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57:出歯亀な日

今日は、あっさり風味。

短いとも言います…。ごめんね。

「オッス」


「お久ですわ」


タックとチックは妖精王を相手に畏まったところがない。


実は妖精王。

…自称なのだ。

みんなから王に選ばれたとかそんなんじゃないのだ。


とはいえドリームワールドの住人のなかで随一の実力者であることは間違いない。

なので、誰も異議を唱えていないというだけだったりする。


言っちゃえば。

本人が王をやりたいと言ってるんだから、面倒ごとを押し付けちゃおうぜ!

そんな感じなのだ。


だから、タックとチックも敬意のケの字も払ってない。


でも、凛は違う。


「ご無沙汰してます」


宇宙人にそっくりな妖精王に両親が使っているのを聞きかじった言葉で挨拶をする。

姿勢は『気をつけ!』だ。


凛は2匹と違って、妖精王にたいして敬意をしっかりと払っているのだ。

だって、魔法をもらって翔姉えを助けてもらった恩人だからね。


そんな凛の態度に「ふむふむ」と妖精王はご満悦である。


「なにしに来たんだ、妖精王?」


「用がありますの? 妖精王?」


凛の打って変わった態度が気にいらないタックとチックが『妖精王』とわざわざ強調して口にするけど


「あ~、それそれ」


と妖精王は気にした素振りもない。

人間でいうところの空気が読めない奴なのだ。よく言えば、うつわがデカいともいえる。


「凛くんさ、頑張ってくれてるから、プレゼントをあげようと思ってさ」


「プレゼント?」


「そ」


うなずくと妖精王は指を1本立てた。


「妖精王がガイドする、嬉し楽しのドリームワールド旅行」


それか、ともう1本指を立てる。


「1日限定だけども、変身するのを見られても認識されない魔法」


どや!


と妖精王が胸をはる。


「じゃあ…ドリームワールドの旅行」


と凛が言った時だ。


「「「 ちッがーう! 」」」


タックとチックと妖精王が一斉に突っ込みを入れた。


「よっく考えるんだ!」


「あーた、今悩んでたでしょうが!」


「そーいうとこ! そーいうとこだよ凛くんの悪いとこ!」


なんか怒られてるっぽい。


どうにもぼんやりしている凛に、痺れを切らした妖精王が言った。


「変身するとこをね、誰に見られてもね、へっちゃらな魔法をあげるって言ってるんだよ? 凛くん、困ってるんでしょ? 女の子2人とデートしなくちゃいけないんでしょ?」


とまで言われて、さすがの凛も理解した。


「あ、そーか!」


手の平にコブシを落とす。


分かって欲しい。凛は決してアホの子じゃないのだ。

勉強だって、平均ぐらいにはできる。この忙しいのにわら半紙の漢字テストで75点を取れちゃうくらいなのだ。

ただ。ただ……ちょこびっと抜けてるのだ。


「分かってくれたみたいだね」


妖精王はひと仕事を終えたとばかりに、掻いてもいない額の汗をぬぐう仕草をする。


つまり、である。

凛は純菜とデートをしつつ、リンとして翔子ともデートをしなければならない。

ハッキリ言って、不可能だ。

だって、リンに変身するところや、凛に戻るところを目撃されちゃうのは100パーセント確実だもの。

けれど、妖精王の1日魔法があれば、この前提がくつがえる。

変身するところを目撃されてもへっちゃらなのだ。いちいちトイレで変身しなくても良くなっちゃうのだ。

好きな時に、好きな場所で、変身できちゃうのである。


無敵じゃないか! と凛は思った。

ひげづらの配管工オジサンがスターを取ったようなもんだ。


「さっきのなしで! 1日限定の魔法をお願いします!」


「ほいきた!」


妖精王が立てた指をくるくる回して「ほいさ」と凛に向かって突きつけた。


凛のポッケにいれていた魔法の口紅が淡く輝く。


「これでOKだよ」


これで妖精王の威厳はいっそう高まったのだ。


とは、問屋が卸されない。


「ていうかさ、妖精王?」


出歯でば亀してるんじゃありませんの、妖精王?」


タックとチックの鋭い指摘である。


そうなのだ!

実は妖精王、凛の行動をドリームワールドで盗み見ていたのである。

今回、都合よく現れたのも、ちょうど凛の様子を出歯亀していたからこそだった。


う~ん……アウト!

レッドカードものである!


妖精王は聞こえなかったとばかりに凛を向くと


「これからも頑張ってね」


さっさとトンズラしたのだった。


残された凛は


「出歯亀ってなに?」


ハムスターたちに訊いた。


タックとチックは顔を見合わせる。


知識は必要だけど、知らない方が幸せなことだってある。


「君は知らなくてもいいことだよ」


「そうそう、知らなくても問題ありませんわ」


そう言われたら、凛はおとなしく引き下がった。


明日にでも正彦かむつみに教えてもらうつもりだったのだ。


しかし、そこは凛である。

1日ぐっすり寝てしまうと、翌日にはケロリと忘れていたのだった。

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