51:カメラマンの日
ゴロゴロとキャリーバッグを翔子と純菜が2人がかりで引っ張る。
それほどにバッグは重かった。
凛は、女の人……篠原梢が何時転んでも補助できるようにと侍っている。
常に広げた両手を梢のほうに向けていて「ハンド・パ〇ーです!」とマジシャンのミスタークリックの物真似をしているようにも見える。
「今、何時だかわかる?」
梢が訊いた。
「14時30ぐらいです」
腕時計をみて、純菜が答える。
聞いて「マズ!」梢が顔をしかめた。
「ごめん、みんな! スピードアップお願い!」
えっほ、えっほ。と梢が小走りになる。
凛と翔子と純菜もゴロゴロガラガラ、キャリーバッグを引いて並走するのだった。
ほどなく、梢は目的の場所に辿り着いた。
「おッせーぞ!」
中年の男の人の怒声がとどろいた。
「すみません!」
大慌てに梢は駆け寄ると、荷物をおろした。
そこには中年の男の人の他に、男の人が1人と、そして何故だか水着の若い女の人が5人いた。
「そいつらは、なんだ?!」
ギロリと睨まれて、凛たちは思わず気をつけの姿勢になってしまう。
「荷物を運ぶのを手伝ってもらいました」
「こぉんの! 馬鹿たれがぁ!」
ズガーン! と雷が落ちた。
ひゃ! と怒られたわけじゃない凛たちが思わず首を竦めてしまうほどだ。
「カメラはカメラマンの命だろうが! それを他人にあずけるとは何考えてやがんだ!」
「すみません!」
「いいから、お前は撮影の準備をしておけ!」
「はい!」
ノッシノッシと中年の男の人が歩いてくる。
凛は翔子と純菜を庇うみたいに前に出ると、映画でみたケンポーの構えをした。
ふん、と中年の男の人が鼻を鳴らす。
「うちの馬鹿が世話になったみたいだな」
お財布を取り出して、お札を差し出してくる。
「いらないよ!」
凛は構えを解いて言った。
「はぁ? 欲しくないのか?」
「欲しいに決まってるじゃん」
テレビゲームのカセットだって買いたいし、古くなったサッカーボールだって新調したい。
「けど、お金のために手伝ったんじゃないもん」
「なら、なんであんな重いもの運んだんだ?」
「困ってたからだよ」
うんうん、と翔子と純菜がうなずく。
「そうです、あたし達、お金の為に手伝ったんじゃありません」
「凛くん、ホント好い子ですわ~」
純菜が的外れなことを言っているけど、慣れたものなので凛はスルーである。
ニッと中年の男の人は笑った。
「金金金の世の中で、なんとまぁ。おい、あんちゃん!」
と中年の男の人は、手持無沙汰そうな30歳前後の男の人を振り向いた。
「聞いたかよ?」
「世の中は金ですよ」男の人は苦々し気に言うと
「それよりも撮影が遅れた分は、報酬から引かせてもらいますからね」
「か~、これだよ。鹿野のヤローには絶対にそんなこと言わねぇくせしやがって」
「そりゃ、鹿野先生は格が違いますからね」
「言ってくれる」
今度は中年の男の人が苦い顔をして言う。
それから、凛たちを振り向いた。
「悪ぃこと言っちまったな。俺は篠原平太ッてーんだ」
「篠原?」
凛はリュックから三脚やらレフ板やらを取り出している梢をみた。
「あの馬鹿は俺の娘だ」
「似てない」
思わず呟いてしまう凛である。
平太は笑った。厳つい顔立ちのうえに、笑うと『悪だくみをしている』ような感じになってしまう彼であるけど、本人は普通に笑っている積もりなのだ。
「母ちゃんに似たからな、あいつは」
ここで常識をわきまえている人なら、なんと返答していいのか困るだろう。困った末にダンマリを選択するだろう。
でも、凛は違うのだ。
「似ないでよかったね」
満面の笑みで悪気なく言ってしまうのだ。
この頃にはもう、凛は平太に対しての恐い人という印象をなくしていた。
こういった感じの人は、アイドルのお仕事で何人か知っているのだ。
とはいえ、だ。
10歳にして、日本人の機微を理解してない凛は……ちょっと、その…むつみには教育を頑張って欲しいものである。
平太はきょとんとしたあと。
ガハハハ、と大声で笑った。
「お前、面白いな!」
「お前じゃないよ、干原凛だよ。そんで、コッチが」
と後ろを振り返って促すけど、2人の女の子はまだ平太が恐いみたいで
「翔子です」
「純菜です」
と言葉少なに自己紹介するだけだった。
「準備、できました!」
梢が言って
「おう!」
平太は片手をあげた。
「あの、プロのカメラマンなんですよね?」
ここで純菜が思い切ったように訊いた。
「まぁな」
「でしたら、撮影を見学させてもらっていいでしょうか?」
「興味あるのか?」
「はい!」
純菜が返事して、そのことに凛も翔子もちょっと驚いた。
こうまで純菜がカメラに対して本気だとは思っていなかったのだ。
「いいぜ、けど邪魔はするなよ」
平太はOKしてくれたのだった。
6/27 牟田を鹿野に変更




