53:お邪魔をする藤堂美也子の日
藤堂美也子が居合わせたのはまったくの偶然だった。
というよりも。何処の事務所にでも1人はいる「こいつ、どうして入社できたんだ?」というようなヘッポコ・マネージャーが撮影の日にちを間違えて、ココに来ていたのだった。
ちなみに。そのヘッポコなマネージャーは美也子の後ろでちいさくなっている。10歳も年下の美也子に、めっちゃ叱られたのだ。
偶然居合わせた美也子は、ず~と、ず~と、天全にダメだしをされるリンを満足げに眺めて、満を持して発言したのである。
「あんたは?」
天全が美也子を見る。
「ムーン・ミュージック所属の藤堂美也子で~す」
猫どころか虎並みの分厚い愛想の仮面をかぶる美也子である。ケーキみたいに甘やか。そのキャッチフレーズに恥じない、さっきリンを見ていた時とはぜんッぜん違うスマイルも0円でお付けしている。
男性スタッフは惹き込まれるみたいにニッコリ。
怒鳴られるリンに対して居たたまれないような気持になっていただけに、美也子の笑顔は清涼剤だった。
もっとも女性スタッフは別だ。前回も言ったけど、美也子の笑顔は男性にしか効き目がない。むしろ女性に対してはあざとすぎて逆効果なのだ。
もっとも美也子はそんなもの屁の河童である。むしろ内心では『負け犬が!』なんて嘲笑っているぐらいなのだ。
うん、こりゃ同性の友達はいないね!
「ああ、ムーン・ミュージックの…」
天全がジロリと美也子を観る。
「脱いでみろ」
いきなりのセクハラ発言である。
しかし美也子は動じなかった。
パサリ、と上着をぬいで床に放った。
「ちょ、ちょっと美也子さん?!」
マネージャーがあわあわする。
美也子は焦らすみたいに服を脱いで、下着だけになった。
15歳である。スタッフには男性だっているのだ。
なんたる度胸!
クソ度胸!
藤堂美也子は伊達や酔狂でアイドルになったわけじゃないのだ。『てっぺん取ったる!』その意気はホンモノなのである。
下着姿になった美也子は、恥ずかし気に俯いてみせた。
…演技である。
本音をいえば『わたしを見るがいい、この有象無象どもが!』て感じだ。なんせ写真撮影のために、運動をして、食事制限をして、美也子がいうところの生唾ゴクリもののボディをつくりあげてきたのだ。
なんやかんやで藤堂美也子は努力の人なのである。
リンを見て、美也子は内心で嗤う。あんな色気もへったくれもない中1みたいな体とは違うって~の!
…ちょ~と性格は捻くれているけれども。
「いいだろう」天全はうなずいた。
「予定を変更だ。藤堂美也子の撮影に移行するぞ!」
「はい!」
スタッフが返事をする。
「待ってください!」と言ったのは達也だ。
「リンの撮影はどうなるんですか?」
「どうもこうも、俺はもう知らん」
「そんな、困ります」
「知らん、知らん! 出てってくれ。これ以上、付きまとうなら警備員を呼ぶぞ」
取り付く島もない。
結局、リンたち4人は天全のスタジオを追い出されてしまった。
「参った…」
休憩がてらの喫茶店にはいって、達也は溜め息を吐いた。
ほんとは頭を抱えたいところだけど、そこは3人の女の子の手前、我慢をする。
「ごめんなさい」
リンは謝った。今までずっと芸能活動は順調だった。どうにかなった。初めての失敗なのだ。
「いや、謝るのは俺のほうだ。そもそも、天全の指向とリンとでは合わなかったんだ。そんなこと、ちょっと考えれば分かることだったってのに」
目の前の楽観に貪りついてしまった。
「そうですよ、悪いのはあのおっさんなんですから。リンさんが気にすることないんです!」
翔子は苛々していた。
漫画の編集者から言われたダメだし。数日前に会ったカメラマン親子のお父さんのほうの口汚い罵り。そして天全の傍若無人なまでのリンへの指示。そんなものが一緒くたになってしまって、どうしようもなく苛々していたのだ。
オーダーした品物がテーブルに載せられる。
紅茶を飲んで『セイロンのキャンディね』と種類を判別しながら、純菜は言った。
「達也さん、どうします?」
むろん、天全への報復……ではない。確かに天全にはムカついていたけども、MISAKIグループの力を使うのは筋が違うと理解している純菜なのである。
だから『どうします?』というのは天全に代わる写真家のことだ。
「正直、むずかしい。天全は性格は問題ありでも優秀なカメラマンだ。そんな彼が、その…言っては何だが突き放したリンを被写体にしようなんてのは、見つからないだろう」
沈黙がおちる。
「あの」とリンがおずおずと手を顔の横にまで上げた。
「写真を撮ってくれそうな人に心当たりが…あるんですけど」
「ホントかい? その人の名前は?」
「篠原梢さん、て言います」
ということで、お久しぶりな美也子でした。
天全の行動は、まぁ無理がありますね。
実際にはカメラマンが一方的に撮影を切るとかないでしょう。
契約とかいろいろあるでしょうし。
でも、そこはフィックションということでお許しください。




