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62:ネオ・お江戸の日

時代劇の撮影といえば、京都。なかでも有名なのは、太秦うずまさ映画村だろう。

なんせ時代劇で見るような街並みがそのままオープンセットになっているのだから。


とはいえ。


京都はいいとこだけど、遠いんだよね。


誰かがぼやいた。


関東にも時代劇を撮影できるような場所があったらなぁ。


誰かが酒の席で言った。


時はバブルである。

誰かの他愛無い要求ともいえない言葉が、リアルになってしまうような時代である。

お金がじゃぶじゃぶ余っていたのだ!


「ということで! できたのが、ここ! ネオ・お江戸だ!」


運転していた車からおりた達也が、嬉しそうにネオ・お江戸の正面入り口の前で両手を広げる。


「そういうの、恥ずかしいんで止めてもらえます?」


達也に対しては当たりの強い純菜が冷めた表情で言う。


でも、純菜の言うことももっともだった。

ネオ・お江戸は太秦うずまさ映画村と同じくオープンセットで見学客も受け入れているのだ。

達也たちの他にも大勢の人がいるのだ。チラチラと見られているのだ。


「あ、はい」


ヘチョンと眉を下げて、達也は広げていた腕をさげた。


「純菜さん、年上の人にそんな口の利き方はいけませんよ」


でっかいサングラスをかけた女の人がそう注意をして


「はい、お姉さま」


純菜が塩垂れる。


そうなのだ! 純菜のお姉さんが一緒にいるのだ!

岬純菜、の姉である。

日本でナンバー1アイドルの姫宮若葉、その人が同行しているのだ。


姫宮若葉のことは、翔子だって、テレビをほとんど見ない凛だって知っている。

ので、緊張してお喋りをしてないだけで、ココに居るのだ。


今回、凛たちは時代劇の撮影の下見の為にネオ・お江戸へと足を運んでいた。

リンが新しく始まる時代劇のヒロイン役に抜擢されたのだ。


すべては七夕祭りに日にさかのぼる。

コシプロと、すっかり打ち解けたリン。

そんなリンを、コシプロの御大おんたいが非常に気に入ったのだ。


「あのを、こんどる時代劇のヒロイン役にするぞ!」


まさに鶴の一声。


御大おんたいは時代劇でその人ありとされるほどの人物だ。


日宝芸能の、万屋まんや金之丞きんのじょう

松梅芸能の、市國いちくに一夫かずお

そしてコシプロの月城つきしろ万代ばんだい


なのである。

逆らえる人なんていないのだ。


「あいかわらず達也さんは時代劇がお好きなんですね」


「いや~」


タハハ、と達也が照れ笑いをする。


では、もうひとつの疑問。

何故なにどうして若葉が同行しているのか?


またしても時間をさかのぼる。


「あ~、疲れましたわ」


アイドル業と社長業を兼任している若葉は多忙なのだ。

机の上にはドッサリと決済をまっている書類が積まれている。


そんな仕事の山をまえに、ついに若葉はやる気をなくしたのである。


「やってられね~ですわ」


なんて、はしたなく机に突っ伏してぼやいている。


そんな主人の様子をただ1人、見ているのが若葉専属の隠密にして純菜の隠密の母親だ。

ちなみに名前は未定である!

よかったら募集しちゃうぞ! 次に何時でるかは分からないけど。


で、名前未定の隠密は、仕事の一環として若葉を奮起させないといけない。

もちろん、長いこと仕えているからには、どういう言葉が効果があるのかもわきまえている。


言ったのだ。


「明日、神宮寺の坊ちゃんが、ネオ・お江戸へ行くそうです」


ピクリ、とうつぶせていた若葉の耳が動く。


「純菜さまと、そのご学友も同行するようなんですが」


「ズルイ!」


若葉が猛然と顔を上げた。


「純ちゃんだけ、ズッコイ!」


どうどう、と隠密の女性が両手で興奮する若葉をおさえて


「その一行に、若葉お嬢さまもついて行きたくはありませんか?」


「いきたいです!」


「では、わたくしが娘に言って都合はつけましょう」


「ありがとう!」


「では?」


「はい! 仕事します!」


猛然と若葉は文書の山にとりかかったのだ。


アイドル業は『風邪』でお休みである。

マネージャーは名前未定の隠密なので、どうとでもなってしまうのだ。


もちろん、あとあと1日の仕事量が増えるのだけど。

そんなことは若葉だって考慮の内だ。


そんなことよりも!

心の潤いが!

神宮寺達也成分が必要だったのである!


というような次第なのだ。


岬若葉はおっきなサングラスをかけて無表情を貫いている。

でも、心のなかは


『むっは! 運転する達也さんの横顔すてき! 助手席にいるわたしと恋人同士に見えちゃったりするのかな? というか? もしかして? 夫婦に見えちゃったり?! きゃーーー!』


盛り上がっていたのだ。


ここで影の薄い我らが主人公、凛である。


「若葉ちゃん、スッゴイ綺麗ね」


翔子にヒソヒソ声で耳打ちされて


「だね~」


なんて緊張している。


いちおう、リンといえばアイドル界のホープなのだけど…。

本人に自覚はとんと無いようだ。


凛、翔子、純菜、達也、若葉の5人、プラスすることのタックとチックは、ネオ・お江戸へと入場した。

日曜日ということもあって、なかなかに見学の人出がある。


「撮影は午後の1時からだ、それまでは遊びまくるぞ!」


子供のようにはしゃいでしまう達也である。


「「 おお! 」」


とここにきてテンションの上がってきた凛と翔子も賛同する。


「まずは、せっかくネオ・お江戸へと来たんだから、俺たちもネオ・お江戸の住人に相応しい恰好をしなければならない」


達也は言うと、ビシリと入場門ちかくの大きな建物を指さした。


「まずはあそこで、貸衣装を借りて扮装ふんそうしよう!」

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