、おっとり刀で見学に駆け付けたのだ。
さすがに頭巾を脱いでいて、興奮している万代は気がつかなかったのだ。
「どうだい、正やん?」
「決まりだね」
万代と正彦は悪だくみをする子供みたいに笑った。
「頼むよ」
と万代が洋子に目をやれば、待ってましたとばかりに洋子は駆け足した。
「みんな!」
事情を話す。
ネオ・お江戸でキャストをしているようなバイトは、全員が全員とはまで言わないけど、大概が洋子と同じように俳優を目指している。
そんな連中が、忍者役で顔が隠れてしまうとはいえ、助太刀に否やがあろうはずもなかった。
「ありがとう、みんな!」
「いいってことよ」
洋子が同僚をぞろぞろと引き連れて戻る。
「バイト代は弾んでやるからな!」
万代が発破をかけて
「おーし!」
「やったりますよ!」
助太刀の忍者たちも気合いを入れたのだった。
本番の撮影がはじまる。
時間が迫っているので、リハーサルはなしの、いっぱつ本番だ!
「アクション!」
監督が合図して、助監督がカチンコを鳴らす。
まずはリハーサルと同じように侍が万代と洋子を襲う。
2人は目を瞠るような動きをした。
万代は若返ったみたいに躍動したし。
洋子は、そんな万代に引けを取らないほどに輝いた。
侍が全滅する。
続いて、忍者が襲い掛かる。
侍とは違って、跳ね飛びながらの攻撃だ。
万代が山のように重々しく刀を振るう。
洋子が疲れも見せずに、忍者たちと渡り合う。
そうして全ての敵を倒した、万代と洋子。
リンがよろよろと立ち上がる。
これで万代に抱き着いて、シーンは終わりである。
しかし。
立ち上がったリンに、陽子が刀を向けてしまった。
反射である。
ほとんどトランス状態だったのだ。
突きつけてしまってから、洋子は『しまった!』と思ったけど、もう遅い。
撮影は失敗。
もしくは、あとでリンが万代に抱き着く場面だけ別撮り。
でも、こうまで盛り上がっての別撮りだと、編集でつなげたところで白けてしまうだろうことは、洋子にも万代にも……そしてリンにも分かった。
だから。
リンは。
動揺で洋子の突き出した刀が震えている。
その刀の切っ先をリンは握った。
本物の刀ではないとはいえ、切っ先を強く強く握りしめたことで、血がポタポタとこぼれる。
リンはニッコリと笑って見せた。
「トモダチ」
カタコトの日本語で言う。
咄嗟だった。
思ったのだ。
姫である自分を守ってくれていた忍者。
実は姫の命を狙っていたのではないか?
だから、ここに来て姫に刀を突きつけた。
でも。
ずっと一緒だったのだ。
護ってくれていたのだ。
姫と忍者は何時しか『トモダチ』になっていて。
命を狙って刀を突きつけたものの、今、葛藤している。
そんなお話を、凛はつくったのだった。
刀をのけたリンは、気高さを感じられる佇まいでもって洋子に近づくと、抱き着いて、一転して子供のように泣き出した。
「姫さま…」
洋子の唇から自然とこぼれたセリフ。
洋子はリンを壊れ物を扱うように抱きしめて。
「カァットォオオオ!」
撮影が終わった。
「リンさん!」
大慌てで翔子や純菜や達也が駆け付けて、救急箱をもったスタッフがリンの手の平を消毒して、包帯を巻く。
「ごめんなさい」
と洋子は平謝りだ。
「いいんだよ、ボクが勝手にやったんだし」
怪我なんか時間が経てば治っちゃうから。
中身は男の子のリンなのだ。
切り傷くらいで騒いだりしないのだ。
「姫くん、ありゃ、どういった芝居だったんだ?」
万代が訊いて、リンは咄嗟に想像したお話のことを聞かせた。
「いいね、それ!」
大声を出したのは、脚本を書いた先生だった。
面白いことになってるよ。と連絡を受けて、わざわざ遣って来ていたのだ。
「なるほど、なるほど」
うんうんと脚本家の先生がうなる。
「本日の撮影、おしまいでーす!」
スタッフが言って、場の雰囲気が一気に弛緩した。
「よ~し! ちょっとばかり早いが、飲みに行くぞ!」
「ご馳になります!」
ということで、撮影は終わったのである。
後日。
脚本家の先生がおおきく手を加えたことで、今作は特別に2時間枠での放送となる。
そして8月になって放送されるや、すさまじい反響を呼んだ。
それまで『暴れちゃう将軍』を視聴していた老人層はもちろん、若い人たちも取り込むことに成功したのだ。
若年層が話題にしたのは、例のリンと洋子のシーンもだったが、他にもあった。
日本を発つ前に、お姫様が護衛をしてくれた忍者を騎士に任命する場面だ。
これは脚本家の先生が追加したものだったが、これが『カッコイイ!』と特に話題を呼んだ。
しかも、衝撃の事実があかされるのだ。
青い目をした忍者と、お姫様が、実は遠く先祖を同じくしているという設定だった。
先生、盛り過ぎ! である。
とはいえ、洋子はこの作品から世間に認知されるようになった。
夢を叶えたのである。
数か月後。
洋子のもとにハワイからビデオレターが届く。
そこには家族や親戚や、友達、それに
「おばあちゃん…」
が映っていて、洋子は涙をポロポロと流した。
「わたし、もっともっと頑張るからね」
ゆっくりと衰退しつつあった時代劇を救って、再び盛り上げることになる。
そんな女優の、若かりし頃の決意だった。
後半は、なんか端折り気味。
急いで書いたので、なんか無理がある気がしないでもない気がする、そんな感じ。
明日は投稿をお休みします。
楽しみにしてくれる人には、ごめんね。




