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60:TSしまくっちゃう日

翔子は、今か今かとリンを待っていた。


ふと、右手側の喧騒のトーンが落ちたのが分かった。


来てくれた! と翔子は思う。


リンが来ると、誰もがその存在感に見惚れてしまうから、虫の音のする草むらに小石をほうったみたいに騒がしいのがピタリと止まるのだ。


思った通り。右手側から…


「あれ?」


翔子は首をひねった。


「リン…さん?」


自分の前まで遣って来た金髪の美少年に確認をする。


「だよ?」


と答えをもらって、翔子は今度こそ驚いた。


「どーしたんですか、その恰好?!」


「変…装?」


なんせリン自身も、どーしてこんな恰好をしているのか謎なのだ。


「ですよね、素のままのリンさんだったら、大騒ぎになっちゃいますもんね」


リンは光ヶ浜の街だと、ナンバーワン・アイドルの姫宮若葉に勝るとも劣らないほどの人気者なのだ。

我が街のアイドルなのだ。


「時間もないし、行こ」


リンは翔子の手を握った。


だって、純ちゃんのとこにも戻らないといけないのだから。


「ですね」


翔子がニッコリと笑う。


リンさんの仕事は18時から。色々と準備もあるだろうから、遊んでいられるのは1時間と少しだろう。


リンと翔子。

擦れ違いの思い違いである。


「まずは屋台で何か食べません? あたし、もうお腹がペコペコで」


「いいね、行こう!」


翔子はお好み焼きを買った。

リンは、来る前にタコ焼きと焼きそばを食べているので、カキ氷だ。


やっぱり、野っぱらに座って食べる。

ベンチは何処も埋まってしまっているのだ。


「おいひい!」


お好み焼きを口に入れて、翔子はほっぺたを押さえた。


そんな翔子をリンはニコニコと見る。


「ほんとにお腹ペコペコだったんだね」


「そりゃ、そうですよ。朝から仕事させられて、食べる時間なんてほとんどないんですから」


これでボランティアである。

とはいえ、報酬はある。ボランティア活動の参加者は屋台で食べ放題なのだ。


「七夕道中の誘導もやってたもんね」


「あら」と翔子はお口の中のものをゴックンしてから言った。

「見てたんですか?」


「見てたよ。というか、声もかけたよ」


もちろんリンではなく、凛として声をかけたことを言っているのだ。


口を滑らせる凛に、帯に隠れていたタックとチックは「このお馬鹿!」と騒ぎたいのを我慢しなければならなかった。帰ったら説教だ! 1時間コースですわね!


ここに凛の気づかないうちにタックとチックによるガチ説教が決定したのである。


「え~、聞き逃しちゃったみたいです」


と翔子が言ったときだ。


リンの帯から『ペレレ、ペレレ』とポケベルの呼び出し音が鳴った。


「たぶん、達也さんからだ」


ポケベルを取り出して、確認する……フリをする。


実は連絡なんて来てないのだ。呼び出し音はタックの声真似なのである!


どうして、こんなことをするのか?

それは


「ごめん、ちょっと達也さんに電話してくるね。翔子さんはココで待ってて」


言い置いて、スタコラと走る。


これが! これこそが!

チックの天才的な頭脳が考えだした、リンのときは達也に呼び出されたフリをしよう! 作戦なのだ。


屋台のゴミ捨て場の前で、残っていたカキ氷を一気に食べる。

頭がキーンとしちゃうけど、溶かして捨てるのは勿体ない。


「急げや急げ!」


「おおいに焦りなさい!」


2匹のハムスターに急かされて


「ヘイ!」


魔法の口紅をステッキにして、変身だ。


くるくるくるり~ん、のちょいぱっぱ。


リンは凛へと戻った。


「どう?」


と訊けば


「「 戻ってる!」 ますわ!」


とのことなので、凛は純菜のもとへとダッシュした。


純菜は、あの場所で待っていてくれた。


「ごめん、純ちゃん! トイレに行ってたから」


「お腹の調子が悪いんですか?」


放っぽっておかれたことを怒りもしない純菜である。


「ちょっとだけね」


「でしたら、家に帰ったほうが」


「ううん、平気、ぜんぜん平気だから」


行こ! と凛は純菜の手を取った。


純菜は凛のお腹のことを心配してくれたのだろう。

屋台で食べ物はもう食べずに、盆踊りに誘った。


ちょうど炭坑節たんこうぶしが終わったところだ。

炭坑節といってもピンとこないかも知れない。なら『月が~でったでぇた、月が~でぇた~ヨイヨイ』と書いたら、ああ! と思ってもらえるだろうか。


お次はドラ〇もん音頭だ。


おいおい、なんでド〇えもん音頭だよ? そう思う読者の方もおられるだろう。定番は『ち〇まる子音頭』だろ? いやいや『ポ〇モン音頭』だろうがよ! そう言いたいかもしれません。

ですが! ちび〇る子音頭もポケ〇ン音頭も、残念ながらバブルの後なのだ!


凛と純菜は、2人して踊った。


体育の授業で初等部1年生のときから盆踊りを習うので、2人とも堂に入ったものだ。


ひょっこらひょっこら、ひょっこらしょ。

ひょっこらひょっこら、ひょっこらしょ!


大山のぶ代さんの声の音頭が終わったところで


グ~ギュルルルル


周りの人が振り向くほどの音が、凛のお腹から鳴った。


「ごめん、純ちゃん。トイレ行ってくる」


断って、ダッシュである。


もちろん、お腹の音は偽音だ。例によってタックが声真似をしたのである。


これこそが! 奇才チックの考えだした作戦ナンバー2だった。

題して『凛のときはトイレに行こう作戦』である。


ハッキリ言って、超絶カッコ悪い。

百年の恋も冷める。


でも、凛に選択肢はないのだ。


ダッシュして、良きところで「ヘイ!」魔法の口紅をステッキに。

ペペッチ、ポポッチ、レレンチカ。ポポッチ、ペペッチ、レレンチカ!

凛からリンに、TSだ。


「どう?」


「「 OK! 」」


とのことなので、リンは翔子のいる場所へと走ったのだ。



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